第14話 年齢的に、徹夜は無理だ。

 魔王六人衆の一人、ネルメが仲間になりました。


 見た目十代後半の女の子だし、一緒に歩いていても周囲からは親子にしか見えないと思う。俺としては少々気まずいところではあるんだが、仲間なのだから我慢するしかない。


 その後、ゾンビ化が治っているはずの童貞バツイチ中年王子と太陽の巫女を探していたのだが、太陽の巫女はともかく、王子の方が少々ヤバかった。


 両腕を切断された状態のまま復活しちゃったもんだから、俺が見つけた時には既に出血多量で死亡していた。即座に勇者魔法アレストにて復活させると、彼は起き上がり「ふぁー、何か、死んでいた気がしますね」と、いつものコメントと共にのっぺりとした顔を上げ、そしてネルメを見て叫ぶ。


「な、なんでコイツがいるんですか!」


「コイツとは失礼だなぁ、勇者様、コイツ殺しちゃっていい?」


 ダメだ、コイツをいじめていいのは俺だけだ。


「はぁーい、勇者様ってば優しすぎ。アタシ、もうメロっちゃうよ」


 メロ? よく意味が分からんが、若者言葉か? 


「メロメロってこと♪」


 ふむ、オジサンにはついていけないな。ともかく、このやり取りで俺とネルメ、どちらの方が上なのかを童貞バツイチ中年王子も理解したらしい。


 「勇者殿が上ならば、僕は何も問題ありません」と誇らしげに語った後、ネルメに対して「僕の方が勇者殿との付き合いが長いんだからな」と先輩風を吹かし、数秒後には魔法【束縛する命ビンディング・ライフ】を喰らい、童貞バツイチ中年王子はゾンビへと姿を変えた。


 仲良くしなさい。


「アタシ、心許したの勇者様だけだから」


 とたとたと近づいてくると、ネルメは俺の腕にしがみつくようにくっついてきた。なんか娘が側にいるみたいで、ちょっとネルメが可愛く思えてしまう。可愛く思えてしまったので、彼女の頭を撫でた。頭を撫でるとわずかに身体を揺らし、もっと撫でろと俺の手のひらに頭を押し付けてくる。猫みたいで可愛いと思い、俺は更に撫でた。


「な……ゆ、勇者」


 そして、頭を撫でているところを復活した太陽の巫女に見られた。カランって音と共に杖を落とし、ワナワナと震えている。大げさな表現だ。俺はネルメの頭を撫でているに過ぎないのに。


「勇者はやはり、若い子がお好きなのでしょうか」


 いや? 全然? 若すぎると娘に手を出してるみたいで、むしろ嫌悪感の方が強いですが? 


「そ、そうですか。なら、良いんですけど」


 それに嫁もいる。俺は純情一途な人間だから、浮気は毛頭考えていない。そう伝えたものの、太陽の巫女はキツめの視線をネルメへと向けた。それを受けてか、ネルメも軽口を叩く。


「そっかー、勇者は年増が好きなんだね」

 

 太陽の巫女の目がより一層険しくなった。

 やめようか、そういう話。

 生産性がないよ。


 それよりもだ、そろそろここに来た本来の目的を果たさないといけない。このままじゃ夜が明けちまって、俺達がここにいることがバレちまう。まだ宝のひとつも見つけていないのだから、急いで発掘作業を終わらせないといけない。


「あ、宝掘り出すの? じゃあアタシが手伝ってあげるよ。勇者様はそこで休んでていーからね♪」


 ネルメの言葉の後、地面から大量のゾンビが湧き出てきた。崩落で倒したと思っていたのだが、そもそもゾンビとは不死の存在だ。倒すという概念そのものが間違っていたのだろう。


 ネルメは地中から出てきたゾンビたちへと指示を出し、彼等はそれに従い地面を掘り、そして宝箱を幾つか地上へと持ちあげてくれた。

 

 ゾンビの中の一人が童貞バツイチ中年王子だったのだが、俺も太陽の巫女も何も言わず。彼は生きていた時と同じように人一倍頑張り、宝箱を地中から掘り出してくれていた。


「中身を貰ってもいいのか?」


「いーよ、アタシの全部、勇者様のものだから」


 またしても太陽の巫女がゲスを見るような視線を俺へと向ける。うん、勘違いしないでおこうか。俺が愛しているのは嫁ただ一人だ。


 宝箱の中身はゲーム内のネルメの城と同じ、かなり高価な武具が収納されていた。正直売るのは惜しいところなのだが、俺達には免罪符を購入しないといけないという大義がある。そうじゃないと、延々と崩壊した大地を修復する日々がまた始まってしまう。あんなの終わるはずがない、一体どれだけの年月を要してしまうことか。


「勇者、一言、助言を宜しいでしょうか?」


 はい、太陽の巫女さん、どうぞ。


「あの、ネルメってゾンビ化した人を操れるんですよね? 今見ただけでも百体以上のゾンビがおりましたけど、その者たちを利用して作業をしてしまえば、あっという間に修復作業が終わるのではないでしょうか? そうすれば、この武具も売らなくて済むと思うのですが」


 確かに。

 出来るのかネルメに聞いてみたところ。


「出来るよ。地下の城を作ったのもアタシだし」


 ならばと、修復作業をお願いしてみた。


「任せてよ勇者様! あ、でも、ちょっと大変だから、後でご褒美欲しいな!」


 ご褒美?


