第22話 夫の愛人を助ける兄に妹は疑問
「お兄様本気でおっしゃるんですか?」
ソフィアは普通の精神状態の時は、ダニエルの事を『お兄ちゃん』と呼ぶ。兄はマリアを助けるように擁護する立場を取ったので、ソフィアは不安で落ち着かない気分になり興奮して逆上した。その結果お兄様と呼んで張り詰めた顔になって、兄の正気を疑うように目を光らせた。
「そうだよ。マリアは家族に不幸があって、辛い人生でも力強く精一杯生きている。それは私の率直な気持ちだ」
「お兄様はおかしいです。『パパ活』のような正々堂々と胸を張って言えないことを褒めるのですか?」
ダニエルは真剣な眼差しで自分の意見を修正することはなく、兄と妹は視線が絡み火花が散るようなにらみ合いをする。マリアは家族が壊れても逆境にめげず身を粉にして働いて頑張っている。ダニエルは真面目な顔をして言った。
だがソフィアは不機嫌そうに顔をしかめて反論する。マリアは父親でもおかしくない年齢の男と遊んだりして、自信を持って人には言えない事をしてお金をもらっている。
「別に私は『パパ活』を絶賛しているわけではないよ。それにソフィアも同じことをしているじゃないか?」
ソフィアは尊敬と誇りを感じる顔で言い返しますが、ダニエルは妹も似たような事をしていると冷静な表情を浮かべて、絶対に聞き捨てならない台詞を言う。
「え? 私がいつそのような恥ずかしい行為をしたのですか?」
ソフィアは目に驚きの色を浮かべて顔は苦痛に歪んだ。自分がいつマリアと同じようなことをしたのか? 産んでもらった親に顔向けができない事をしたのか? ソフィアはそんな後ろめたい気持ちは全然ない。
「ソフィア本当に分からないのか?」
「はい。少しも心当たりがございません」
「それなら聞くが、貴族や著名人たちセレブが招待されるパーティーに何かと参加してるじゃないか。記念パーティーやダンスパーティーとか」
「それが何か?」
妹に聞いても身に覚えがないと言うので、ダニエルは落ち着いた声で即座に切り返す。貴族はパーティー好きで有名人を呼んで多様なパーティーを行っている。パーティーの参加資格は、特権階級に限られていて彼らが支配する場所だ。
兄の言う通り、昔からソフィアは友人の貴族令嬢たちと色々なパーティーに行って楽しんでいる。そのパーティーに加わる事に何か問題があるのか?
「最後はお礼と言って令嬢たちに#小遣いや高価な品物を渡されてる__・__#じゃないか?ソフィアは綺麗だから昔からたくさん贈られてたよね?」
兄に言われて妹はハッと気がついた顔をした。このようなパーティーには伝統的な決まりごというルールがあって、男性参加者たちはパーティーのラストで、令嬢たちに感謝の気持ちに貢物を献上する義務を負っている。
「……確かに『パパ活』と呼べるかもしれません」
美しい顔で愛嬌を振りまくソフィアは、今までに数え切れないほどのプレゼントを贈られた。貴重な宝石とか金貨にドレスを贈られたことを思い出していた。他には一目で最高級ブランドの匂いを感じさせる家具や室内装飾品など、一般庶民には縁のない贅沢を極めた超豪華な物ばかりだ。
このパーティーには、最初から金銭を与えてくれる経済的に裕福な選ばれた男性しか招待されていないので、普通の女性がやっているパパ活とは大きく違ってかなり恵まれているだろう。
「そうだろう。普通の『パパ活』よりもソフィアはずっと凄いじゃないか? あんな豪華なものは普通の子はもらえないぞ?」
「ですが、この人のように私は身体の関係は持っていません。そもそも夫と不倫ですから!」
兄に指摘されてパーティーに参加して、多額の金銭や高価な商品を受け取っていたことには納得するが、ソフィアは身体は売ってないと異議を唱えて、自分は絶対にマリアとは違うと言い切る。
「マリアだって最初は断っていた。ジャックが甘い言葉で誘ってマリアの身体を求めたんじゃないのか?」
「お兄様は夫の愛人をずいぶん庇いますね?」
「そんな事はないよ」
それにしても兄はどうしてしまったのか? 基本的に女性に甘く優しい兄ですが、溺愛している妹が敵対する相手を助けるようなことを言うなんてあり得ない。
「怪しいですね。この人とお兄様の間に何かあったのですか?」
「な、何を言っているんだ。わ、私と彼女の間に何もあるわけないだろう!?」
ソフィアは顔色を変えた。マリアとダニエルは何かあったのか? そう言った時に兄は身体が一瞬だけ震えて心が乱れる。明らかに焦った口ぶりで言葉がつっかえて言い返してきた。
「――私はダニエル様と、一線を越えた男女の関係を持ちました」
「は?」
急に火がついたようにマリアが口を挟む。ダニエルと自分は男女の関係があると告白した。ソフィアは寝ぼけたような声を出してしまった。
「マリア! 何を言い出すんだ。やめろ!!」
「お兄様は黙ってください!」
止めるんだ! という思いでダニエルは大声で威嚇するようにマリアの名前を叫んだ。ダニエルはマリアとの間に肉体関係があることは明らかな慌てぶりで、ソフィアはとがめるように兄の声に負けまいと大声を張り上げた。
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