第37話 夫は愛人と旅行で兄は妹に事実婚を迫る

「ソフィア残念だがジャックは……」

「お兄様! 正直に仰ってください」

「ジャックと旅行に行くのはマリアだ」

「え? 学生の時の友人たちと旅行では?」

「完全に嘘だ」


夫から言われていた旅行は実はマリアと二人だけの旅行とわかってしまった。兄のダニエルに相談して調査したところ発覚する。世界でもトップクラスの精霊魔法使いのダニエルは、精霊たちと自由に交信できるので精霊に指示して夫の行動を監視した。


溺愛している妹に頼まれると兄は二つ返事で引き受けてくれた。調べ始め精霊たちの声を聞き集めて、数日後には夫とマリアが不倫関係を続けていたことが分かる。


最初に聞かされた時ソフィアは夫に対する失望感が胸に広がった。別れたと思っていた夫とマリアは水面下で接触していました。


「そんな……ジャックのこと信じていたのに……」


また夫に裏切られてしまいソフィアは悲しいことしか想像できなかった。救われようもない思いに沈んで暗い表情が影を落とすのであった。


「ソフィア!」

「な、なんですかお兄様!? 驚かさないでください!」


ダニエルが突然大声を上げて妹を呼んだ。ソフィアは思わずびくっと身を震わせる。ダニエルは闇の底へ落ち込んでしまいそうになっている妹を励まし元気付けようとしたが、驚かせてしまったみたいで怒られてしまう。


「――ジャックの事は忘れて私と夫婦になろう」

「はぁ?」


ダニエルは妹の顔をしばらくじっと見つめた後、根本的におかしなことを口にする。ソフィアは虚をつかれたような驚きを感じて呆れた声を出した。


「兄と妹が結婚なんて法律では不可能なことだ」

「お兄様、それなら無理なこと言わないでください!」


兄と妹は結婚できないとダニエルは妙に生真面目な声が言った。そんなことは当たり前だという風にソフィアは言い返す。


「あえて入籍せず事という選択もある」

「事実婚? なんですかそれは?」


ダニエルは妹の言葉に反論するように言う。事実婚のような形に落ち着けばいいんじゃないか? ソフィアは事実婚という言葉に今一つ理解できなくて首をかしげ眉を寄せた。加えて兄の心理状態もわからない。


「正式に婚姻届を出さなくても、夫婦として愛し合って結婚の意思があれば良いんだよ」


ダニエルは事実婚について説明する。心で密かに想いを寄せる兄と妹が互いに情熱が高まっていれば法律は関係ないと主張した。


「――でも私は別に、お兄様に愛情はないですけど?」

「うぇあっ!?」


ソフィアはちょっと考えて思った事を口にしてみたら、兄は奇妙奇天烈な叫びを発した。

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