「また、頭撫でて欲しい……とか」


 どうやら、ネルメは頭を撫でられる行為を気に入ったらしい。それぐらいお安い御用だと伝えると、ネルメは尻尾を振る子犬のような笑みを浮かべ、そしてゾンビ軍団へと指示を出した。


 人海戦術とはよく言ったものだ。俺達数人で修復作業に当たっているのとは訳が違う。ネルメは更に追加で墓場からもゾンビを召喚し、千人に近いゾンビを集め、街道の修復作業へとあてた。


 思えばネルメはゾンビだけの軍隊でアークグリッド公国と渡り合えていたのだから、彼女からしたらこの数のゾンビを操ることは容易なのだろう。


 それにしても、ゾンビが作業をしている風景は、なんていうか終末感が凄い。ポストアポカリプス的な何かを嫌でも感じてしまう。


 さすがに橋の修繕はゾンビには無理だが、そんなの俺達だって無理だ。そこは本職の方々にお任せした方がいいだろう。


 こうして、向こう数年は掛かるであろう修復作業が、たったの一晩で終わりを迎えてしまった。


 大満足した俺達は宿舎へと戻り、徹夜明けの身体を労るべく薄い布団で睡眠を取った。


 もう若くない、徹夜なんか無理だ。

 眠すぎて気持ちが悪い。


 それは太陽の巫女も同じだったらしく、彼女も寝ることに対して大賛成と言ってのけた。


「アタシ、勇者様から離れられないから」


 俺の布団にネルメが入り込んできたのが少々や厄介だった。そもそも宿舎は男女で建物が別れている。ネルメは間違いのない女の子だ、しかも服装的に少々肌が露出している。肩とかヘソとか。こんな子が一緒に寝てしまっていたら、起きた時になんて言われるか分からない。


 でももう眠い。

 厄介事は起きてから考えよう。


 ……おいおい、布団から足を出すなよ。

 風邪ひいたら大変だろ。

 女の子は身体が一番なんだからよ。


「勝手に女を連れ込むとは何事だ!」


 その後、激昂した白銀の騎士ベルザバの拳によって叩き起こされた俺は、同じ布団で眠っていたネルメについてのアレコレを怒涛の勢いで質問攻めされた。正直に答えたところで納得なんかしないだろうけど、適当な嘘をついたとしても状況が良くなるとは思えない。


 なので、一番無難な嘘を付くことにした。


「娘? お前のか?」


 嘘を付く時には真実を混ぜた方が良い。

 事実、俺には娘がいるし、年齢も近い。


 遠方からわざわざ会いに来た手前、追い返す事も出来ず宿泊させたと伝えたところ「そうか」と納得し、白銀の騎士ベルザバは俺へと謝罪してくれた。


「アタシ、勇者様よりもずーっと年齢上だけど」


 そうなの?


「うん。五百歳くらい上だよ」

 

 五百歳か、そりゃ完全にお婆ちゃんの領域だな。ならばそれ相応の見た目をして欲しいと思うところではあるものの、エルフみたいな長寿の種族の場合、年齢がそのまま見た目という訳でもなさそうだし、そこに触れるのはきっとデリケートな問題なのだろう。触れぬが吉、俺はそう判断した。


 その後、再度俺達は白銀の騎士ベルザバに呼び出されることに。まだ眠い太陽の巫女は目の下にクマを作っており、不機嫌を隠しきれていない。俺もそう、まだまだ全然眠い。元気なのはゾンビだった童貞バツイチ中年王子とネルメだけだ。


「街道の修復作業が何者かの手により完成させられていた。よって、今日の修復作業は無しだ」


 無言のまま、太陽の巫女と目を合わせる。

 誰も俺達がやったことに気づいてはいない。


 これで無罪放免、自由の身だ。


「なので、今日からはアークグリッド城における役務をお前達に任命する。なんだその顔は? 街道の修復作業が無くなったのだから、当然他の仕事が与えられるに決まっているだろう。まもなく手配した馬車が到着する。荷物の整理を済ませておけよ」


 あれ? なんか、想定と違う。 


 でも待てよ? これって本来まだ行けないはずのアークグリッド公国に潜入出来るってことか?


 アークグリッド公国の本来のシナリオは、腐肉の王ネルメ・グッド・リアルデスとの戦争だ。


 だがしかし、ネルメは仲間として今ここにいる。


 ……おや? これもしかして。

 インチキが出来るんじゃないか?


——————

次話『いざ! アークグリッド公国へ!』

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