第4話 事の終わり
彼が目を開けたとき、アパートの一室は再び元の静寂を取り戻していた。
しかし、沈黙の金には、そこに確かに存在していた悲劇が、はっきりと見えていた。
「大丈夫?気分はどう?」
雄弁の銀の不安げな声が、沈黙の金を追体験の世界から引き戻した。
普段の軽快な口調はなりを潜め、その声はまるで、冷たいガラスに触れるかのように繊細だった。
彼女の瞳は、彼の顔色をうかがうように細められ、そこに映る真剣な心配の色は、普段の雄弁さとは裏腹に、多くを物語っていた。
「問題ない。この件は事故だ。」
沈黙の金は、淡々と言い放った。
彼の言葉に雄弁の銀は眉をひそめる。
「事故?それにしては被害が少なすぎると思うけど。能力の発現ゆえの暴走事故ならこのアパート丸ごと灰になっててもおかしくないはずだけど」
超能力を発現した際は制御ができず、事故となることはままある。
しかし、今回のような感情の高ぶりとともに能力が発現した場合は特に被害も規模も大きくなりがちだ。
「たまたま被害が少なかった、それでいいだろう。」
沈黙の金の言葉は、無機質な事実の羅列だった。
そこに感情のひとかけらも感じられない。
雄弁の銀は一瞬、眉をひそめたが、すぐに口元に皮肉げな笑みを浮かべた。
「…あなたがそう言うならそれでいいわ。それと事件が起きた時にはもう一人居たんじゃない?」
「よくわかったな。身元はすでに組織が掴んでいるだろう」
「私の勘はよく当たるのよ。その人物も含めて報告を上げたらこの件は完了ね」
二人は現場を後にして車に戻り、滑るように夜の闇へと溶け込んでいく。
サイドウィンドウを流れる街の光が、雄弁の銀の横顔を淡く照らしていた。
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