魔王も勇者も、殺しちゃってごめん……。
No Exist
第1話 人を殺すのは簡単だ。ナイフでもいいし、薬でもいい。
はぁ、疲れた。なんて陽気な旅だったことだろう。
なんてことはなかった。いつも通り一緒に酒を飲みに
本当は違うのに。
全部、俺が
まあでも、もういい。そんなくだらない日常ももう終わりだ。これで
俺は
ここのバルの
「何してるの、英雄さん」
うわっ。なんだよお前……!急に話しかけんなよ、びっくりするだろ。って、お前、生き物だったのかよ。驚くのも無理はなかった、だって声の主は白いしっぽを生やし、白い耳をピンと立てて、まるでぬいぐるみのように愛らしい、ふわっふわな純白の狐の姿をしていたから……。
「俺は……英雄なんかじゃない。殺人鬼だよ。何、お前?ここにいたなら、俺が何をしてたか、見てたろ。人殺しだよ、ひ・と・ご・ろ・し!……俺みたいな殺人鬼、関わらない方がいい。声なんかかけんじゃねぇよ。魔法警察にでも通報しとけよ。今すぐに」
「うん、君を通報したら、すぐに捕まるね……魔法警察なら、逆探知も魔法通信と精霊監査で出来るもの。でもその前に、君と話してみたかったんだ。ダメかな?」
しっぽをゆらゆら、ふわふわと揺らめかせて、白い狐男は笑う。ふと鼻に香る、甘ったるい匂い。妖魔のフェロモンだろうか。そうするとこいつの種族は
「さてはお前、
それも、
「うん。僕、友達がほしいんだ」
「お前、マジで何言ってるかわかってる?俺は殺人鬼だぞ?お前を今、ここで、殺してやったっていいんだぞ?」
狐男は眉を下げる。
「それはちょっと嫌だなぁ。殺されるのは勘弁して?でも、友達になって」
なんだコイツ。頭おかしいって。でも……その笑い方は、ちょっとだけ、
「いいのか?
「なれるよ。君は悪魔じゃないもん。殺人鬼でしょ?なれるなれる。大丈夫」
まるで『昨日の夕飯のステーキは美味しかった』と笑う子供のような笑顔で、白い
「どうしてそう思うんだ」
「だって……僕と友達になったら、人なんか殺せなくなるから」
「……は?」
「僕は……清浄の妖狐。狐だけど、見ての通りしっぽも耳も白いのは、僕が妖魔のエネルギーを浄化してしまうからなんだ。嘘だと思うなら、君が持ってる魔法薬、全部飲み干してあげよう。きっと、僕にはひとつも効かないよ。全部、体内で浄化しちゃうからね」
それを聞いた俺は鳥肌が立った。浄化……?浄化だって?それじゃあ、俺みたいな悪人の考えも、殺人衝動も、こいつといたら浄化されるってことか?いや、それよりも。浄化ってことは、こいつまさか。
「清浄って……お前、キメラじゃないか」
「うん。気づいちゃった?」
気づいたも何も、
「……わかったよ。
しぶしぶ承諾する。なんせ、キメラと分かったら話が変わってくる。こいつを
「ほんと!?嬉しいなぁ。これであと2人だね!」
しっぽをパタパタと揺らして喜ぶ狐男。……って、ちょっと待て、今なんて言った?あと2人だって?
「まさか……お前、
「うん!えへへ、やっと、初めて出来たなあ。友達……」
正気を疑うとはまさにこの事で、こいつは本当に純粋に仲良くなって、俺を
「お前、ちょっとおかしいんじゃないか?」
「えへへ、そうかな。ごめんね……?でも、君なら友達になってくれそうだったから」
愛らしいしっぽがふわふわと揺れる。なんだかそのしっぽの動きを見ていたら、さっきまでの怒りも馬鹿らしくなって、全部どうでも良くなってくる。
「いいよ。その代わり……そのしっぽ、モフらせてよ」
「うん。どうぞ」
「……ああ、暖かいな」
もふもふ。温もりが体に染み渡る。
「ねえ、英雄さん、お名前教えて貰ってもいいかな?僕は君を、なんて呼んだらいい?」
「……あかり。上田あかり。俺の本名」
「あかりちゃんか。やっぱり、女の子だったんだね。……僕の名前は、しらかば。白樺陽介。よろしくね」
しらかばが俺の頭を撫でた。……やめろ、触るな。撫でるな。でもちょっと、照れくさい……。それに、いい匂いもする、うぅ……。
「……よろしく」
「うん、ふふふ」
しらかばのふんわりした笑い方が、少しだけ胸の奥をきゅう、と締め付ける。ああ、……殺したいな……。いや、いけないいけない。しらかばは、友達だ。仲良くしなきゃな。
俺はそうして、
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