第五話……色々危なすぎる!

「うゎ、わ……」


 私が悲鳴を上げる間もなく、ラピスが間に入り、片手で剣を受け止めてくれた。実際には、硬い牙か爪で止めたのだろうか。

 しかし、女化物の後ろにいた、お付きらしい二人の化物が、魔法の詠唱のような素振りを見せている。


「それ魔法か⁉️ 魔法は、やめろ! コイツがどうなってもいいのか⁉️」


 たすくは私を指差して、人質を取った犯人のようなセリフを吐いた。


「ちょっと! 私に拷問を受けさせる気⁉️」

「そんなこと言ってる場合じゃないだろ! ほら、魔法が! ……って、本当にやめてくれたみたいだ……」

「あなた達、何してるの! いいから魔法を撃ちなさい!」

「い、いえ、それが……。急に魔力が溜められなくなりまして……」

「同じく……」


「え、何? 何か特別なことを言ったわけでもないのに、どういうこと?」

「分からない……。それより、ラピスの邪魔になるぞ。端に避けよう!」

「待ってください!」


 ラピスの左手に剣を止められながら、ジリジリと後退りで近づいてきて、私達にしか聞こえない程度の声量で呼び止めた女剣士。


「私がこの虎にやられたフリをします。その間に逃げてください。なんなら、そのまま殺してもらってもかまいません」

「な、何を言って……」

「ダメだ! そんなこと!」


「じゃあ、殺さなくていいですから、逃げてください!」

「……」

「逃げてどうなるって言うんだよ! それに、ラピスは君よりも強い。逃げる必要はないんだ。それは、余計なお世話、おせっかいとも言う!」


「そっくりそのまま、お返ししたいですが、その前に気になることが……。先程から『ラピス』と呼んでいますが……『ラプス』ではなく……? この虎が『吟遊詩人』なんですか?」

「え、どういうこと?」

「……。よし、分かった。フリだけ君の言う通りにしよう。話はそれからだ。ラピス、何とかやってみてくれ」

「うん、分かった!」

「もし私の言葉が通じるのであれば……」


 女剣士はラピスに話しかけ、リアルタイムに打ち合わせと、まさにハイレベルの殺陣を行いながら、私達から自然に離れて行った。

 残りの化物三体に目をやると、その内のお付きの二体がいなくなっていることに気付いた。


「たすく! 二人いないよ!」

「大丈夫だ。左右の森に隠れているだけだ。位置は把握できているが、魔法を撃てるようになったみたいだな。だが、やはりと言うか、何となく戦い慣れしているな」

「『たすく』って、何ですの?」


「え、話は聞かないんじゃなかったの?」

「みかってすごいよな……。言い方も含めて、煽りの天才かと思うよ」

「『みか』……? あなた達は勇者パーティーになって、名前など捨てたはずでしょう! それに、何ですか、その独自の呼び名は! 元の名前に掠ってもいないではないですか!

 重罪人になったから、その他の罪はいくら重ねてもいいという考えですか! 浅ましい! 早く消え去りなさい!」

「一体、何を言って……っ! ……来るぞ! 危ないっ!」


 次の瞬間、道の左右の森の中から、炎魔法が飛んできた。いや、炎だと火事になるから、小規模の爆裂魔法だろうか。色合いは同じだったから、見分けが付きにくかったなぁ。


 そんなことを冷静に考えられる私は、どのような状況にあるかと言うと、たすくの腕に抱かれ、高く宙を舞っていた。


「いやいやいや! 飛びすぎでしょ! 着地はどうするの! 位置エネルギーを考えてよ!」

「いや、流石に知らねぇよ、こんな能力! アイツが言ってた『スキル』なのか? まぁ、できるだろ。飛べたんだから」


「軽いなぁ……」

「確かに軽いよ。全く重さを感じない。腕力も超人的になってるみたいだ……って、ほら、着地できた」


 たすくの面白くない冗談はさておき……。

 驚いたことに、着地の衝撃はほとんどなかった。無効化されたと言ってもいい感覚だ。

 運良く森を左側に飛び越えて、平地に着地した私達は、そのままの態勢で話し始めた。


「……。早く戻らないと、あの二人が心配だよ。殺陣を終わらせられないし」

「もう一度、同じ力で飛んでみるか。でも、今の感じだと、水平方向の力を途中で無効化すれば、飛びすぎても丁度良く下りられそうだ」


「そんな意識的にできるものなんだ。無効化するのは自分の力じゃなくて、『世界』の、それこそ物理の力なのに」

「多分できる。でも、自分の力については、みなぎってるわけでも、コントロールできてるわけでもない感覚なんだよなぁ。あくまで普通の感じ」


「へぇ……。あ、時間制限があるとマズイから、とにかく戻ろうよ」

「よし!」


 そして、私達は元の場所に戻った。


 三人の化物は、驚きのあまり、呆然と立ち尽くしていた。

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