普通の人間ではない
クラス・レガリアの後――
教師はカイルを見つめ、顔を強張らせながら声を震わせた。
「い、今の力……カイル、お前はいったいどんな魔法を使ったんだ!?」
カイルは小さく笑みを浮かべ、軽く肩をすくめた。
「ははは……ただの普通の魔法ですよ、先生。特別なことなんて何もありません。」
教室のあちこちで生徒たちがざわめき始める。目を丸くしたまま、誰もが信じられない表情を浮かべていた。
「い、今のが普通の魔法だって……?」
「うそだろ! 普通の魔法であんなことできるわけないって!」
教師はますます混乱し、こめかみに汗を浮かべながらカイルをじっと見つめた。
(まさか……彼が本当にアルデン王の息子なのか? しかし……あの力……危険すぎる……!)
カイルは教師の表情を見て、口元に皮肉な笑みを浮かべた。
そして、パシッ! と両手を叩き、わざと教師の前で音を立てた。
「先生、ねぇ先生!」と、わざとらしく声をかける。
「ひゃっ!? あ、ああっ! な、なんだカイル!」
教師は飛び上がるように返事をした。明らかに動揺している。
他の生徒たちは笑いをこらえきれず、くすくすと笑い声を漏らした。
新入生のカイルにあっさりと威厳を奪われた教師――それは、まるでコメディのような光景だった。
一方カイルは、まるで何事もなかったかのように椅子に腰を下ろし、落ち着いた表情で微笑んだ。
爆発を起こした張本人だとは思えないほど、堂々としていた。
教室の隅では、エリナがじっとカイルを観察していた。
その瞳には強い好奇心が宿り、まるで彼のすべてを見抜こうとするようだった。
カイルはその視線に気づき、ちらりと目を向ける。
そして、心の中でつぶやいた。
(……俺のこと、見てるな。)
その瞬間、隣に座っていたゼインが身を乗り出してきた。
「なぁ、カイル! もしかして……お前、神なんじゃねぇのか!?」
カイルは思わず体をびくっと震わせ、目を見開いた。
「はっ!? か、神ってなんだよ!? 俺はただの第三王子だぞ! 神なわけないだろ!」
ゼインは真剣な顔でカイルを見つめ、さらに身を寄せた。
「じゃあ……もし神じゃねぇなら……お前、まさか……」
カイルの心臓がドクンと跳ねた。喉が乾き、冷や汗が流れる。
(ま、まさか……こいつ、転生のことに気づいたのか!?)
しかし、ゼインは突然カイルの肩をポンと叩き、笑いながら叫んだ。
「……お前、超天才なんだろ!?」
カイルはホッと息を吐き、緊張の表情が一気にゆるんだ。
「ははは……まぁ、そうかもな。」と、軽く笑う。
心の中で、カイルは静かに微笑んだ。
(ふぅ……助かった。まだバレてないみたいだな、俺が転生者だってこと。)
――授業が終わり、カイルはゆっくりとアカデミーの寮へ向かった。
歩きながら、心の中にはさまざまな思いが渦巻いていた。
寮の部屋に入ると、静かな空気が彼を迎える。
待っていたアイリスが、すぐに一杯の水を差し出した。
「ご主人様、お疲れさまでした。どうぞお飲みください。」
彼女は優しく微笑みながら、まるで癒しそのもののようだった。
カイルはコップを受け取り、ゆっくりと口に含んだ。
その後、無言のまま上着を脱ぎ、鏡の前に立つ。
まだ若い体だが、しっかりと鍛えられた筋肉が浮かび上がっている。
(……俺、本当にこの体の持ち主でいいのか?)
心の中でそうつぶやき、鏡越しに自分を見つめる。
すると、かつての記憶がよみがえった。
あの処刑の日――力を持たず、縛られ、殺された過去の自分。
息が荒くなり、拳を握りしめる。
「絶対に忘れない……! あの王を……必ず倒してやる……!」
次の瞬間、カイルの瞳が青く光り、強烈な魔力のオーラが体を包んだ。
部屋の空気が震え、窓がカタカタと鳴る。
それを見たアイリスは、むしろ安堵したように微笑んだ。
(よかった……ご主人様、また少し強くなられた……。本当に、すばらしいお方……。)
――夜。静かな風が学院の寮を包み込む。
女子寮の一室では、エリナが窓辺に座って月を見上げていた。
白い頬がわずかに紅潮し、瞳はどこかときめいている。
彼女は両手で枕を抱きしめ、胸の奥の高鳴りを抑えきれずにいた。
「カイル……」
その名を、小さく、祈るように呟いた。
今日の授業で見たカイルの冷たい瞳、その静けさの中にある炎――。
思い出すたびに、胸が熱くなる。
「ほかの女には近づかせない……カイルは、私のものにする。」
エリナは顔を真っ赤にしながらも、強い決意を秘めていた。
「絶対に、彼を恋人にしてみせる……!」
そして彼女は枕で顔を隠し、心臓の鼓動を必死に抑えようとした。
――同じ頃、男子寮では。
カイルはベッドの上でくつろぎながら、水を一口飲んでいた。
だが突然、背筋にぞわっと寒気が走る。まるで誰かに見られているような感覚。
「……なんか、見られてる気がするんだけど。」
カイルは腕をさすり、眉をひそめた。
すぐに首を振り、苦笑いする。
「まさか……幽霊でもいるのか、この学院に?」
カバンの中で寝ていたネロがむくりと起き上がり、欠伸をしながら言った。
「おい、どうした? 顔が青いぞ。」
カイルはため息をついて答える。
「いや、なんでもない。ただ……誰かに見られてたような気がして。」
ネロは片目を細め、面倒くさそうに翼をたたんだ。
「気のせいだろ。もし誰かが見てたら、俺がぶっ飛ばしてやるよ。」
そう言って、またカバンの中に潜り込む。
夜風がそよぎ、カーテンが静かに揺れる。
カイルは机に向かい、ネロをちらりと見た。
「なぁネロ……俺、まだ存在しない魔法の属性を操ることってできると思うか?」
ネロは驚いて目を見開いた。眠気が一瞬で吹き飛ぶ。
「な、なんだって? この世界に存在しない魔法属性だと?」
彼は真剣な表情で言葉を続けた。
「……理論上は、できるかもしれない。だが、お前は人間だ。そんな力を扱えば、体が壊れるぞ。」
カイルは恐れるどころか、目を輝かせて笑った。
「本当か!? すげぇ! それなら、全部の属性を制覇してみせる!」
ネロは唖然としたまま固まる。
(こいつ……本当に人間か? まるで魔法に取り憑かれた化け物だ……。)
アイリスは静かに二人を見守りながら、穏やかに微笑んだ。
「ご主人様……その情熱が、どうか永遠に消えませんように……。」
カイルはベッドに仰向けになり、両手を頭の後ろに組んで空を見上げた。
「見てろよ、この世界……。俺は、存在しない魔法すら支配してやる。」
そしてその夜――
若き魔法狂の野望は、静かに燃え上がっていた。
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