第8話 楽しいデートと彼女の妹

 使さんの変身は完璧だった。

金髪のカツラが肩までサラリと流れ、派手なメイクが大きな瞳を強調し、唇のグロスが光を反射する。


 ロリ体型の華奢さが妙にセクシーに映える。

鏡に映る彼女は、確かに「噂の変態金髪美少女」と呼ばれていそうな危険で魅力的なオーラを放っていた。


 俺の視線が自然と彼女の脚に落ち、慌てて顔を上げる。


「どうや? これならバレへんやろ?」

「まぁ…確かに。誰も使さんだって思わないとは思う」


 彼女の笑みが弾け、部屋の空気が一気に明るくなる。

朝陽がカーテンを透かし、ベッドのシーツに柔らかな光の筋を落とす。

使さんは満足げに腰を振り、鞄を肩にかけ直す。


「ほな、デート! デート! デート!」


 家の中をグルグル回り、まるで子供のようにスキップする。


 すると、母さんがやってきて、「あら!?さっきの白髪の可愛い女の子は!?てか、その金髪の子は誰!?」と、聞かれる。


「さっきの白髪の子はウチです!今は金髪の子になりました!」と、敬礼する。


「あら?そうなの!どっちもかわいいわ!」と、なぜか母さんのテンションも上がる。


 それから自己紹介を始める使さん。

普通に学校の友達ということで収めることができた。


 そうして、出かけるために俺も着替えをするのだが…。


「ちょっと…出てくれない?」

「嫌や!好きな人の生着替えをこの目で録画するんや…」と、涎を垂らしながらそんなことを言ってくるのであった。



 ◇


「デート! デート! デート!」


 使さんはスキップしながら駅に向かう。

金髪が風に揺れ、ミニスカートの裾が軽く翻る。


 住宅街の朝の穏やかな空気が、彼女の周りを包む。

通りすがりの主婦がチラリと視線を寄せ、俺の心臓が少し速くなる。


 バレたらどうしよう——そんな不安がよぎるが、使さんの無邪気な笑顔を見ると、吹き飛ぶ。


 雪乃との距離を置いた数日、胸の棘がまだ疼くのに、この瞬間はただ、楽しい。


 駅の改札を抜け、電車に揺られて街の中心へ。

窓から見えるビル群が、夏の終わりの陽光にきらめく。

使さんは隣の席で俺の腕に寄りかかり、小声で囁く。


「圭くん、今日はずっとウチのこと見ててな。それと変装バレたら、罰ゲームで下のお口にキッスやで?」

「…はいはい」


 彼女のくすくす笑いが、電車の振動に溶け込む。

今はこれでいい。



 ◇


 最初に着いたのは、駅近くのカラオケ店。

店内の薄暗い照明が俺たちを迎える。

個室のソファに腰を下ろし、ドリンクバーのジュースを片手に、俺はリモコンを握る。


 アニソンを選曲し、マイクを口に近づける。とあるアニメのテーマが流れ、俺の声が少し震えながら響く。


 使さんは隣で拍手し、金髪を揺らして体をくねらせる。


「圭くん、上手いやん! 次はウチの番!」


 彼女の選曲は意外なほど多彩。

J-POPからアニソンまで、声量豊かに歌い上げる。


 正直、クッソ上手い——プロ級の音程とビブラートが、部屋のスピーカーから溢れ出す。


 金髪のロングが歌うたびに跳ね、派手なメイクの瞳が輝く。

俺は思わず聞き惚れ、拍手する。


「使さん、ヤバいな……本気で歌手になれるよ」

「ふふ、褒めても何も出えへんで? ほな、最後の一曲!」


 彼女の最後の曲は、アップテンポのロックナンバー。


 サビに差し掛かると、突然歌詞を無視し、マイクを喉元に押しつける。


「オッホッ〜! オホオホオホオホッ!!」


 低く野太い、オホ声が爆発する。

部屋の壁が震えるような叫び声に、俺の目が点になる。

慌ててマイクを掴み、止めようとする。


「ちょ、使さん! やめろって! 隣の部屋に聞こえるよ!」

「オホォォォ〜!! もっと、もっと感じてぇ〜!!」


 彼女は目を閉じ、体を反らせて続ける。

金髪が乱れ、ミニスカートが捲れ上がりそうになる。


 必死にマイクを奪おうとするが、彼女の細い手がしなやかに逃げる。

部屋の空気が熱くなり、俺の顔が赤くなる。

興奮? いや、ただの混乱だ。


 ようやく曲が終わり、彼女は息を弾ませてマイクを俺に向ける。

インタビュー風に、息も絶え絶えに。


「興奮した!?」

「するわけないだろ!心臓止まるかと思ったわ!」


 俺のツッコミに、彼女は大笑い。

部屋に笑いが満ち、さっきの緊張が溶ける。

雪乃とのデートとはまるで違う気楽さというか、友達との遊びに近いものがあった。


 次はゲーセンに行くことに。

チカチカ光るアーケードゲームの音が、店内を賑やかにする。


 UFOキャッチャーのぬいぐるみが棚に並び、若者たちの笑い声が飛び交う。

使さんは俺の手を引っ張り、プリクラ機の前に立つ。

金髪を揺らし、ポーズを決める。


「デートって言うたらプリやろー。撮ろ! 密室デートやで〜」


 ブースに入り、カーテンを引く。

狭い空間に二人の息遣いが響き、スクリーンのフラッシュが点滅する。


 普通にピースしたり、ハートを作ったり——楽しいはずの時間が、使さんの囁きで一変する。


