第3話 テング酒場

 皆と合流し時間になると、美術館から居酒屋まで集団を作って櫻(さくら)の咲いている東京・六本木の街を練り歩く……。




 何事も無く店に着くと、皆は好きな席に詰めて座った。 私は聖美(きよみ)の右隣に座り、左隣には先程の髙橋さんが素早く割って入った。 皆でお酒を呑んで喋っている間、私たちは楽しい時間を共に過ごした。 特に、髙橋さんと聖美は仲が良いように見えた。 髙橋さんは普段あまり酒を呑まない聖美を労るように甲斐甲斐しくお世話をなさった。 その為気のせいだろうか、私には彼らがひどく出来上がっている様にも見えた。 しかし、あまり変なことを想像したくもなかった。 髙橋さんの真正面に座っている(仮名)荒川・三好(あらかわ・みよし)さんが髙橋さんに話し掛けた。


「しかし、髙橋さんは羨ましいなあ、お綺麗でしかも気立ての良い素敵な奥様と、可愛くてお優しい息子さんに恵まれて」

「それで、共働きで家庭を支えながら、あんな良い作品を描いている訳でしょ!?」

「……髙橋さん、あなたは素晴らしい男性だ」


「いよ、立派、立派!」


「理想の絵描き!」


 髙橋さんは、照れ笑いをしながらも、


「いやいや、そんな大したことはないよ」


と、両の手の平を振った。 聖美もそんな素敵な髙橋さんの横顔に見惚れていると、髙橋さんは上の方で振っていた両手を下ろし、おもむろにテーブルの下でその右手を差し出し、聖美の左の手を優しく握った……。 ほんの一瞬の事だった。 皆は他人の手元なんていちいち見てはいない。 私はたまたま見えてしまったので思わずぎょっとした……。


 ……気持ち悪い。


 それと同時に早く聖美をこの漢(おとこ)から引き離さなければ、と思った。




 夜七時になった。 遠い所からいらっしゃっている方も居る為、一旦会計を締めて呑み会は一時お開きとなった。 五百戸(いおこ)さん始め遠くからの人達は続々と席を立った。 私も聖美を連れて、明日からまた仕事ですからと理由を付けて帰ろうとした。


 すると、


「待って!」


と、髙橋さん。


「〇〇さん、貴女強いだろ!?」

「もう少し付き合ってよ〜!」


と、荒川さんと一緒になって無理に私達を引き止める。 あまり強いて止めるので、私達はそこで後もう一時間、付き合う事になった。




 四人とも夜八時を過ぎたあたりで出来上がっていた。 すっかり良い気分。 夢見心地。 流石(さすが)に皆、家庭があるから帰ろうかという事になった。

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