第4話 演奏
3階にある俺の部屋(神城くんの部屋)にやってきた。広々とした部屋で、ギターやドラム、ピアノなどいろんな楽器が置かれていた。どれも練習した跡だろうか?キズや小さな窪みがたくさん付いていた。
(こんなにも広い部屋を1人で使ってたなんて…やっぱり有名バンドってすごいんだなー)
俺は楽器やバンドについてそこまで詳しくはなかった。だが、神城くんの記憶のおかげでどの楽器をどのように弾くのか、分かる気がした。
(1回弾いてみるか)
俺は、最初にピアノを弾いてみることにした。
〜♪♪〜
弾いてみると、指が勝手に動き出した。体が覚えているらしく、鍵盤に指を置いただけで、次々と奏でていった。
(俺、意外と覚えているんだな、なんか、ピアノの弾き方とか知らないはずなのに、知ってるみたいな、変な感じだな)
次は、ギターを弾いてみることにした。
ジャーン、ジャンジャカジャカジャカ、ジャンジャカジャカジャカジャカジャカジャカ……
ギターも自然に弾くことができた。
(え、これで無能とか出来損ないとか言われてたの?めっちゃ上手いと思うんだけれど……父さんの考えが分かんねー)
自然に弾けているため大丈夫じゃね?と思ったが、父さん達には響かなかったのかもしれない。
(てか、ギターって楽しいな、ちょっと憧れが昔あった気がするから、嬉しいな)
ギター初体験が別世界でなんて、笑えないが…
(次はドラムだ!)
ドン、タン、ド、ド、タン、ドン、タン、ド、ド、タン、ドン、タン、タン、タン、ドン……
ドラムも普通に叩くことができた。
(ピアノもギターもドラムもできるって凄いことなんじゃ……全部弾けるってすげー!)
前の俺は全く楽器が弾けない人だったから、楽器が弾けることに感動した。
(体が全部覚えてるんだなー、まあ、いいや、練習練習!)
楽器を弾くことの楽しさを感じた俺は、練習に励んだ。
どれぐらい練習しただろうか?時計を見ると0時を過ぎた頃だった。
(家に着いた時が18時で、ご飯を食べていない状態だから…6時間?!結構練習したなー)
練習することが楽し過ぎて、ご飯を食べることを忘れてしまっていた。
(てか、俺本当に嫌われているんだな……誰も呼びに来ない…自分で行くパターン?まあ、いいか……瑠奈とか来るかと思ったけれど……)
瑠奈には好かれていると思っていたが、向こうは向こうで練習していると思うので、自分でご飯を貰いに行くことにした。
(小学生に自分でご飯作れってことなら、ちょっと悲しいんですが……育児放棄かな?)
そんなことがないことを願って2階にあるリビングに向かった。
ご飯はちゃんと置いてあった。ラップに包まれているお皿が各2枚ずつあって、片方は俺のご飯だと思うのだが…もう片方は……
(瑠奈のご飯かな?)
まだ、ご飯を食べていないようだった。
(呼びに行ったほうがいいか?でもなー練習してるとこに行ったら、母さん達に怒られるんだよなー、練習の邪魔になるから来るな!って)
どうしようかと悩んだが、とりあえず、瑠奈の部屋に行くことにした。
瑠奈の部屋の前まで来たのだが、中からピアノの音が聞こえてきた。母さん達の声は聞こえなかった。
(母さん達いないのか、なら、入っても大丈夫かな?)
俺はコンコンコンとドアをノックした。
「はい…どなたですかー?」
ちょっと怯えるような声で返事をした瑠奈。
(これは…結構怒られたな?)
