第21話 夫と愛人の異常な関係に妻は……
「それであなたは、この人に自分の欲望を満足させるために言う事を聞かせておもちゃにしたのね?」
「お願いだソフィア。そんな言い方しないでくれ。彼女は真面目な子で最初は断られたよ。でも僕は気持ちを抑えられなくて何度も泣きながら頼んで……」
「そんな恥ずかしい夫と結婚した私のほうが泣きたいです!」
公爵家の主人は、お金のない貧しい生活をしている女性の弱みに付け込んで甘い言葉で誘惑した。救いようのない夫に妻は悲しくなる。これほど卑劣な策を弄して女性を従わせたがる夫に妻は軽蔑するような視線を投げた。
ジャックは最初にお願いした時は断られたと言いますが、結果的に会えば高額なお金を受け取り高価な宝石をプレゼントされ、夫とそういう事をして関係を持っていたわけだからマリアに謝られても許せなかった。子供のリアムには理解できないかもしれないが、聞かせられないのでメイドが連れて部屋から退出させた。
「奥様!」
その時マリアが大きな声を出してソフィアを呼んだ。
「なに?」
「真剣にお願いしてくるジャック様を見ている内に、私は何か母性本能のようなものが出てきて……」
まさかここで愛人のマリアに呼ばれるとは思わなくて、ソフィアは意外という顔をしてあなたは何を言うつもりなの? という思いで聞いた。
この気持ち悪い夫が、母性本能をくすぐるステキなおじ様? 耳を疑うような愛人の言葉に、妻は全身の肌にぞっと寒気が走り鳥肌が立った。
「はぁ? 何を言っているの? あなたはお金のために夫の愛人になっただけでしょ?」
妻は愛人にも同情する気にはとてもなれない。父親の不正で恵まれた生活を失い、家族が路頭に迷い不幸な人生を歩むことになった。
確かにマリアという女性の壮絶な境遇には気の毒に思いましたが、自分の身体を対価に夫からお金を受け取り愛人関係を結んでいた女性を簡単に許せません。二人は同罪で処刑しますという気持ちだ。
「最初に言われた時は驚きましたが、ジャック様の事が好きになりました」
「あなたファザコンなの?」
マリアは小さい頃からずっと父親っ子でファザコン気質。そんな大好きな父親は悪さをして逮捕されて牢屋へぶちこまれた。たぶん一生出てこれないし、もうお父さんの顔は見られない。そんな時、父親のように自分を甘やかし可愛がってくれるジャックと付き合い、愛人生活を続けるうちに愛情が生まれたと話す。
「ですがもうジャック様に対して、もうそんな切ない思いはございません」
「そう……でも夫と離婚する私に関係ないわ」
マリアという女性はファザコンだから、年上じゃないと恋愛感情を形成できない。一時は頻繁に会ってお互いの愛情を確かめ合っていたが、マリアはジャックの事を今は愛していないらしい。ソフィアも夫とは別れを選択する覚悟を決めているので、愛人の言葉にも動揺することはなかった。
「奥様どうかジャック様とやり直してくださいませ。私貧乏だからお金が欲しくて母と弟に美味しい物を食べさせたくて……でも私はどうかしていました。奥様ごめんなさい。許してください」
「あなたが反省している事はわかりました。でも夫との事はあなたにとやかく言う権利はない!」
愛人のくせに勝手なこと言うな! 妻の顔は歪んで口惜しそうな表情になる。マリアは悪気があって夫と仲直りしてほしいと言ったわけでない。自分が考えた結果それが夫婦にとって、最善の道ではないですか? と意見した。マリアの事は何もしてなくてもなぜかイラつく人にソフィアは認定した。
「奥様の言う通りです。私はある人に救われて優しくされて、自分のしていた事に恥ずかしく思って完全に目が覚めました」
「あなたも素敵な人に出会えて良かったですね。ある人って?」
父親のせいで家族が壊れて家も失い不幸続きのマリアでしたが、新たな恋心が芽生えた相手がいると口にした。ソフィアは心の中で呆れるほかない。だが表面では良かったねという感じで、目の全く笑っていない笑顔をマリアに向けて何げなく相手は誰かと質問する。
「ダニエル様です。今は奥様のお兄様のダニエル様の事が好きになりました。できればお付き合いして結婚したいです」
「ふざけないで!」
兄はシスコンで面倒くさいですが、それ以外はダニエルはとても優秀な男で性格も素晴らしく、昔から誰からも好かれて完ぺきな紳士。今も兄との縁談成立を成し遂げようと思っている貴族令嬢は数多くて、引っ切りなしに見合い話が持ち込まれ直接兄に告白する女性は後を絶たない。
ダニエルは非常に魅力的な容姿であり、彼は世界一の精霊魔法使いで権力もありカリスマ性を持っていて超優良物件。それなのに夫の愛人なんかと兄が付き合って、結婚するなんて妹として絶対に認められないし、家族ぐるみの付き合いをするなんて耐えられない。
マリアにはどう考えても不釣り合いで、兄ならもっといい女性がいくらでもいるのに、わざわざ夫の愛人をしていたマイナス要素の女性と付き合うことはないだろう? という思いで頭にきて力の限り怒鳴っていた。
「マリアは『パパ活』をするような女性だけど、話してみたら心根は優しくて良い子だったよ。家族を支えるために彼女なりに必死に生きていたんだよ! 幸せな生活をしているソフィアには、お金がなくて苦労している女性の気持ちがわからないだろうな」
次の瞬間、ダニエルがつい口を出した。
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