第5話:エリアス・カーヴィル

 工房に静けさが戻った。

 蒼玉の奥でフォレイン・フォックスが丸まり、淡い光を灯しながら眠っている。

 ローワンは布で汗を拭い、宝石を掌に包み込んだ。


「……誰にでもできる仕事じゃないな」


 低く呟いた男の声には、先ほどまでの猜疑心よりも、わずかな敬意が混じっていた。

 ローワンは眉を寄せ、問いかける。


「……名前を聞いていなかったな」


 男は短く息を吐き、肩のマントを払った。


「エリアス・カーヴィル。フリーで精霊獣を追う狩人だ。今は各地を渡り歩いて腕を磨いてるが──いずれは王都お抱えの精霊獣狩人になる」


 その声には、数多の獲物を仕留めてきた者の自負と、野心を抱く男の重みがあった。


「……そうか。なれることを祈ってるよ」


 ローワンは小さく息を吐き、所詮は生きる世界が違うと胸の奥で呟きながら、その名を繰り返し心に刻む。


「それで──、そいつは、いくらだ?」


 エリアスの問いに、ローワンは目を細めた。

「……街で聞いてきたんじゃないのか?」


「いや、値段までは聞いてなかったことを思い出した。手持ちはあまりない。だが──王子にフォレイン・フォックスを届ければ謝礼がもらえる。それで払う」


「よくそれで依頼してきたな」


「信じてくれ、と言うしかない」


 ローワンの瞳が鋭く光る。


「お前は俺を信じなかった。それに……お前が嘘をついている可能性だってある。だから俺も王都まで同行する」


 一瞬、空気が張り詰める。

 だが次の瞬間、エリアスは低く笑った。


「なるほどな。互いに信用できないなら、見張り合えばいい。──王都まで一緒に行こう」


 フォレイン・フォックスを宿した蒼玉を抱きしめながら、ローワンは答えずに視線を落とす。

 だが、その沈黙こそが肯定だった。


 こうして、獣石商と精霊獣ハンターという異なる立場の二人は、ひとつの道を選ぶ。


 翌朝、王都へ向けて発つことを決めたのだった。

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