第3話 2度目の目覚め

ピチャン、ピチャン、ピチャン、どこからか雫が落ちる様な音が聞こえる。

(ん?こ…こは、どこだ?)

目を覚ました俺は、顔だけを動かして、周りを確かめようとした、だか…

(暗すぎて見えないから、何があるか分からない)

周りは真っ暗で何も見えなかった。とりあえず、体を起こすことにした。

頭がズキズキして痛いが、それ以外は何ともなかった。

真っ暗だったが、だんだんと見える様になってきた。目が暗闇に慣れてきたんだろう…

「ここ、どこだ?」

俺は少し声に出してみたんだが、驚くことがあった。声が高めだったのだ。まるで、声変わりをする前の小さな子供の様な…

「な、なんで…どうなって…」

俺はどうにかして、自分の姿を確認したかったのだが、暗いためはっきりと分かるわけがないと思った。だから、少し歩いてここから出ようと思った。

立ってみると、

(何だろう…なんか、手とか足とか、小さいような?と、とにかく出よう!考えるのはそれからだ!)

俺は歩いて出る方法を探すことにした。


どのくらい歩いただろう、暗闇から抜け出せる気がしない…

(ここはマジでどこだよー?どっかに光ってる場所とかないのかー?はぁー)

疲れてしまった俺は、少し休むことにした。

周りを見渡しても、真っ暗な状態で、どこに行ってるのか分からない。

分かるのは壁があるってことと岩なのか分からないが、硬くて丸いものが数個あるぐらい。

(マジでどこー?ここはー?はぁー誰かいないのかよ?)

俺は休憩をやめて、また、歩き出した。


「やっとだーーーーー、どんだけ歩いたんだよ」

やっと、出口っぽいところを見つけた。外の景色が見えそうだった。俺は急いで、外に出た。


「どこ?ここは…」

外に出ると山の中なのか分からないが、草や木に覆われた場所で、鳥の鳴き声が微かに聞こえる。風がそよそよと吹いていた。

(とりあえず、行くか…)

俺はまた歩き出した。


道のりに沿って歩いていく。誰かが道を整備したのだろうか?遊歩道の様にちゃんとした道が続いていた。

(これ、どこまで行けるんだろう?どっかに家とかないのかな?…そういえば、フーリさんが言ってたな。誰か亡くなった人の体に入るって…俺、どんな子に入ったんだろう…、うっ頭が痛い…)

俺がこの体の持ち主のことを思った時だった。頭が割れるぐらいの痛みが生じた。

それと同時に記憶が流れ込んでくる。

(な、何だこの記憶、気持ち悪い…)

その記憶は、この体の持ち主の苦しすぎる記憶だった。


この体の持ち主の名前は、神城 玲(かみじょう れい)、俺と同じ名前だった。そして、この子は小学1年生だった。俺は元々高校生だったため、小学生になるとは思わなかった。そして、この子は親から暴力や暴言を吐かれながら生きていたらしい。この子の一家はみんな音楽の天才と呼ばれていて、世界的有名なバンドを組んでいるみたいだ。名前は[フォクシード]

…だが、この子とその妹は、天才の才能を上手く引き出すことが出来ず、毎日練習をしていたらしい。練習の中でミスをすると、親に殴られるなどの暴力を受け続けていた。そして、その練習に苦しみ続けた結果、この子の心が壊れてしまい、自ら命を絶ったということらしい。その亡くなった体に俺が入ったということだ。

(なんか、絶対やばい家庭じゃん!それに、音楽の天才一家?!俺、楽器を持ったことないけれど?!どうすりゃいいんだよー!)

俺はまた、暴力を振られる一家に転生したらしい…


(とにかく今は、家に帰ることだけを考えよう…いや、帰ってもしんどいだろうなー、家に帰っても地獄、このまま残ってても地獄、もうどうしようもないこの状況、俺どうすりゃいいの?マジで…)

俺は頭を抱えまくった。

(はぁ、帰ろ…嫌だけれど、帰ろ…)

俺は記憶を頼りに、この世界の自分の家に帰った。


やっとの思いで、家の前まで来た。

有名なバンド一家であるが故に、家は豪邸だった。

(めっちゃでかい!これ、どれだけの広さがあるんだよ?)

