第9話 我が願いは届かない

 ぼっちは、人類史上最強の人種である。

 例えば、よく話題になるアニメや漫画といった仮想の物語において、近年、ソロで世界を救う、ということが流行になっている。

 つまり、ソロ最強伝説である。

 例えば、ソロは自分の時間を有意義に過ごすことができる。

 自分の使いたいように時間を有効活用できるのだ。

 もし、誰かと一緒になってつるんでいるとしよう。ならば、友情の名のもとにあっちこっちに振り回された挙句、結局いいように使われるのだ。

 そして、最後の締めの言葉は、「俺たち、友達だろ?」である。

 つまるところ、「友達」「仲間」の2語で様々な事象が事足りてしまうのだ。


 さらに、集団というものには、「空気」と呼ばれる大変厄介なものがある。

 集団に属している以上、場の空気を皆一様に読み合い、自分が仲間はずれにならないように神経を尖らせあっているのだ。

 そして、もし空気の読めない行動をとった奴がいた場合、皆から、空気読めない、通称「KY」と連呼されるのである。

 ああ――。これは実証済みだから、確証が持てるぞ。ソースは、小六の時の俺。

 ホントなんなの? 空気読めないって。空気が読めるわけないだろ。超能力者か。

 であるからに、そのような集団に属さないソロは最強なのである。

 また、ソロ=ぼっちであるからに、ぼっち=最強という式も成り立つわけである。

 結論を言うと、ぼっちな俺=最強。



 そして、いつもの通り、ぼっち精神を研ぎ澄ますべく、本日もソロプレイを楽しもうとしていたのだが……


「で、お前ら、なんでいんの。ストーカーなの? 俺、忙しいからついてこないでくれない?」


「はあ? 誰がストーカーよ! これがアンタの仕事よ。クエスト!」


「だから、それは解ってるから。な、なんでいるのでございましょうか?」


 またしてもスズカの威勢に拍子を抜かし、噛んでしまっていると、横からひょこっとひとりの微笑を浮かべた男が顔を覗かせた。


「つまり、こういうことです。ダンジョンは、大変難易度が高いため、僕たちも同行するというわけです」


「……はい? 全く解らん」


 もしかして、俺の日本語能力がないせい、じゃないだろうな。

 俺が理解不能になっていると、スズカが面倒くさそうに付け加える。


「だから、アンタじゃ務まりそうにないから、アタシたちも手伝うって言ってるの!」


 やっと、解りました。

 で、なんでまた?


「なんで、って。もういいわ! だから、ついていくって言ってるのよ。オーケー?」


「いや、本当にわけワカメ状態なんだけど」


 もしやこれはあれか? 部下の営業に口出しの多い厄介な上司がついてくる、胃が痛くなるパターンのやつか。

 もう既に、先が思いやられるんですけど。ああ、胃が痛い。


 重たい足取りで街を出た俺たち一行は、しばらく渓谷を歩いた後、ダンジョンの入口にたどり着いたのだった。

 案外近いな。徒歩10分ってところか。

 もしや、街からのアクセスが便利! っていうのがこのダンジョンの売りなの? なにその不動産広告。


「さあ、さっさと攻略しちゃいましょう!」


 スズカ副リーダー閣下の掛け声のもと、俺たちはダンジョンへと足を踏み入れるのだった。

 え、本当についてくるの? そろそろ被害届でも出そうかしら。

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