第28話 興奮する兄に女性主人公の妹は冷静に話す

ソフィアは自分でも甘いと思いますが、夫と兄の気持ちが変わる事を信じることにした。今の気持ちに区切りをつけるならマリアと話をしてもいいけど、当然ですが身体の関係は許しません。


今度またマリアがロデオみたいに夫と兄の上で踊っていたら、正気じゃいられなくてマリアをあちら側の世界に送るだけの人生になってしまう。でもリベンジしたところで憎しみの連鎖が続くだけで、今度はマリアの家族にも心に傷を作ってしまうことになる。


好きだって気持ちを持った人間は大変だな。いざってなると道徳意識を持って生まれてきたような誰からも清廉潔白の聞こえの高い紳士の兄もクズに豹変するんだから……



――ここ数週間の自分の行動を振り返り、ソフィアは夫と兄と言葉を交わす事は減っていた。あい変わらず兄は家に遊びに来て子供と触れ合っている。


「リアムとトーマスほらプレゼントだよ」

「ダニエロおじちゃんありがとう」

「わーい! エロおじちゃん、やったー!」


兄に会うと子供たちは嬉しくて落ち着いていられない様子で、新しい玩具を与えられた時の顔は喜びに輝いていた。兄に飛びついてきゃっきゃと嬉しがって平和な微笑ましい光景だ。


子供にやたらと懐かれているなあという感じで、ソフィアは少し悔し顔でぼんやりと見ていた。もう裏切らないと約束した子供と遊んでいる兄を見ながら、家族の人生をこれ以上悲しいものにしないでねと心からそう願わずにはいられない。


「ソフィア一緒にお茶を飲んでいいかな?」

「どうぞ」

「二人は遊び疲れて休んでるよ」

「そうですか」

「元気にはしゃぎ回る二人といたら気持ちが癒されるね」


ダニエルは子供と遊び終わると妹に話しかけた。ソフィアは軽く返事をして二人は顔を合わせてお茶を飲み始めた。天使のリアムとトーマスは遊び疲れて深い眠りに入ったようだ。


しばらくの間、ダニエルは涙のこぼれるような気持ちで、ゆっくりと頭を撫でて子供のあどけない寝顔を見つめていた。


精神が緩んでのんびりと考えるには都合がよかった空間で、ダニエルは自分の心が癒されるように感じながら、妹との子供が真剣に作りたいとに思っていた。


そのためならできる限りのことをやると気合をいれた顔で立ち上がり、すっかり日課になっていたストレッチ体操して凝り固まった身体を軽くほぐすと、普通の人にはかなりきつそうな筋力トレーニングに励んでいた。


「お兄様、何かお話があるのですか?」


いつもなら子供と遊んだらソフィアに話しかけても整った容貌に笑顔はなく、冷たい視線を向けられてまだ許しくれないのか? と言い寂しく心が青ざめて悲しく目を赤くして肩をすぼめ気味にして家路をたどる。


それなのに今日はどうしたのか? さげすむように眺めても兄は何となくどっしりと構えている。ゆっくりと一杯のお茶を飲んでからソフィアが聞くと深刻そうな顔で兄は話し出した。


「ソフィアすまない。昨日マリアと話したんだ」


ダニエルは謝罪から口にした。申し訳ないと思っているのだろう。顔向けできないのかうつむき加減に視線をさまよわせて言う。


「そうですか」

「あれから初めて会った」

「マリアが体をすり寄せてきたが、私は指一本さわっていない。だから勘違いしないでほしい」


マリアと久しぶりに会って顔を見たら、瞬間的にベッドの上で同じリズムを刻みたいと感じた。ダニエルの本心はマリアに愛情はないけど身体の関係だけは続けたかったのだ。


すでに終わった出来事で数週間という少しの間だが、マリアというセクシーな魔女に精神的にも肉体的にも最後の一滴までダニエルの体は支配されていた。


「自分の気持ちに決着をつけるためにあの人と話をするのは認めてますから構いませんよ」


マリアと話をした事を兄が秘密にしていればソフィアは知らなかったわけだし、正直に話してくれた事はダニエルは妹にせめてもの誠意を示す必要があると感じた。


「マリアの身体に私はねじこんでいない! 私は耐え抜いたんだ……うぅ……」

「お兄様わかりましたから落ち着いてください」


妹はとても興奮して感情の熱が高まっている兄に、ゆとりを取り戻してほしいと意外なほど冷静な声で言った。

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