第7話「混沌」


 比呂は、一つ小さなため息をついてから、TVゲームの電源を落とした。

 友人から借りっぱなしになっていたゲームの続きをしてみたが、全く気分が乗らない。どうしても、一連の事件の事が頭にこびりついて、離れないのだ。

 今日はもう日課をさっさと消化して、寝た方が良いだろうと思い、椅子から立ち上がった。

 熱帯魚水槽に餌をばらまくと、小魚達は今日もまた水面に群がって、餌の取り合いを始めた。本能にのみに従い、何の悩みも持たずに生きている彼らが、少し羨ましく思えた。

 水槽の前でしゃがみこんだまま、比呂はファミレスで一平太と行った議論について思い出し、再度深く掘り起こしてみた。

 佳子を窓から覗いていた者、菅原に襲い掛かった者は、一体何者なのだろうか。一平太は、少なくともそれらは生きた人間だと主張する。

 確かに、比呂の脳内に他者の視界が入り込んで来る時には、その者の感情も同時に入って来るような気がするのだ。

 特に、レジ袋を被ったセーラー服の女(?)が襲い来る光景を見た時には、視覚の主である菅原が感じた驚愕と恐怖を強烈に共有したのだ。

 それでは、「菅原に襲い掛かった何者か」そして「佳子を覗き見た何者か」の感情は?

 比呂は、しばしその時の記憶と感覚を再生してみるが……


 何も無かった……


 それは、受け取った感情を思い出せない、ということではない。その時感じ取った物は、感情が一切存在しない「空っぽの心」だったのだ。

 しかし、それはまた、その者に「心の存在」が確かにあることも同時に意味している。

 そんな人間が実在するとすれば、むしろ幽霊などよりも、よほど薄気味悪いのではないか。


 それにしても……


 比呂は再度熟考する。そして首を傾げる。

 一体、この「居心地の悪さ」は何なのだろうか、と。

 自身の内部に、どうにも釈然とし無い「何か」が存在している。特に、菅原に襲い掛かった、セーラー服を着た何者かについて……

 

 それが、判らない。

 「あの者」を見た時間はほんの一瞬に過ぎなかったので、今の自分には検証する方法も無いのが、余計に気持ち悪かった。

 その時、デスクの上に置いたスマホがビリビリと音を立てて、比呂を驚かせた。

 この状況で電話をかけてくる者とは……?

 慌てて立ち上がり、デスクに近づいて、スマホを手に取った。

「おお、俺だよ。今、電話大丈夫か?」

「ああ、問題ないよ」

 案の定、声の主は一平太だった。普段なら、鬱陶しいことこの上ないメールや電話しかよこさない一平太だが、今の状況では、彼の探究心と行動力はむしろ頼もしくさえ感じられる。

「いやさ、ちょっと気になる事があるんだよ。聞いてくれ」

「ああいいよ。なんだよ」

 一平太の声は、やや興奮気味だ。彼なりに何か気がついたことでもあったのだろうか。

「ファミレスで『33』って数字がカムロミサの『ミサ』のことだって話があったろ?」

「ああ、気がついた由利さんは流石だったね」

「いや……実はあの時、その説明では何かが納得が出来なかったんだよ。それが何故なのかが、さっき判ったんだ」

「納得できない?」

「だって、それだと『3』という数字にわざわざ変換しなければならない理由にはなって無いだろ?」

「え……? 良く判らないよ……」

「つまり、画面を埋め尽くす文字が、そのまま『ミサミサミサミサミサ……』というカタカナの連続ではいけない理由にはなってないんだよ」

「まあ、言われてみれば……」

「つまり、『はずなんだ。それで、思ったんだよ。『V.H.最終章』の首なし女子高生が現れる前後のエピソードで、『3』という数字に関係する描写は無かったのか?」

 比呂は、そう一平太に言われて、しばし考え込んだ。あの「V.H.最終章」の内容は、無意識のうちに、記憶の底に固く封印してしまっていたようだった。恐らくそれは、比呂の防衛本能が成せる技なのだろう。しかし、この事態においてはそうも言っていられない。