俺が呆然と家を眺めていると…

「あ、お兄ちゃん?」

「え?」

どこからか女の子の声が聞こえた。

周りを探すと家の門の側からひょっこり顔を出して、こちらを覗いてる子がいた。

「お兄ちゃんなの?かえってきたの?」

「君は…たしか…」

俺をお兄ちゃんと呼ぶということは、この子は妹なんだろう。ただ、名前がすぐに出てこなかった。

「おかえりなさい!お兄ちゃん!」

タタタタッと走り寄ってきて、俺に抱きついてきた。とても小さな手を俺の背中に回して必死に俺の服を掴んでいた。

そこで、この子の名前を思い出した。

「そうだ!君は、瑠奈(るな)だ!」

「お兄ちゃん!そうだよー!えへへ!」

名前を呼ばれて、凄く嬉しそうな俺の妹、瑠奈。記憶では家族から暴言や暴力を振るわれていて、傷ついているはずなのだが…傷ついてきたなんて、分からないような満面の笑みを見せてくれている。

(こんな、小さい子をミスしたからって殴ったり、叩いたりするなんて…酷すぎるだろ!)

俺はこの子を何とか守りたいと思った。


「ただいま、瑠奈、練習してたのか?」

俺はこの体の持ち主である、神城くんが亡くなっていることを悟らせないように、前の神城くんと同じ口調、仕草を真似しようと思った。

「うん…また、お母様におこられちゃった…わたし、なんにもできない…」

いつも以上に落ち込んでいるらしい。

「まあ、僕たちが家族の中で一番出来ないからなー、母さん達に迷惑かけてしまってるなー」

「お兄ちゃんは、できてるよ!わたしができてないだけで…」

「いや、僕も出来てなくて、怒られた。」

2人で落ち込んでしまった。

「とりあえず、中に入ろう!母さん達に怒られるのは覚悟しとかないと…」

俺は勇気を出して、家のドアを開けた。


家の中はめっちゃ綺麗で、やっぱり広かった。玄関から続いている廊下は10mぐらいあるみたいで、とても長い…廊下に沿って何個も部屋のドアがあった。

1つ1つの部屋には名前があって、楽器置き場、防音室、ピアノ部屋、ドラム演奏室、アンプ置き場…などなど、ほとんどが楽器に関する部屋だった。

(リビングどこだよ?あと、母さん達にどこにいるんだ?)

家の中を散策したが、この家5階建てで階段が何個もある。まるで巨大迷路に迷い込んだみたいに。

「母さんー!どーこー?」

「お母様ー!どこですかー?」

2人で大きな声を出して、呼んでみたが、返事はない…

「もしかすると、お父様のところかも?いってみよ?お兄ちゃん!」

瑠奈が俺の手を引っ張っていった。


5階まで階段を登り、廊下の突き当たりにある、団欒室に入ることにした。ここは、家族で報告をする時や世間話、練習の感覚などを伝え合う部屋となっているらしい。中から話し声が聞こえてきた。

「なん…みてな…そんな……から…どうしようも……のでしょう?……はもっと練習…と全く出来ないんだから。」

母さんの声が聞こえる。コンコンコン、中に入ろうと、ドアをノックした。

「何だ今は取り込み中なんだが?」

父さんの声が聞こえた。

俺はドアを開けた。


「ただいま戻りました。父さん、母さん…姉さん…兄さん」

部屋の中にいたのは、父さんと母さん、そして、兄さんと姉さんだった。

「やっと帰ってきたか、玲…全く練習もサボってどこに行っていたんだ!!お前は何も出来ない出来損ないのくせに!」

父さんから、早速罵倒が飛んできた。

「申し訳ございません、少々外の空気を吸いたくなりまして」

1人で死ぬために外に出て、死に場所を探していましたーなんて、言えるはずもなく、俺は誤魔化すことにした。

「ふん、外の空気など吸っている暇があるなら、とっとと練習しろ!」

すぐに練習練習というのが、この人の口癖らしい。

「分かりました。」

「サボっていた分、しっかりと練習してもらうからね!」

母さんがそんなことを言ってきた。

「分かりました。」

「もう良い、この部屋から出ろ!」

俺にはもう用済みだとすぐに部屋を出るように言ってきた、だから、俺は素直に出て行った。


出ていく時、姉さんと兄さんが悲しそうな目をしていた…ような気がする。

(何で、あの人たちは悲しそうな目をしていたんだ?ただただ出来ない俺たちをそんな目で見る必要がないのに…)

俺は不思議に思いながら、長い廊下を歩いて、自分の部屋を探した。ついでに、瑠奈はまだ、あの部屋にいる。瑠奈は父さんと母さんに呼ばれていた。多分、俺と同じように罵倒されるか、何か用事を言うかのどちらかだと思う。

部屋のそばで待とうかと思ったが、以前に待っていたら、「練習しろ!」って父さんに怒られた記憶があったからだ。まあ、この記憶は神城くんの記憶だが…とにかく、練習しよう…まず、楽器を弾けるか試そう…自信ないけれど…


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