03|要請

 それからというものの、穏やかな生活が一変し急激に絶望的に多忙になってしまった。これだから公共案件はクソなんだ。


 あれから追加で3時間の大激論が行われ(ただし私は見ているだけ。おっさんどもが議論していた)、さらに日を改めてもう4回ほど長時間の議論が行われた結果、ようやく状況が整理され、方針が決まった。


―――――

・魔王(から排出される魔素まそ)の公害とモンスターの存在によって人間社会には実害が出ており、これらは脅威。

・しかし一方でモンスターから生成されるジェムは貴重な資源であり、今後も恒久的かつ安定的に回収できる体系化された仕組みスキームが必要。

⇒よって、魔王討伐はデメリットが甚大であり、推進すべきではない。方針転換が必要である。


・ジェムと食糧物資を等価交換することによるメリットは大きい。

・この取引の成立には、魔族(魔王及びモンスター達の総称)の長である魔王の承認と契約が不可欠。

⇒よって、魔王へのセールス活動が必要である。


・現状、人間と魔王との間の人脈や繋がりコネクションは皆無で、商談をするには人間が魔王城に赴くしかない。

・魔王城までの道中及び城内にはモンスターが蔓延はびこっているため、強力なパーティでなければ魔王のところまで到達すらできない。

・一方で、ギルド所属パーティはいずれも魔王討伐を目標にしていたため、大々的に「魔王討伐NG」を謳うと反発が大きい。

・そしてぶっちゃけ、そんな状態なのでパーティメンバーが魔王に大してセールストークなんてできるわけがない。

・強力かつ話が通じそうなパーティに個別で協力を要請し、セールス役を護衛しながら魔王城まで赴くしかない。

⇒強力で協力的なパーティの選定と交渉が必要である。

―――――


 まとめるとこのような内容なのだが、ここまでまとまるまでに合計15時間ほどの会議時間を要し、会議のたびに議事録係の腕が悲鳴を上げていた。


 そして本当に悲劇的なことに、この「セールス役」として私が選ばれてしまった。言い出しっぺにタスクを全部投げるのは悪しき風習だと思うのだが、世界が変わってもあるものなんだな……。


 普段の換金所での業務に加えて、この会議のための調査や資料準備(当然紙にペンで手書き)で残業三昧になった上に、さらにまた新たな仕事が待っていた。


 これらの方針はあくまで、あの濃紺上着12人組のなかでの話で合意したことであって、ここからさらに上の貴族の政治家や国王に話を通さねばならない。そのための追加の資料作成が必要だった。そしてさらにさらに質疑応答の準備、事前の交渉、よくわからない決裁処理などなど……終わりが見えない、とにかく面倒でしかない仕事をひたすらにこなした。いやマジでなんで転生先でまた公共案件やらされてんの?


 そんなこんなで、国王の最終承認を得るまでに気づけば半年もかかってしまった。元の世界でやつれた身体は、転生して半年間の健康な生活で体重を5kg戻したのに、また5kg減ってやつれた身体に戻ってしまった。


 しかしそんなことはお構いなしに、国の一大プロジェクトとして話は進んでいく。今、残ったタスクは大きく分けると2種類。ひとつは魔王へのセールスのための提案書、プレゼン資料を作ること。魔王のニーズなんて知らんのに、一発で成功させる提案書を作るなんて荷が重すぎる。しかしやるしかない。


 そしてもうひとつは、私を護衛して魔王城まで行ってくれるパーティを決めること。


 で、今日はこのパーティを決める段階である。候補は既にあり、幸いにもこの点はギルドのお偉方の意見も一致していた。ギルドで最も討伐成績が良いパーティである、勇者アレン・狩人ラルフ・魔法使いアリシア・僧侶セレナの4人組だ。


 このパーティは2位に大きく差をつけて討伐成績が抜群に良い。ジェム回収量は2位の1.8倍。素材(モンスターの毛皮や角や爪は加工して様々な道具になるため需要がある)の回収量は2.2倍。ギルド所属パーティの平均勝率が68.4%の中で、このパーティは96%を誇る。驚異的だ。しかも上級モンスターを相手にしてばかりでこれなのだから、相当強力だろう。


 というわけで、あの大会議室にこの4人が招かれ、今目の前に座っているという状態だ。

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