第3話 そこでなにがあったのか
二人は一般の警察が引き揚げた後、密かに部屋の検証を開始した。
沈黙の金は、焦げ付いた床にそっと手を触れた。
彼の指先から、冷たい床の感触が消え、代わりに、アパートの一室に充満していたであろう、熱気と絶望が流れ込んでくる。
目を閉じると、彼の脳裏に情景が再生された。
それは映像というより、感覚だった。
怒号が飛び交う、激しい口論。
相手を罵倒する言葉が、鋭い刃のように胸に突き刺さる。
「あなたなんて必要ない!」
存在そのものを否定するかのような言葉を受けた男の心に、冷たい風が吹き込む。 絶望が、彼の内側で燃え上がる。
「消えてしまいたい」
という強い感情が、炎となって男の体を包み込んだ。
しかし、炎は恋人には向かわなかった。
怒りではなく、悲しみが炎を制御していた。
彼が求めていたのは、相手を傷つけることではなく、自分自身の存在をこの世界から消し去ることだった。
沈黙の金は、男が自分自身を燃やし尽くしていく、その壮絶な痛みを追体験した。
愛する人を傷つけないように、ただ静かに、そして激しく、自らを焼き尽くした男の最期の想い。
その悲痛な叫びが、彼の心の奥底に響き渡った。
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