第1話:フォレインフォックス

檻の中で、ひときわ鮮やかな光が揺れた。

透き通る尾に淡い青を宿し、小さな狐の姿をしている。

その身は今にも消えてしまいそうに儚く、必死に羽根のような尾を震わせていた。


「……それは?」


思わず問いかけると、男は短く答えた。


「フォレイン・フォックス。森に咲く青花に宿る精霊だ。生きられるのは一週間ほど……儚いが、美しい。王の五番目の王子が欲しがっていると聞いてな、取ってきた」


低い声が工房の静寂を破る。

琥珀色の瞳が真っ直ぐに射抜き、幾多の獲物を仕留めてきた男の自負が隠されてもいない。


「だが、王都までこいつの命は保たない。だから、宝石に宿してもらおうと思ってきた。獣石商のお前ならできるだろう?」


「……どうしてここを?」


「街で小耳に挟んだ。大手のブルタリア商会は端金じゃ動かないし、精霊獣のすり替えも横行してるらしい。王子に渡す前に横取りされたら困るからな」


ローワンは眉をひそめた。

ブルタリア商会──父の教え子だった男が開いた店。

師の志を継ぐことなく、粗悪な獣石をばらまき、金儲けに走った薄汚い工房。

その名を耳にしただけで、胸の奥に黒いものがせり上がる。


「……フォレイン・フォックスの特性は?」


「ない」


「……ない?」


「ないな。ただ、光るだけだ」


──光るだけ。


淡い青を宿す美しい尾。それが彼らにとっては命の証なのだろう。

けれど、美に囲まれて育った王子が、ただ光るだけの精霊獣をどれほど大切にするだろうか。

宝石に宿し、永遠にも近い命を与えられたとしても。


きっと、権力者の嗜好品としてもてはやされるのは一瞬。

やがて忘れられ、朽ちることもできずに、永遠の牢獄で眠り続けるだけだ。


「……断る」


淡々と告げた瞬間、男の表情が険しくなる。


「……なんだと?」


「フォレイン・フォックスは、宝石に閉じ込められるために生きているんじゃない。命の残り火を奪ってまで、王子の玩具にするつもりか」


男の口元が、嘲るように歪んだ。


「道具だろう。精霊獣は捕らえて、宿してこそ価値がある」

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