「最終章」の内容を思い出そうとすると、臓腑の奥から不快な怖気が沸いて来た。

それに耐えながら、何とか記憶を探り出してみると……

「ええと……ああ、そう言えば……」

 とある、何気ない文章描写が浮かび上がってきた。

「そう言えば?」

「冒頭で『V.H.』を読み終わった女子高生は『三十三番目』の読者だった……かもしれない」

「そっちか!」

 耳元のマイクから、音が割れんばかりに一平太の声が発せられた。

「そういうことだ! ……そういうプロットなんだよ!」

「ああ、確かに。それで繋がるね!」

「お、おい。今、『V.H.十二章まで』を読んだ生徒のリストってお前の手元にあるのか? 佳子が読み終わった後、お前に原稿と一緒に渡して、そのままになってたはずだよな!」

「多分、あるけど……ちょっと待って。今、出してみるけど……ええと、ああそういうことか」

 比呂は、机の上にテキスト類と一緒に置いてある封筒を取り出し、中に入っていた「V.H.十二章まで」の原稿の束の下に敷いてあった名前リストを抜き出した。

 比呂は、既に一平太が言わんとしていることを理解していた。リストに並んでいる二年A組の生徒達の氏名のうち、既に「V.H.十二章まで」を読了した者には横線が引いてあった。また、名前の下には読了した順番と日付も記入してあった。

 比呂の感覚では、まだ読んでいない人間が見分けられさえすれば、名簿の役割としては十分だろうと思ってしまう。順番や日付まで記入するとは、随分と几帳面な事をするなと、多少の違和感を覚えていたのだ。

 その疑問が、やっと解けるのかと思ったが。

「ええと、ペータ。お前が聞きたいこと判るよ。三十三番目の読者は倉持って人だね」

「ああ、そうか。倉持? で、それって読み終わった日付は?」

「ええと……五月三十日ってなってる」

「え? となると、大分前だな……三十日となると……」

 電話の向こう側から、一平太の声はしばらく聞こえなくなった。カレンダーを確認しているのだろう。

「二週間前か……う~ん……二週間前か~ じゃあ、そのリストによれば、今合計で何人読んだんだ?」

「ええと……この紙に書かれた人達だけだとすれば、僕が最後で三十八人だね」

「う~ん……二週間前、何か妙な事件って学校で起こったか?」

「いや……僕も思い返してみたんだけど、全く無いよね。平穏そのものだった」

 問題の「V.H.最終章」は現実のキタ高を舞台としている。そして、「V.H.最終章」の中に存在する「劇中小説V.H.」とは、現実の二年A組で回し読みされた、「桐谷が執筆したV.H.十二章まで」と同一の内容だ、という設定になっているのだ。つまり、「V.H.最終章の小説世界」と「劇中小説V.H.」の関係は、「現在のキタ高の状況」と「V.H.十二章まで」の関係と「相似形」を成しているのだ。

 仮に「三十三人の人間が読了する」ことが「カムロミサ」が出現する引き金である、という「最終章」における設定が、この現実でも成り立つのであれば、。しかし、実際にはそうはなっていないのだ。

「ううう……ん。こうなると、ますますお前のパソコンから『VH13』を復活させないといけないな。全文を読んでみないと何とも言えないよ」

 一平太は、苦虫をつぶしたような声になった。折角膨みきった期待が、一気にしぼんでしまったのだろう。

「パソコンに強い俺の知り合いが、明日なら都合がつくって言ってるんだ。お前の部屋にそいつを連れて行くぞ。お前は何時に帰宅できるんだ?」

「え、明日は佳子の部活があるから遅くなるよ。また送らないといけないし」

「おいおい、夕方までなんて、とても待てないよ。じゃあ、明日学校で、お前の部屋の鍵を俺に渡してくれ。その知り合いと俺が、先にお前の部屋に行ってるから」

「え? それは……」

「大丈夫だよ。お前の部屋あさって、エロ本見つけたりしないからさ」

「ううううん……」

 一平太らしい強引な提案だ。こういう時に、首を横に振る事が苦手な比呂は損をするのだ。しかし、自分の留守中に部屋に他人を入れるのは抵抗があるものの、確かに一刻も早くメールとファイルを取り戻すことが必要なのは間違いない。このままアキラの失踪が続くならば、メールを証拠として警察に提出する必要性だって出てくるかもしれない。それを考えると、ごみ箱まで完全にファイルを削除してしまったのは、確かに比呂のミステイクだった。

