第5話「女になるアタシを一生愛せるの?」
手術が終わった日、豪志は病室のベッドに静かに横たわっていた。麻酔の余韻が残る中、彼女はゆっくりと目を開けた。窓から差し込む午後の光が、白いシーツの上に柔らかく波のように広がっていた。
太郎はその隣に座っていた。手術の間ずっと待合室で祈るように時間を過ごし、ようやく医師から「無事に終わりました」と告げられた時、胸の奥が熱くなった。
「豪志……」初めて呼び捨てをした。
太郎がそっと声をかけると、豪志は微笑んだ。まだ少し痛みが残る顔だったが、その表情には確かな安堵と誇りがあった。
「終わったよ、貴方。これで、私は本当に『私』になれました。」と豪志も太郎をはじめて『貴方』と呼んだ。
太郎は涙をこらえながら頷いた。「おめでとうございます。豪志は、ずっと豪志だ。でも、これで社会にも『女性』として認められるんだからね。」
豪志は、ゆっくりと手を伸ばして太郎の手を握った。「貴方、これからも私を愛してくれる?」
太郎はその手をぎゅっと握り返した。「もちろんです。豪志が女性になっても、ボクの気持ちは変わらない。むしろ、もっと大切にしたいと思っるから。」
その言葉に、豪志は静かに涙を流した。長い年月、自分の性別に悩み、社会の偏見に傷つきながらも、ようやくたどり着いた場所。そこに太郎がいてくれることが、何よりの救いだった。
退院の日、二人は手を繋いで病院を後にした。外の空気は少し冷たかったが、心は温かかった。太郎は豪志の荷物を持ちながら、「これからは、豪志の人生を一緒に歩いていきたい」と思った。
家に戻ると、豪志は鏡の前に立った。手術の痕はまだ痛々しかったが、鏡に映る自分の姿に、初めて「これが私だ」と思えた。
「貴方、見て。これが新しい私。」
太郎はその姿を見て、心から「綺麗だよ」と言った。豪志は照れくさそうに笑いながら、「貴方、これからも私の隣にいて下さいますか?」と聞いた。
「もちろん。豪志が女性になっても、ボクの気持ちは変わらない。むしろ、もっと大切にしたいと思ってるよ。」
その夜、二人は未来について語り合った。結婚という形がすぐに叶わなくても、心はもう夫婦だった。太郎は決意した。「豪志を幸せにできるように、ボクはもっと強くなる。社会が変わるまで、ボクたちが変えていく。」
豪志もまた、太郎の隣で微笑んだ。「貴方、ありがとうございます。私はあなたの妻になる。」
数週間後、豪志は戸籍変更の手続きを終え、正式に「女性」として認められた。市役所で新しい住民票を受け取った時、彼女は涙を流した。
「これで、ようやく社会にも認められた気がする。でも、本当に私を認めてくれたのは、太郎さん、貴方だった。」
太郎はその言葉に胸が熱くなった。「豪志、ボクはずっと豪志の味方だよ。これからも、ずっと一緒にいるから。」
二人は、法制度の壁に阻まれながらも、心で繋がっていた。社会が変わるには時間がかかる。でも、変化は確実に起きている。その変化の一部になりたいと、太郎は強く思った。
そして、豪志もまた、太郎の隣で微笑んだ。「貴方、ありがとう。私はあなたの妻になるの。」
―了―
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