実は僕がぶん投げました〜伝説の英雄、その正体はただの臆病者でした〜

@hepu

英雄、爆誕

第1話 プロローグ

朝の光が、石畳の道を優しく照らしている。

街の目覚めを告げるのは、パン屋から漂ってくる香ばしい匂いと、鍛冶屋から聞こえる規則的な槌の音だ。


セリアの街は、どこを切り取っても平和そのものだった。

広場では子どもたちが木製の剣を振り回している。

少し離れたベンチでは、老人が日向ぼっこをしながら、楽しそうに笑う子どもたちを穏やかな目で見守っている。

カフェのテラス席では、人々が優雅にハーブティーを飲み、新聞を広げていた。記事の見出しは「今年の収穫、過去最高」「領主様、新しい庭園を計画」など、穏やかな話題ばかり。


タロウはそんな光景を眺めながら、パン屋で買った焼きたてのパンを頬張っていた。 彼がパンを放り投げるとふわりと浮き上がり口の中に完璧に収まった。

それを見た誰かが「ずいぶん器用だね」と声をかけると、タロウはただ微笑んで頷いた。


冒険者ギルドへと向かう道すがら、 ひっきりなしに出入りする冒険者たちを避けつつ、ギルドの掲示板へとたどり着いた。

ギルドは古びた木材の匂いと、男たちの熱気に満ちていた。

そこには、日々の細やかな依頼が所狭しと貼られていた。


「『薬草採取』に『迷子の猫探し』と、他は…うーんどうするかな」


モンスター討伐の依頼はない。

あったとしてもどこかのパーティーが受けた後だろう。

長らく平和なこの街ではモンスターに関連する依頼はまれであった。


(かといってわざわざ森の奥まで行ってモンスターを相手にしたいわけでもないし…薬草採取でもするか…?)


その時だった。



カーン!カーン!カーン!



町中に、けたたましい鐘の音が響き渡る。



それは、滅多に聞くことのない、緊急事態を知らせる鐘の音だった。

ギルドにいた誰もが動きを止め、外から聞こえる悲鳴と怒号に耳を澄ませる。


「モンスターだ! モンスターの群れが町に近づいてるぞ!」


そう叫びながら飛び込んできた冒険者を一瞥すると、ギルドにいた冒険者たちは一斉に、広場へと走り出した。


タロウは一瞬、呆然としたが、すぐに気を取り直して広場へと急ぐ。


平和な街に突如として訪れた危機に、彼の心臓がドクンと音を立てた。

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