「じゃあ、また明日な」

「うん……」

「あ……!」

「え、何だ?」

「ちょっと待て……待てよ……」

 急に一平太の口調が色めきたった。またもや何かを閃いたような様子だ。

「そうだ……考えてみればそうだよな……これはまだ何とも言えないよな……」

「おいおい、何一人で思わせぶりなこと言ってんだよ。何のことだよ。教えてくれよ」

「いや、今の話の件で気がついたことがあるんだ。これから色々調べてみる。それで何か判ったら、明日報告するよ。じゃあな」

 そう言ったきり、一平太は一方的に電話を切ってしまった。

 いつもの調子で置いてけぼりを食らった比呂は「やれやれ」と思いながら、スマホの電源を切り、机の上に置いた。


☆                ☆


 突然、けたたましい電子音が脳を揺さぶった。

 比呂は朦朧とした頭で、何とか状況を理解する。

 周囲は暗い。部屋の中だ。

 この音は固定電話の着信音か……? 自分は確か寝床に入ったのだから、きっとこの音で覚醒したのだ。

 それにしても、この電話にかけてくる人間といえば、数人しかいないはずだが……

 電話は、静まり返った室内で、酷く癇に障る音を反響させ続けている。比呂はもそもそと布団から這い出して、受話器を取った。

「もしもし……」

「あ、比呂? ごめんね、寝てたでしょ?」

 はたして、返って来たのは、聞き慣れた佳子の声だった。

 畳の上に置いてある目覚ましを手にとって覗くと、時刻は深夜二時過ぎだ。

「どうしたんだよ。こんな時間に……」

「目を覚ましちゃったの……何だか、怖くて……」

 正直を言えば、深夜に眠りを覚まされたのは、決して楽しい事ではなかった。しかし、今にも泣きだしそうな佳子の声を聴いてしまったら、不平を言う気はしぼんでしまった。

「何かあったの?」

「何だか、男の人の凄く大きな悲鳴を聞いたような気がするの。それで目が覚めたのかも……」

 いきなり、聞き捨てならない話が飛び出した。お蔭で、比呂の眠気は一気に吹っ飛んだ。

「悲鳴? マジで……? 悪夢を見てたとか、寝ぼけてたんじゃなくて?」

「うん。はっきりはしないんだけど、何だか近くで聞こえた気もするの」

「どこから?」

「判らない……隣の部屋かもしれないし……それ位近いってこと……」

「隣って、例の隣の部屋……?」

「うん……」

 あえて、自分の方からは隣の部屋の事を言及しなかったのだが、比呂の悪い予感は当たってしまった。

 事故物件……窓の隙間からの覗き見……そして、今度は深夜の悲鳴……

 一貫性は全く無いが、何故こうも気味の悪い要素が「隣の部屋」に重なるのだろう。

「あと、もう一つ気になることがあるの」

「何?」

「その悲鳴とは関係ない事なんだけど……何だか、頭の何処かに、気味の悪い風景がちらついているような気がするの……」

「風景……って、どんな?」

「踏切……」

「え……?」

 完全な奇襲を食らった。

 何故だか、急激に室内の温度が下がったような錯覚に襲われて、比呂は身震いをした。

「真っ暗な夜の景色の真ん中に踏切があるの。それだけの風景なんだけど……何だか、怖いのよ……」

 比呂の記憶は、否応なく過去へと巻き戻されていった。二日前の朝、菅原の転落事故が起こった時の事だ。


(そういえば……)


