ぽっちゃりな俺と新人神様 ――幸運と不運で民を救う

ゲンタ

第1話 神務室配属、世界ひとつ丸ごと担当!?

先輩神様の“神務室”には、担当する世界のリアルタイム映像が、宙に浮かぶ透明な光の板のようにいくつも広がっていた。

それらは“世界モニター”と呼ばれ、選択された人々の営みが次々と映し出されている。


ここは別名、“神の仕事部屋”。

神々がそれぞれの持ち場にこもり、世界の行く末を監視し、管理し続ける――まるで会社員が果てしなくデスクワークをこなすような空間だ。


神となった者たちは皆、割り当てられた神務室に籠もり、昼夜を問わず担当する世界を管理し続けている。


いったい誰が、こんなにも多くの世界を作ったのか――文句のひとつも言いたくなる。


だが、現実として管理すべき世界は山ほどあり、必然的にそれを見守る神々も数多く必要となるのだ。


現在は、深刻な人手不足ならぬ、“神の手不足”の状態。

それでも神々は善良な者ばかりだ。誰ひとり文句を口にすることなく、デスクに張りついている。


まるで残業をこなす会社員のように、ひたすら仕事を続けていた。


俺は、まだ神になったばかりの見習いだ。神の手不足によりどこかからスカウトされてきたらしい。当然ながら、前世の記憶は消されている。


(大丈夫か? この神様の職場……怪しくないか……?)


俺は、先輩神様の横に立ち、神務室の機器の扱い方について教わっている。

先輩は自分の担当世界の管理で忙しいはずなのに、嫌な顔ひとつせず、丁寧に説明してくれる。


(ほんと、いい人……! いや、いい神だ……)


早く覚えて、少しでも先輩の業務に負担をかけないようにしないといけないのだが、神務室に備わった機能が多すぎるのだ。

説明を、聞いても、聞いても、まだあるの……といいたいくらい……説明が続く。


(ごめんなさい。途中から頭の中を、音が通過するだけになってます……!)


「ヴェリル君。これで神の研修は終わりだ。さっそく、自分専用の神務室で、担当する世界の管理に取り組んでもらいたい。目標はシンプルだ。担当する世界の民の幸福度を向上させればいい。しっかり頼むよ!」


(……え、これで研修終わりなの?)


神務室の機器操作の説明しか聞いてないけど! 業務に関する説明が始まったら、本気出すつもりだったのだが……。


(まずいじゃない……この状況!)


「はい、頑張ります……。ところで……神務室の操作マニュアルはあるのですか?」


「部屋においてあるよ。一回説明されただけじゃ、覚えられないよね……」


先輩の爽やかな声を聞いていると、何となく安心してしまう。不思議だよな!

(でも……民の幸福度を上げればいいって……どうやって……?)


「それと……『住民のステータス』と唱えると、担当している世界の地域別、種族別の幸福度一覧が表示されるからね。たとえば……ほら、これは私の担当している世界のものだけど。どの地域も幸福度が高いだろう? こういう状態になればいいから」


(げ、数値まで出てくる! ……誤魔化せないじゃないか!)


「……確かに、幸福度が高いですね。具体的に、神務室の装置で……何をすればいいのですか?」


「いい質問だね……。まず我々神は、民に直接的な支援はできないのはわかっているよね」

「……例えば、支援すべきと判断した者に対して、食料、お金などを直接与えたりすることは禁じられているし、特定の人や地域ばかりに支援がかたよることもダメだよ」


「なるほど……渡されたルールブックに書いてあったような……」


「ちゃんと書いてあるよ!」

「……世界モニタを使って満遍なく世界を見渡しながら、支援すべき人を見つけて支援する。そういう小さな支援を積み重ねながら、世界全体の幸福度を上げていくんだよ」


「支援すべき人というのは、神が決めるのですか」


「いい質問だ……その人を支援することで、より多くの人が幸せになるような人を選ぶんだよ。世界モニターを使って、観察、観察、観察だ。それに尽きるな。そのうちノウハウが蓄積されると思うよ」


「じゃあ、ヴェリル君の神務室に案内しようか」


「はい、わかりました」


***


先輩に案内されて、自分専用の神務室に到着する。

ドアには「ヴェリル」と書かれたネームプレートが貼られている。


(来てしまったか……!)

部屋の中に入ると、先輩の部屋と同じ作りの部屋があった。


「ヴェリル君、仕組みは、私の部屋と同じだからね。安心して! でもね……担当する世界の数が増えると、自動的に部屋が広がっていくよ。面白いだろ」


(面白くないし、部屋も広くなってほしくない……!)


「神務室の仕組みや使い方は、マニュアル見ながらやっていれば、すぐに慣れるからね。それと、この部屋と担当する世界はすでに接続済みになっているからね。今すぐにでも始められるからね」


「はい、わかりました」


先輩は、『研修は終わったから、後は自分でやってね』という雰囲気をまとって出て行こうとする。笑顔は爽やかだ。


「ちょっ、ま、待ってください!」


「どうした? 急に心配になったのか?」


「そ、その通りです! いきなり世界一つをまるごと担当するなんて……自分にはできる気がしません!」


「まあ、何事も経験だからね。やっていれば自然に慣れるさ」


これって……『ひと通り説明はしたから、あとは自分でやってね。大丈夫だよ、大丈夫ってパターン』だよね! 


(でも先輩も忙しそうだし、これ以上言えないな……)


「じゃあこれで失礼するよ」


(忙しそうにして……いっちゃったよ……)

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