第17話 兄と妹は運命的な再会を果たした
「――これは一体どうなっているんだ!?」
部屋の中をさっと見渡したところ、シモンは頭が混乱して目の前で起こっている現実が理解できなかった。
愛する妹のイリスを裏切った張本人の夫であるレオナルドを許せなくて、会ったら直ぐに気合いを入れて殴ってやろうと思っていた。
それなのに義弟のレオナルドは不気味な悲鳴を時折あげて、騒がしく派手に動いてぴょんぴょん飛び跳ねている。シモンはレオナルドを見ながら壊れた玩具だと感じた。
「シモンお兄様!」
驚いた顔で置き物みたいに固まって動かなかった兄を見てイリスは気軽に声をかけた。
「イリス怪我はないか? 体に痛いところがあれば一瞬で治すからね」
するとシモンは、はっと我に返るとイリスのほうを向いて赤ん坊のように純真な笑顔になり小走りに近づいてきた。本当は全力で走りたかったですが、これまでの肉体的な疲労によって足が棒になっていた。
シモンはイリスを両腕で強く抱きしめた。色んな形で何度か抱きしめると、心配した様子で顔を覗き込んでイリスに体の故障はないか? 大丈夫? と優しく声をかけた。
実は三日前にも兄は妹に会いに来たのに、生き別れの対面みたいに感じさせる。
「どこにも負傷はございませんので大丈夫です」
「そうか良かった。本当に心配したよ」
薄い緑の瞳が揺れイリスの透き通るような白い肌には傷はなかった。ほっと胸を撫で下ろしたシモンだったが最初から傷一つ負うはずがない。
イリスが日常生活を安心して過ごせるように危険から守るために、シモンはイリスの体の表面に強力な保護魔法を幾重にも重ねがけしている。
「お兄様、お気遣いいただきありがとうございます」
イリスは極めて上品な物腰でお礼を言った。その姿を見てシモンは感慨深そうな顔をして、苦労の末に妹と巡り合ったことも相まって幸せに似た感動が押し寄せてくる。
シモンは自然にイリスの体を抱き寄せるとキスを交わした。数分間という長く熱烈なキスを交わす兄妹。
おっとりした顔にあどけない顔をしている美人の部類に入る多くのメイドたちは、視線を外さないように見てムラムラと変な気になり、下腹を熱くさせて欲求不満な状態でじっと見つめていた。
しばらくうっとりして眺めていたメイドたちは、微かに顔を赤らめる奥様の幸福そうな横顔を見て嬉しさが爆発した。メイドたちは誰彼ともなく抱き合い始め全員で喜びを共有する。
「――イリスにもしもの事があったら私はレオナルドの伯爵領を世界から消滅させていた」
シモンは伯爵邸の中を妹が無事であることを願いながら、イリスを求めてさまよい歩いた。方向音痴のため道に迷い過ぎて、眼にはうっすらと涙を浮かべて泣きそうだった。
この世にたった一人の妹で自分の命より数倍いや無限に大切な存在。そのイリスに不測の事態が起きてしまったら、シモンは間違いなくレオナルドの伯爵領は更地にして世界地図から消え去っていたと平然と答える。
「それはとても恐ろしいですね」
こいつは本気で言っている。イリスは兄が人並み外れた自然魔法の使い手だと分かっているので、冗談に聞こえなくて気後れを感じて冷や汗をかく。
「私の一番大切な宝物のイリスがいなくなったら当然のことさ」
シモンの中では妹の命は伯爵領に住む数万人の命よりも重く、イリス一人と世界中の人々の命を天秤にかけても圧倒的な差でイリスに傾く頭になっていました。
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