 考えてみれば、二日前の朝、菅原が襲われるビジョンを垣間見た時、その直前に、正しく今佳子が言った通りの風景を見ていたのだ。恐らくは、比呂は無意識のうちに、その記憶を忌避し、封じ込めていたのだろう。

 自分一人が見ただけなら、只の白昼夢だとして退けることが出来たかもしれない。しかし、こうして佳子が、全く同じ風景を垣間見ているとすれば……、

 長い会話の空白を、佳子の消え入りそうな声が破った。

「ひょっとすると……それって『V.H.最終章』の中のシーンじゃないかと思うの……」

「え? 何か根拠があるの?」

「ううん……何となくだけど……」

「明日、ペータがパソコンに強い友達を連れて、僕の部屋に来るんだ。『V.H.最終章』を取り出す事が出来れば、それも判るだろうね」

「そうなんだ……」

「玄関のドアに、鍵はきちんとかけてるよね」

「もちろん……ドアチェーンもはめてる。窓にも鍵をかけてるし、心配するような事じゃないと思いたいんだけど」

「じゃあ、きっと問題ないよ。眠らないと身体に悪いから、気にしないで眠った方がいいよ」

 佳子の言葉は、すぐには返ってこなかった。電話を切りたくないのだろうと、比呂は察した。

「胸がドキドキして、すぐには眠れそうに無いかも……」

 無理も無いことだと思う。比呂とて、今の話を聞いて胸騒ぎが止まらないのだ。

「じゃあ、少し話そうか。僕も目が冴えちゃったし」

 まず、比呂は自分の部活の事へと話題を変えた。連日の奇怪な事件のお蔭で、ともすれば忘れてしまいそうになっていたが、殆ど全ての点において、比呂も佳子も全く普通の高校生活を送っているのだ。

 学校の授業の事、体育祭の事、最近やったTVゲームの事、好きな音楽の事……

 本当に他愛も無い事ばかりを、次々に話していった。

 その間、自分達がこのような世間話を長く交わしたことは、意外と無かったのかもしれないと比呂は感じていた。

 やがて、気持ちが少しは落ち着いたのか、佳子は再び眠くなってきたようだった。また早起きをしなければならないので、頃合を見計らって二人は電話を切った。

 しかし、いつまで経っても眠気が戻らないのは、実は比呂の方だった。例の「踏切の風景」の件が、頭に引っかかっているのだ。そして、再び寝る前に何としても確かめたい事が出来てしまった。と言うのも、佳子と会話をしている内に、もう一つの、些細だが重大な記憶が浮かび上がっていたからだ。

 机に向かい、PCに電源を入れた。しばらくすると、暗闇の中で液晶モニターが鈍い光を放った。

 起動が完了すると、即座にブラウザを開き、地図検索で「鎌倉駅」周辺の地図を表示した。それを最大限まで拡大表示にすると、線路に沿って少しずつスクロールしていった。

 まるで、草むらの中に隠れた、小さなアリの巣を探すような作業だ。

 それを続けること数十分。スクロールがとある地点に到達した所で、比呂の手がピタリと止まった。

「これ……か……?」

 無論、比呂が捜していたのは、鎌倉地区の線路にある「踏切」だった。

 そして今、地図の中央には、その中の一つが表示されている。数ある踏切の中でも、そこに比呂が注目したのには明確な理由があった。その踏切を渡った直後に鳥居のマークがあったからだ。

 実は、佳子と会話している最中、比呂の頭の片隅には問題の「踏み切り」がチラチラと見え隠れしていた。それは、踏み切り自体も明瞭でないほど暗い風景なのだが、その奥に、うっすらと神社の鳥居があるような気がしていたのだ。

「御魂神社」

 地図の表記にはそうあった。「みたまじんじゃ」と読むのだろう。ここは、実際に見たらどのような場所なのだろうか。

 直ぐに、単純な解決方法があることに気がついた。ネットの地図には、いわゆるストリートビュー、地図上のありとあらゆる地点で、その場所から撮った写真を見ることが出来る便利な機能があったのだ。

