第38話 ショックを受ける兄
「ソフィア待ってくれ!」
「ダニエルお兄様近づかないで!」
追う兄と逃げる妹。いまだに不倫を続ける夫のジャックと愛人マリアのことなど気にせず、ダニエルはソフィアに結婚しなくてもいいから事実婚のような形に落ち着こうと提案した。
しかし、ソフィアには道徳観から見て到底受け入れられないもので拒否した。世界に唯一無二の魔法使いのダニエルのことは人として尊敬しているが、当然だが恋愛感情を持ってはいない。ダニエルはソフィアを熱心に言い聞かせたがその甲斐はなかった。
それでもしつこく説得しようとするダニエルに、ソフィアは我慢の限界に達して逃げ出した。妹が逃げたら兄は話を聞いてくれと反射的に追いかける。今は広い屋敷の中で兄と妹の悲しき地獄の鬼ごっこがはじまった。
「ママにおかしな事をするな!」
「ダニエルおじさんやめろ!」
母を守るようにダニエルの前に立ちふさがったのは子供のリアムとトーマスでした。二人共ダニエルにとてもなついている。よく遊んでもらって家に来たときには必ずおもちゃにお菓子などプレゼントを持ってきてくれる大好きな人。
にも関わらず、今はダニエルに逆らうように険しい表情で注意を払っていた。幼くても男。母をいじめる悪い奴から自分たちが守らなくてはいけないと本能的な行動であったかもしれない。
「リアム、トーマスどうしてなんだ? 私がパパになってくれたら嬉しいと言ってくれたじゃないか?」
ダニエルはオロオロと焦ったように言う。実はダニエルは子供と遊んでいる時にさりげなく聞いていた。二人は父になってほしいと笑顔になって言っていたのに……どうして? ダニエルは悲しい思いが増すばかりだった。
子供たちはむしろ自分と妹を結婚に導く手助けをしてくれる存在だと考えていたのに、ダニエルの期待は見事に裏切られた。
「ママのほうが好きで大事だからだよ」
「ダニエルおじさんのことは、パパよりは好きだけど五番目だからね」
リアムとトーマスの中で明確に優先順位が出来上がっていた。まず一番上に母のソフィア、二番目に毎日いろいろ世話を焼いてくれるメイドたち。三番目は美味しい料理を作ってくれる料理人たちでした。四番目は広い屋敷の芝生や花壇の手入れをしてくれる早起きの庭師たち。
そして五番目にやっと母の兄のダニエルになる。父のジャックは母を悲しませることをしているのを子供も何となく感じているので父は圏外に落ちた。
「えぇ!? 私は五番なのか?」
ダニエルはものすごいショックを受けてしまった。あんなに遊んであげて来るたびに何かプレゼントして可愛がっていた妹の子供たちなのに自分は彼らの中で五番目らしい。ダニエルは胸がしめつけられるように切ない気持ちになった。
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