第22話 悪の前に正義は敗北を喫する
カキンという金属音がその場にこだまする。
7対3、普通に考えればこちら側が圧倒的不利な状況であるように思われるのだが、現状は互角であった。
なお、正確に言えば、俺はレベル差から全くもって使えない要員であるからに実質の戦闘要員価値はゼロに等しいように思われたがな。
あと、何故か戦闘が始まった直後、俺が剣を構えて敵進した時、お化けでも出たように驚かれたんだけどアレなんだったんだろうね。もしや、存在を認識されてなかったのかな? ち、違うよね?
さて、現状としては先の通り、スズカ、シルバは驚くべき剣術能力を発揮し、未だに状況は互角のままである。
そこに、チョクチョク俺も参加中。すんごい面倒くさいんだけど。正直、家に帰りたいです。
スズカ、そしてシルバの剣の腕前は先のモンスター戦でも解ってはいたつもりであったのだが、対人戦ではさらにその華麗な剣さばきが際立つものがある。
そして、二人のコンビネーションの高さ。
シルバが先陣を切って進撃し、敵が怯んだところにスズカの猛烈な一撃を食らわすのだ。
美しくも、強さ有り。なんだろうね、感無量だわ。
対するゴルバ率いる「GF」の連中の剣さばきは、力任せに剣をブンブン振り回すという実に大胆なるものだった。
ガタイを活かしていることには、大変良いように思われるのだが、力任せな分、効率が悪く、隙が多くなってしまう。
さらに、力任せは当たれば言うことなしだが、かわされ続ければ体力の消耗が激しい分、次第に動きが鈍くなってしまう。
案の定、ゴルバたちは額に汗をびっしょりとかき、大きく肩を揺らしながら息遣いを荒くしている。
これはチャーンス! と俺が言うまでもなく、次第に相手方が押され始めたのだった。
「……くっ」
ゴルバたちは、事態が悪化するとともに険しい表情になり、苦虫を噛み潰したような顔をする。
そして、とうとう相手方はへばってしまい、後退ののち、隅にまで追い込まれてしまった。
さあ、追い込んだぞ。もう、勝ったも同然だな。
俺は勝利を確信し、目線をスズカたちのほうにやる。
すると、シルバが俺の目線に気づいたのか、少々強ばらせた顔を緩め、
「そろそろ、御終いのようですね」
「ああ、そのようだな」
シルバは俺の反応に軽く頷いた。
誰もが勝利を確信した。
奴隷同様に酷い扱いをされていた人々が小さく歓喜の声をあげる。
しかし、スズカの方に目線をやると、そこには依然表情を強ばらせたままのスズカがいた。
なんだもう勝ちなんだからそろそろ表情を緩めてもいいんじゃなかろうか。
俺はちょいと肩をすくませる。
だが、そんな悠長な考えは次の瞬間、瞬時に消え去ったのだった。
それは、スズカの単調な一言からだった。
「……1人足りないわ」
隅にへこたれるようにして、半ば降参状態で座り込んだ男たちを見回したスズカの言葉だ。
慌てるようにして、シルバも男たちを見やる。
「1、2、3、4人……一人足りない」
シルバがやや強ばった面持ちでそう呟いた矢先のことである。
少女の悲鳴が鼓膜を揺るがせたのだった。
瞬時に声の出処である背後に体を翻すと、そこには、恐怖の余り今にも泣き出しそうになっている少女とニヤリと笑みを浮かべたゴルバの姿があった。
そして、青ざめた表情を浮かべた少女の白く細い首元を凝視すると、薄明かりに照らされてキラリと光る短剣がチラつかされていた。
「な、なんてこと……」
スズカが険しい表情で呟く。
「こいつの命が惜しければ、俺たちを逃がすことだな。お前らが一歩でもそこから動こうとでもすれば、コイツの命はないと思え」
刃を少女の首元につきつけ、ニヤリと告げるゴルバ。
悪党の中の悪党だな。心の底から腐っていやがる。
ゴルバは、少女を盾にその場からそろりそろりと後ろずさり、それに従って、ゴルバ以外の連中も続くようにして立ち上がる。
「いや……っ、やめて……っ」
少女が声にならない小さな叫びを口からこぼす。
だが、俺たちが安易に助けに動けば、少女の命は保証できない。
実にどうしようもなくその場に立ち尽くすとはこのことだな。
シルバもスズカも共に唇を噛み締めつつ、その場を動けない。
そうこうするうちにも、少女を連れたままのゴルバたちは逃げるようにして去っていってしまう。
やはり、正義なんてものはくだらない上に叶うもんじゃない。
正義なんて気取るもんじゃない。救助? そんなことして誰が幸せになるんだ? 現に少女が連れ去られようとしているじゃないか。
確かに、大勢の人々が解放され、俺たちはその名の通りヒーローだ。
だが、犠牲のある正義なんて、正義でもなんでもないだろう。ただの自己満足だ。
その場の時空が歪んだかの如く、ゴルバたちに少女が連れられていく光景が実にスローモーションのように視界に映った。
ふと視界が雨雲でも眼球に住み着いたかの如くぼやける。だが、少女が救いを求めるような視線を俺に向けていたことだけは、はっきりと解った。
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