第2話 Q-lio内部 I₁ + I₂ + 2√(I₁I₂)cos(δ)

障壁から微かに聞こえた助けを求める声。10年間完全に沈黙を守ってきたQ-lioの向こう側から、ついに人の声が届いた。

YUKIの計測機器は急激な変化を示している。障壁の干渉パターンが変動し、まるで何かが内側から透過性を生み出そうとしているかのようだ。

これは科学者としての長年の夢が叶う瞬間なのか。それとも、未知の危機の始まりなのか。

配達員KENZOと共に、YUKIは歴史的瞬間の目撃者となろうとしていた...


YUKI:「機器の数値が異常よ!障壁内部からの干渉が急激に強くなってる...これは...」


ぬるリンψ:「ケイホウ!光波長ノ位相差ガ変動中!透過率ガ上昇シテイマス!」


efia:「きゃー!助けて!野犬に追われてるの!誰か...!」


KENZO:「おい、どこから声が?障壁の向こうか?」


YUKI:「KENZO待って!障壁に近づいたら危険...あ、なに!障壁が透明になってきてる!内部が見える!」


KENZO:「向こう側に女の子が...野犬に追われてる!よし、行ってみるか!」


YUKI:「待って!まだ安全性が確認できて...って、もう行っちゃった!」


ぬるリンψのセンサーが示す数値は、科学の常識を覆すものだった。

完全遮断を誇っていた障壁が、徐々に透明度を増している。まるで霧が晴れていくように、向こう側の世界が姿を現し始めた。

そこに見えたのは、見慣れたアメリカの荒野とはまったく異なる風景だった。

緑豊かな草原、そして—一人の少女が野犬の群れに追われている姿。

KENZOの本能が告げている。これは見過ごせない状況だと。

YUKIの理性は警告を発している。科学的に説明のつかない現象に飛び込むべきではないと。

しかし二人の判断は一致した。今、助けを必要としている人がいる—それだけで十分な理由だった。


efia:「きゃー!もうダメ...魔法がこの野犬たちに効かない...ど、どうすれば!」


KENZO:「おい!そこの女の子!こっちだ!!おりゃーしっしっフー!!」


efia:「え...?あなたたちは誰?でも助かった...ありがとう!」


KENZO:「よし、野犬は逃げていったな。怪我はないか?俺はKENZO、配達員をやってる。」


YUKI:「信じられない...本当に障壁を通り抜けられた。私はYUKI、科学者よ。あなたは一体何者?」


efia:「私はefia。助けてくれてありがとう。普段は牧場で空間魔法による結界を張って、モンスターから動物を守ったりしてるけど・・」


KENZO:「空間魔法?面白そうだな。でも、なんで野犬には効かないんだ?」


efia:「野犬は魔物ではないから...私の魔法はモンスターにしか効かないの。普通の動物には無力なのよ。」


YUKI:「はぁ?魔法?科学の世界じゃありえないんだけど?空間魔法ってなによ?」


efia:「空間魔法だけは得意なんだけど...パニックになって発動したから、もしかしてこの障壁に何か干渉したのかも?」


YUKI:「うーん、今までは障壁内外で完全に違った状態が、偏光レンズのように何かのきっかけで透過するようになったの?...」


efia:「ごめんなさい...私のせいで変な現象が起きてしまったかも。でも、お二人に会えてよかった。」


KENZO:「謝ることはないさ。むしろ面白い展開じゃないか。俺たちも偶然この場にいたんだしな。」


YUKI:「これは貴重な研究データね。魔法と科学の接点...こんなことがあるとは思わなかった。」


野犬の群れが去った後、三人は互いを見つめ合った。

KENZOとYUKIにとって、efiaの存在は「魔法」という概念が実在することの証明だった。

efiaにとって、二人の存在は「外の世界」が本当に存在することの証明だった。

Q-lioの障壁は、二つの世界を隔てる境界線だったのだ。片方は科学が支配する現代地球、もう片方は魔法が息づく異世界。

そして今、何かのきっかけでその境界が揺らぎ始めている。

YUKIの計測機器は、光の干渉パターンが安定してきたことを示していた。

完全な破壊的干渉から建設的干渉へ—まるで二つの波が共鳴し始めたかのように。

何か大きな物語の始まりを告げているような予感がした。


■knowledge of マメ


光の干渉現象と障壁の透過

光の干渉式:

• 二つの光波が重なり合うときの強度:I = I₁ + I₂ + 2√(I₁I₂)cos(δ)

• I₁, I₂:各光波の強度

• δ:位相差(波のズレ)

建設的干渉:

• δ = 2nπ (n = 0,1,2...) のとき光が強め合う

• 波の山と山、谷と谷が重なる状態

• 結果:明るく見える、透過率が上がる

破壊的干渉:

• δ = (2n+1)π のとき光が打ち消し合う

• 波の山と谷が重なる状態

• 結果:暗く見える、遮断される

Q-lio障壁の変化:

• これまで:完全な破壊的干渉状態(何も通さない)

• efiaの空間魔法が障壁を変化させた可能性が高い!

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