第23話 そして、彼は行動する
思考が戻る。だが、少女はいない。
やはり、くだらなかったな。結局のところ、社会の摂理には誰も反することができないのだ。
「いえ、まだよ。望みが消えたわけじゃないわ!」
スズカが叫ぶ。
確かに、この短時間では奴らもまだそう遠くへは行っていないだろう。急いで追いかければ間に合うかもしれない。
「ですが、」とシルバが顎に手をやり思案顔で「再度、少女を盾にされれば同じ目に遭います」
「でも、行かなきゃ始まらないのよ! いい? 何事も行動しなくちゃ始まらないの。口だけなら誰でも言えるわ! ほら早く」
スズカの一声でシルバは頷き、それを合図にスズカは移動を開始する。
まあ、俺に意向無視に関してはもう何も言うまい。慣れた。
が、すぐにスズカは足を止めた。
そして、顔を前に向けたまま、ゆっくりと口を開いた。
「アタシたちは救出に向かうわ。例え、それが無謀なことだとしてもね。これが、アタシの使命だから。でも、アンタは違うわ。無理やり連れてきただけ」
やけに丁寧な口調だった。そして、先程までとうって変わって平生の自信に満ち溢れた威勢のいいものではなかった。
なにか、心細そうな。そして、スズカの背中がいつもより小さく見えたのは気のせいだろうか。
「何が言いたい」
俺はぶっきらぼうに答える。なにが言いたいのか、解っていたはずなのに。
「だから、アンタは来なくていいって言ってんのよ。どうせ、アンタに言わせれば正義なんて自己満足だしね」
通常のアニメ的漫画的ストーリーなら、ここで主人公は正義に満ち溢れた感動的な言葉を発し、正義こそ正義的な王道ストーリーを成立させるのであろう。
だが、俺はそれが大っ嫌いだ。
なにが正義だ。正義は自己満足だといっただろう。
だから、俺に取れる一手はこれしかないのである。
「そうだ。正義なんて自己満足だ。用が済んだんだったら、俺はお暇させてもらうわ」
「そう……」
俺はその場から、ゆっくりと去っていった。
それを合図に、スズカとシルバ両氏は急ぎ足でゴルバたち一行を追うため、走り去っていった。
別れ際、スズカは無言のままだった。
最低な人間だとか、また罵ってるんだろうよ。
まあ、そうだろう。当然だ。
シルバだけは、別れ際に俺の顔を見て全てを見透かしたかの如くニヤついていたがな。何なんだあいつは?
ああ、正義なんかしょうもない。自己満足だ。
少女を助けて、英雄、か。
そんなもんは無理さ。第一、俺にそんな力なんてない。
スーパーヒーロー的俺つえー的な能力もねえしな。
正義は自己満足だ。だが、自己満足のために動こうじゃないか。
俺はスズカたちの後を追った。
森の中を彷徨ってしばらくの後のことである。
やっとのことで、スズカたちを目で確認できるほどに近づくことができた。
現状はこうだ。
スズカたちは、ゴルバたち一向に追いつき、再度戦うこととなる。
しかし、状況は先程と変わらないのであり、ゴルバたちは少女を盾に再び逃れようとする。
まあ、言わんこっちゃないとはこのことである。
俺は物陰から動向を見守る。
だって、命は惜しいしね。来なくていいって言われたのに来ただけでも、いいじゃない。俺的にはそれで満足だもの。
しかし、次の瞬間、事態は急変する。
これまで、少女を盾にして逃れようとしていただけだったゴルバたちが、痺れをきたして襲ってきたのだ。
スズカ、シルバ両氏も、それに対抗すべくさっと剣を取り構える。
が、それを見たゴルバが、
「動くなと言っただろう。動くとこいつの命はねえ。大人しくその場でやられてもらおう」
ニヤつきながら、人相の悪い表情で告げる。
「くっ」
前からは、剣を握った敵が向かってきており、このままではやられてしまう。しかし、動けば逆に少女の命は守れない。
いくら剣の腕の立つ両氏でも、この状況ではどうしようもない。
つまり、絶体絶命である。
では、この状況下で動けるのは誰なのか。
そう、俺しかいないのだ。
全く、面倒である。来ただけで、自己満足達成なのにね。
しかし、ここで何もしないまま見ているというのも俺の倫理に反する。
何故なら、このままスズカたちがやられてしまうことに、俺は満足しないからだ。
つまり、自己満足からの行動である。
ならば、俺のポリシーに一切反さない。寧ろ、自己満足まで出来てオールオッケー。
と、言いたいところだが、もう一つのポリシーに反する。それは、己の命が大切だということである。
つまり、安全を保証しなければね、いけないと思うのね。人道的行動さ。
人道的行動かつ万全な策、か。
俺の剣の腕は、誰にでも解るように、まあ、人に自慢できるほどではない。いや、自慢しないだけよ。謙虚なのさ。
つまり、できる行動はひとつ。
――俺は深呼吸し、駆け出した。
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