 すぐに、表示を通常の地図からストリートビューに切り替えてみた。

 視点は、踏切の正面、鳥居を挟んだ場所だ。

 ウインドウの内部が、有り触れた市街地の写真に変更された。

 その直後、比呂は本能的な違和感を覚えた。

 しかし、一体その根源が何なのかはひとまず追求せずに、視界の方向を回転させてみた。

 画面は、問題の「踏切」が真正面に据えられたアングルとなった。

 比呂が記憶している風景に比べると、かなり広い範囲を写した写真だ。画面の奥へと続く道の先に、踏切が小さく写っている。

 しかし、その中央部分をつぶさに観察してみると……

 線路の形、踏み切りの形、周囲に茂る木々の形……全ての物が記憶の中のそれと重なり合うように思える。

 さらに、踏み切りの向こうに、うっすらと鳥居の形もあるようだ。

 比呂と佳子の脳裏にちらついていたのは、正しくこの場所から見た、この風景そのものなのでは無いか……


(やはり、ここか……)


(いや、しかし……何故……)


 その時点で、ようやく比呂は、至極当然な疑問に行き着いた。


……?)


 その画像は、墨を流したように暗い、「夜の風景」だったのだ。

 つまり、物の形、配置だけではなく、それを撮った「時間帯」までもが比呂が幻視した風景と同一だった。

 のだが……

 しかし比呂は、その写真の中に、逆に一点だけ記憶とは異なっている個所を見出した。

 その場所に目を凝らしてみるが……


(何だ……これは……?)


 それ以上写真の視点を踏切に接近させることは出来ないようだった。しかし、同一の写真を拡大表示することは機能上可能だ。

 ズームを表す「+」のボタンをクリックして写真を目いっぱいまで拡大すると、踏切の部分が大きく画面中央に表示された。

 線路を横切るように、何かの物体が落ちている。

 元の画像では判りにくかったが、拡大してみれば、それが何なのかは疑うべくも無かった。

 頭部を向こう側、両足をこちら側に向け、文字通り大の字の姿勢で仰向けに横たわる人間の身体だ。

 首の位置を丁度レールの上に乗せているようだ。


(何で……ストリートビューにこんなものが映って……)


 静止画像であるはずのその人物が、突然上半身だけをムクリと垂直に起き上がらせ、比呂と向かい合った。

 セーラー服を着ている。

 そして、頭部には、白っぽい袋をすっぽりと被っている。

「うわっ!」

 比呂は、上半身をのけぞらせ、飛び跳ねるように、椅子から立ち上がった。

 液晶モニターに背を向け、数歩駆け出した。

 しかし、狭い室内のどこにも逃げる場所などありはしない。直ぐに壁に突き当たってしまった。

「え……!」

 再びモニターと向き合った比呂は、自分の目を疑った。

 液晶モニターに表示されているのは、踏切を中央に据えた通常の「地図」だった。

 錯乱寸前の意識を必死に立て直し、何とか頭を回転させる。

 自分は確かに、地図をストリートビューに切り替えたはずだったが……

 すると、さっき見た物は一体……

 比呂は、恐々とデスクに近づき、そっとマウスを握った。

 震える手で、再びストリートビューへの切り替えボタンにポインタを合わせてみる。

 しかし、それをクリックする決断を遂にできないまま、ブラウザを閉じ、PCを シャットダウンしてしまった。


 その後は、部屋の照明をつけたまま布団に潜り込んだが、いつまで経っても寝付く事はできなかった。一瞬だけ見た、袋を被ったセーラー服の女子の上半身が、いつまでも網膜に残像として焼き付いて、睡魔を寄せ付けないのだ。

 それを怖ろしく感じるのは当然だが、同時に、あの正体の判らない「違和感」が、しつこく脳裏に付きまとっていることに、比呂は気がついた。

 これは、一体何なのだろう……

 あのセーラー服の人物……

 極めて単純だが「」を、またしても、自分が見落としているような気がしてならなかった。


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