第五章:二人の心が出会う時

 メモリアル・ブリッジ設立から一年が経った頃、僕たちの関係にも変化が訪れていた。


 「菫さん」


 あかりが夕暮れの鴨川で立ち止まった。


 「最近、気づいたことがあるんです」


 「何ですか?」


 「私たち、いつの間にか本当のパートナーになっていますね。ビジネスだけじゃなくて……」


 彼女の頬が微かに赤らんでいる。


 僕もまた、同じことを感じていた。毎週末の京都での時間は、僕にとって一週間で最も楽しみな時間になっていた。あかりと一緒に仕事をし、議論を交わし、新しいアイディアを生み出していく過程で、僕は彼女に惹かれていった。


 「……僕も同じです」


 僕は正直に答えた。


 「最初は正反対だと思っていました。でも、根本的な想いは同じだった。人を大切にしたい、という気持ち」


 あかりが僕を振り返った。


 「高橋さんが結びたかった縁って、やっぱり……」


 「……僕たちのことかもしれませんね」


 桜の花びらが風に舞い、二人の間をゆっくりと通り過ぎていった。



 その年の秋、僕たちは正式に交際を始めた。


 しかし、恋人同士になっても、僕たちの関係の基本は変わらなかった。互いの専門性を尊重し、異なる視点から物事を見つめ、より良いサービスを生み出していく。


 「菫さんの『語り部の儀』、今度は英語版も作りませんか?」


 あかりが提案した。


 「海外在住の日本人の方からも問い合わせが増えているんです」


 「それは良いアイディアですね。でも僕の英語力では……」


 「大丈夫です。AIの翻訳システムを使えば、菫さんの語りのニュアンスも保ちながら、自然な英語に翻訳できます」


 仕事でもプライベートでも、僕たちは最高のチームだった。



 一年半後、僕はあかりにプロポーズした。


 場所は、高橋翁が眠る洛西の霊園。彼のお墓の前で、僕は膝をついてあかりに指輪を差し出した。


 「あかりさん、僕と結婚してください」


 あかりは涙を流しながら、静かにうなずいた。


 「はい。喜んで」


 僕たちの愛は、高橋翁が繋いでくれた縁から始まった。彼への感謝を込めて、この場所でプロポーズするのが相応しいと思った。


 「高橋さん、ありがとうございました」


 あかりが墓石に向かって呟いた。


 「あなたのおかげで、私たちは本当の幸せを見つけることができました」



 結婚式は翌年の春、久遠の社の奥庭で執り行った。


 参列者は両家の親族と親しい友人だけの、小さな式だった。しかし、VRシステムを通じて、全国各地から多くの人が参列してくれた。


 式の中で、僕たちは高橋老人への感謝を込めて、特別な誓いの言葉を述べた。


 「私たちは、故人と遺族の心に寄り添い、一人ひとりにふさわしい弔いを提供することを誓います。そして、命の尊さと人との縁の大切さを、多くの人に伝えていくことを約束します」


 式の最後に、白い鳩を空に放った。高橋老人の葬儀の時と同じように。鳩たちは青空に舞い上がり、桜の花びらと一緒に風に乗って遠くへ飛んでいった。


 新しい人生の始まりだった。


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