「僕だよ、玲だ。入ってもいいかな?」
「お兄ちゃん!どうぞー」
中から嬉しそうな元気な声が聞こえた。
ドアを開けると、ニコニコしながらこっちを見ている瑠奈がいた。
「瑠奈ーご飯食べないか?お腹空いているだろ?」
「お兄ちゃん!うん!おなかすいたー、でも、れんしゅうおやすみしてもいいのかな?」
「お腹が空いていたら、いい演奏なんてできないと思うよ?」
「!!!、そうだね!たべるー」
トコトコと走り寄ってきて、俺の手を掴んできた。その姿が可愛くて仕方がなかった。
リビングに着いて、瑠奈と一緒にご飯を食べた。誰かに作ってもらったご飯がとても美味しくて、俺は無我夢中で食べ進めた。
「お兄ちゃん、そんなにいそいでたべたらだめだよ?くるしくなっちゃうよ?」
瑠奈にめっちゃ心配された。
「はいほうぶ、はいほうぶ(大丈夫、大丈夫)ふむふむ……ん!んんんんん……」
急いで食べたせいで、喉が詰まってしまった。
「ああ!お兄ちゃん、しっかりー!」
瑠奈が俺に水を渡してきた。
「ん、ん、ん、ぷはー!た、助かった…」
「お兄ちゃんだいじょうぶ?」
瑠奈が心配してくれた。
「大丈夫大丈夫、ありがとう瑠奈」
「えへへ!」
瑠奈の頭を撫でてやると嬉しそうな顔をした。
「お兄ちゃん、おやすみなさい」
「おやすみ、瑠奈」
瑠奈を部屋まで送った俺は、自分の部屋に戻った。
(ふぅー今日はすごい日だったなー亡くなるし、天使に会うし、会ったと思ったら転生するし、起きたら知らない場所いるし、それで転生先の親も怒鳴り散らす怖い人たちだし……しんど過ぎた、あんな親ならそりゃあ死にたくなりますわ…てか、この少年、よく耐えてたな)
俺は自分の体を見ながらそう思った。俺の体には多くの切り傷や打撲痕など、痛々しい怪我の傷痕があった。
(どれだけの暴力に耐えていたんだ?てか、こんなこと瑠奈にもしていたのかな?してたら、俺、流石に怒るぞ!)
瑠奈に対して、暴力を振るなんて、ダメだと思った。流石の俺もキレてしまう。
(とにかく、今は住める場所があるし、しんどいのはあの親ってだけだし、楽器の練習しっかりやるか、ふぁぁぁ…ねむ、寝よう…)
俺は深い眠りについた。
◾️姉( 絵麗奈 視点)
私の親は音楽が全てだというほど、音楽が好きな人で、ストイックな人たちだ。子供達にもそして自分にも厳しく、ミスを1つでもすると、暴言や暴力を行う人たちだった。
私、神城 絵麗奈(かみじょう えれな)は弟と妹の姿を見て、泣きそうになった。妹の瑠奈と弟の玲が父さんと母さんに暴力を振るわれており、2人の体に傷をつけていた。
最初は、言葉で叱っていたのだが、その叱り方が少しずつ変化して、今では暴力や暴言で叱るようになった。2人とも身体的にも精神的にも傷つけられていた。
そんな2人を見ていた私は、どうにかしてあげたいと思った。昔から私とそして、兄の良一(りょういち)は天才と言われるほどの技術があった。私はドラムを、良一はベースを上手に演奏することができ、毎日練習するごとに成長し、世界でも通用するほどの実力者にわずか12歳でなった。
だが、瑠奈と玲はそうはならなかった。
才能があるのは確かだったが、2人ともその才能をどうやって発揮すればいいのか分からず、悩んでいるらしい。私と良一は直感でできるようになったので、どう説明すればいいのか、分からなかった。
そして、そんな2人に痺れを切らした両親が怒鳴りつけるようになった。
(はぁ、今日もどうすることも出来なかった…助けたいのに……)
私は自分の部屋で嘆いた。
今日の昼頃に玲と瑠奈が怒鳴られていた。姉としてはそんな2人をどうにかしてあげたかった。でも、どうすればいいのか分からず、ずっと悩んでいた。
怒鳴った両親はそれぞれ自分の練習に戻って行った。私は廊下で玲に会った。どこかに行く様子だった、だから私は声をかけた。
「玲、どこかに行くの?」
「………」
玲は私の問いに何も答えなかった。その姿はとても可哀想に見えて仕方がなかった。
「玲、大丈夫だよ!練習すれば、コツを掴めればきっと……」
「……に……わかんだ」
「え?」
玲が何かを言った。私は聞き取れなくて、聞き返した。
「姉さんに!!何が!!僕たちの何が分かるんだよ!!!」
初めて、玲が怒鳴り声を上げた。私はビクッとして、怖くなった。
「世界にも通用するぐらいの技術を持ってる姉さんが、僕たちの苦しみなんか分かるわけない!!練習すればって、コツを掴めればってそんな……そんな簡単なことじゃないよ!!!」
玲は泣きながらそう言った。この時、やっと私は自分の愚かさに気づいた。
どれだけアドバイスしたって、助けようとしたって、全部この子にとっては邪魔なことだったのだと、私には何も出来ないのだと…
「もう…ほっといて…」
静かに拒絶された私は呆然と立ち尽くして、玲の後ろ姿を見送ることしか出来なかった。
私は、何も言えなかった。そして、私はもっと注意深く玲を見るべきだった。あの子の目が死んでいたこと、もう2度とあの子に会えないということに気づかなかった。
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