第五章:二人の心が出会う時
メモリアル・ブリッジ設立から一年が経った頃、僕たちの関係にも変化が訪れていた。
「菫さん」
あかりが夕暮れの鴨川で立ち止まった。
「最近、気づいたことがあるんです」
「何ですか?」
「私たち、いつの間にか本当のパートナーになっていますね。ビジネスだけじゃなくて……」
彼女の頬が微かに赤らんでいる。
僕もまた、同じことを感じていた。毎週末の京都での時間は、僕にとって一週間で最も楽しみな時間になっていた。あかりと一緒に仕事をし、議論を交わし、新しいアイディアを生み出していく過程で、僕は彼女に惹かれていった。
「……僕も同じです」
僕は正直に答えた。
「最初は正反対だと思っていました。でも、根本的な想いは同じだった。人を大切にしたい、という気持ち」
あかりが僕を振り返った。
「高橋さんが結びたかった縁って、やっぱり……」
「……僕たちのことかもしれませんね」
桜の花びらが風に舞い、二人の間をゆっくりと通り過ぎていった。
◆
その年の秋、僕たちは正式に交際を始めた。
しかし、恋人同士になっても、僕たちの関係の基本は変わらなかった。互いの専門性を尊重し、異なる視点から物事を見つめ、より良いサービスを生み出していく。
「菫さんの『語り部の儀』、今度は英語版も作りませんか?」
あかりが提案した。
「海外在住の日本人の方からも問い合わせが増えているんです」
「それは良いアイディアですね。でも僕の英語力では……」
「大丈夫です。AIの翻訳システムを使えば、菫さんの語りのニュアンスも保ちながら、自然な英語に翻訳できます」
仕事でもプライベートでも、僕たちは最高のチームだった。
◆
一年半後、僕はあかりにプロポーズした。
場所は、高橋翁が眠る洛西の霊園。彼のお墓の前で、僕は膝をついてあかりに指輪を差し出した。
「あかりさん、僕と結婚してください」
あかりは涙を流しながら、静かにうなずいた。
「はい。喜んで」
僕たちの愛は、高橋翁が繋いでくれた縁から始まった。彼への感謝を込めて、この場所でプロポーズするのが相応しいと思った。
「高橋さん、ありがとうございました」
あかりが墓石に向かって呟いた。
「あなたのおかげで、私たちは本当の幸せを見つけることができました」
◆
結婚式は翌年の春、久遠の社の奥庭で執り行った。
参列者は両家の親族と親しい友人だけの、小さな式だった。しかし、VRシステムを通じて、全国各地から多くの人が参列してくれた。
式の中で、僕たちは高橋老人への感謝を込めて、特別な誓いの言葉を述べた。
「私たちは、故人と遺族の心に寄り添い、一人ひとりにふさわしい弔いを提供することを誓います。そして、命の尊さと人との縁の大切さを、多くの人に伝えていくことを約束します」
式の最後に、白い鳩を空に放った。高橋老人の葬儀の時と同じように。鳩たちは青空に舞い上がり、桜の花びらと一緒に風に乗って遠くへ飛んでいった。
新しい人生の始まりだった。
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