#12 "君"はだれ?

燃えた畑、崩れた家屋。

涙と絶望に覆われた村に、最強ババアは現れた。


術師の手の一振りが蛇を砕き、その歩みが炎を鎮める。


いつまでも泣いている俺の頭を、誰かが撫でた。

顔を上げれば、真っ黒な人形が。

ぎょっとする俺に、人形は前を指し示す。


青い風が村を包む。

気づけば煤だらけの村が、一面の花畑。


以来、最強ババアは俺の憧れだ。

憧れの影を追い続け、ついに出会ったその人は――





出禁にされた。

それもこれも、俺が悪い。全面的に悪い。


写真を撮って良い。

それだけでも十分だったのに。


浮かれていた。


憧れの人と、一緒に過ごして写真を眺める。

ずっとこんな時間が続けば良いのに。



いつもは自宅で作業していたが、先日は部室で現像した。

急いで見たかったし見せたかった。


そして見落とした。


印刷所を駆け巡り、なんとか回収したものの、既に一部が出回った後。


"彼女"は許してくれないだろう。


けれども俺は心配だった。

一緒に過ごした最強ババアは、やっぱり強くて、けれど時折感じる違和感。


初めて写真を見せたとき。

紅茶の甘さ加減が丁度よいとき。

針仕事に飽きが来たとき。


時折現れる"彼女"は、一体誰なのだろう……。


とにかく今は会わないと。

会って、謝って、側にいさせてもらわないと。


風の噂では、蛇による軍の被害は甚大で、最強ババアも毎日のように戦いの場に現れるそうだ。


最強ババアは誰より強い。

俺なんかいなくたって、何の問題もない。

むしろ、足手まといでしかないはずだ。


けれど、けれども、直感する。


「ひとりは、駄目なんさ……」



魔女の小屋には近づけない。

何度山に踏み入れても、同じ場所に戻ってしまう。


ならばと、規制線を掻い潜り最前線へ。

兵士に見つかり、こっぴどく叱られた。


垣間見えた"彼女"が心配で、打つ手もなく何日も魔女の住む山の麓を彷徨う俺の前に――


黒い人形――使い魔ハチが現れた。

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