「こういうシチュのエロ動画見たことあるわー。この密室だけど密室ではない場所でするとか…たまらんよね」


 彼女の声が耳元で甘く響き、俺の背筋がぞわっとする。

金髪の匂いが近く、派手なメイクの瞳が俺を覗き込む。


 フラッシュの合間に、彼女の指が俺の腰に触れる。心臓が跳ね上がり、ポーズが崩れる。


「使さん、変なこと言うなよ……集中できない」

「ふふ、圭くんの反応、可愛いわ〜」


 撮影が終わり、落書きタイム。

慣れたようにタッチペンで画面をいじくる。


 すると、使さんは俺の顔に矢印を引き、「包茎♡」とデカデカ書く。


 俺の顔が熱くなり、「やってくれたな…」というと、彼女の胸元に矢印を引いて「貧乳」と書く。


「…!」


 彼女の目が丸くなり、可愛く拳を振り上げる。

ぽふっと俺の肩を殴り、頰を膨らませる。


「ひどいわー!やっぱ思ったったんや〜!!//」

「いやいや、別に悪いことじゃないよ?貧乳好きだし」

「嘘つけ!貧乳好きな男子なんておるか!」


 笑いが込み上げ、プリクラのシールが完成する。

変な落書きだらけの写真を眺め、俺たちはゲーセンを後にした。


 お昼は、駅近くの小さな喫茶店。レトロな看板が軒先に揺れ、店内の木目調テーブルが温かな雰囲気を醸す。


 窓際の席に座り、メニューを広げる。

使さんは金髪を耳にかけ、目を輝かせる。


「…なんかええ雰囲気のお店やな。もしかして、常連なんか?」

「まぁね。結構きてる」

「…彼女とよく行くお店に別の女を連れてくるなんて…お主も悪よのぉ〜」

「なんでお代官様風なんだよ」

「ええツッコミや。やっぱ、ウチが見込んだだけあるわ」


 それから注文をする。

おすすめを聞かれたので、いつも頼んでいるのを指さす。


「オムライス! チキンライスにデミグラス、ふわとろ卵で!」


 俺も同じものを注文。

キッチンから漂うバターの香りが、食欲をそそる。


 出来上がりが運ばれてくると、黄金色の卵がふんわりとライスを包み、ケチャップはお好みであり、使さんは「LOVE」と書かれて俺に手渡してくる。


「…恥ずかしいんだけど」

「恥ずかしがってる姿が見たいんやもん」


 そうして、使さんはスプーンを手に、目を細めて一口。


「ん〜、最高! 圭くん、卵のトロトロ具合、ヤバない?」

「うん、甘くていいね」


 スプーンで卵を崩し、ライスをすくう。

熱々の湯気が立ち上り、口に広がるコクのある味わいが、心を和らげる。


 使さんは食べながら、過去話の続きをぽつぽつ。


 北海道の雪山で「なにわ最高〜!」と叫んだエピソードとか、中学時代の文化祭の話とか、笑いながら語ってくれた。


 俺は相槌を打ち、彼女の金髪に視線を落とす。


「使さん、今日……ありがとう。すごい楽しい」

「そやろ?ウチと付き合えば毎日こんな感じやでー!」

「そうだね…それはすごく魅力的かも」


 笑いがテーブルを包み、午後の陽光が窓から差し込む。

穏やかな時間が、ゆっくり流れる。


 それから映画館に行くことに。

ショッピングモールの3階にあり、ポップコーンの甘い香りがロビーを満たす。


 使さんはチケットを買い、俺の袖を引く。

選んだのは、最新のSFアクション。

予告でもめちゃくちゃ気になっていたが、彼女とはいつも恋愛系しか見ていなかったが、使さんは躊躇することなくその映画を選んだ。


 こういうところも普通に気があっていいなと思っていた。

予告編の爆音がスクリーンを震わせ、暗闇に包まれる客席で、俺たちは隣同士に座る。


 映画が始まると、爆発音とヒーローの叫びが響く。

使さんはポップコーンを口に運びながら、時折俺の耳元で囁く。


「この主人公、圭くんに似てるわ。こういうのが最後カッコよく決めるんよ」

「…俺はそんなカッコよく決めたことないけど」

「そうなんかー?ウチは圭くんのそういうとこ知ってるけどなー」


 彼女の金髪がスクリーンの光に照らされ、淡い輪郭が浮かぶ。


 アクションシーンで体が寄り、彼女の肩が俺の腕に触れる。

心臓の鼓動が映画のBGMに混じり、ドキドキが止まらない。


 クライマックスの逆転劇で、使さんが小さくガッツポーズ。

エンドロールが流れ、照明が点くと、彼女の瞳が輝いている。


「面白かった! 圭くん、次はホラーやな!」

「ホラーは絶対嫌だ……でも、今日の映画、よかったよ。一緒に見れて。結構気になってから」


 夕暮れのモールが、穏やかな余韻を残す。


 そろそろ帰ろうと、駅に向かうエスカレーターを降りる。


 使さんは俺の腕に絡みつき、金髪を揺らして歩く。


 夕陽がビルの隙間から差し込み、街の喧騒が少しずつ増す。


 心が満たされ、明日への小さな希望が芽生える——そんな時、後ろから声がかけられた。


「…圭さん?」


 振り向くと、そこに立っていたのは雪乃の妹、唯ちゃんだった。

【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/7667601420154694597

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る