第1部 大森林の管理者

第1章 子グリフォン生活

 頭を優しくなでられている感覚の中で目が覚めた。

 頭をなでられるのなんて何年振りだろうか。触れた部分からぬくもりと愛情を感じる。とても心地よい。こんな風になでられることなんて親が死んで以来一度も…一度も…?


(…じゃあ今俺をなでてるのは誰だ?)


 一瞬思考が止まり、直後、頭がすさまじい速度で回転し始めた。その間、目は空を流れる雲に釘付けだ。


(そうだ、確か死んだと思ったら森を見下ろしてて振り返ったら化け物がいたんだった!)


 自分でも何を言っているかわからないが、おそらく間違っていないはず。夢ではなかったということは、青い空、白い雲、見渡す限りの大森林という目前の光景でよくわかった。一度気絶したことで冷静になれた、と思う。

 現実を受け止めたところで、状況の確認だ。まずはもちろん先程から俺をなでているのが誰かを確認せねばなるまい。なるまい、が。


(ものすごく嫌な予感がする…)


 意図的に視界から外していた存在を直視せねばならない。誰かを確認せねばとは言いつつも、大体の見当はついている。状況からして、俺をなでているのは…というかなめているのは、間違いなくさっきの「それ」だろう。ただ、なめ方からして敵意は全く感じない。どころか、愛情さえ感じる。敵ではない。敵ではない、が。


(怖いものは怖いんだよなあ…)


 猛禽類と肉食獣を掛け合わせた怪物。見た目からして根源的な恐怖を感じさせる。視界に入れることすら躊躇われるというのが本音だ。だが、現実を受け止めねば今後の方針すら立たない。意を決して「それ」の方を見た。


 「それ」は当たり前のようにそこにいた。さっきは気づかなかったが、この怪物はかなり大きい。全長で俺の五倍はあるように思う。覚悟していても怖い。上半身が鷲、下半身が獅子…確か伝説上の生き物にそんなのがいたような、ええと…?


(…グリフォン! グリフォンだこれ! 実在したのか!?)


 さっきは気づかなかったことがもう一つある。猛禽類の目はものすごく怖いのだが…視線や仕草からこちらを心配しているような様子がうかがえる。

 相手が謎の怪物ではなく(名前だけわかる伝説上の生物だが)自分に理解できる存在だったことと、相手がこちらに向けている意識が敵意どころか愛情に近いもののようだと感じたことが、俺の気持ちを安心させた。


 調子に乗って、俺はグリフォンとコミュニケーションをとれないか試してみることにした。伝説上の生物と言われるくらいだし、なんだか知的な雰囲気も感じるので、もしかすると人語を理解できるかもしれない。というか、先程から俺はこのグリフォンとコミュニケーションをとれる気がひしひしとしているのだ。根拠はないがこれは確信に近い。なんなら千円かけてもいい。さっそく話しかけてみる。


「ピィー!」


 …んん?

 寝起きのためだろうか…うまく声が出ない。もう一度試してみる。


「ピピィー! クエックエッ!!」


 …自分の喉から鳥の鳴き声のようなものが聞こえる。このあたりで、決して頭が悪いわけではない俺は、不幸なことに自分の置かれた状況がどのようなものであるか、ピン!と閃いてしまった。

 最初に自分の体を確認しなくてよかったと思う。俺の予想が正しければ、俺の体はグリフォンに体をなめまわされている現状よりも恐ろしいことになっているはずだ。


 視線を落とし、自分の体を見ると、腕…いや、前脚は見事に猛禽類のそれであり、後脚はたくましい獣の脚だった。もちろん翼と尻尾のおまけつきだ。

 予想していたもののショックは大きく、俺は目覚めた直後に再び気絶することになった。


 グリフォンとコミュニケーションをとることができるはずだ、という確信は間違ってはいなかった。

 なんたって、俺自身がグリフォンになってしまったのだから。




 二度目の気絶から目覚めると、今度は血の滴る生肉に埋もれていた。どこだここは。


(よーし大丈夫だぞ俺…気をしっかり持てよ…冷静にな…大丈夫俺はやればできる子…)


 もう一回情報の整理だ。死んだと思ったらグリフォンに生まれ変わっていた。以上。

 …頭がパンクしそうだ。しかしこれは現実。二回気を失ってなおグリフォンのままなのだから、もはやこれを現実とみなす他ない。何より、この空腹感。夢か何かでこれだけ腹が減ることは考えられない。


 取り敢えず、この生肉の海から脱出することにした。まずは腕を伸ばして頭の上の生肉をどかそうと…思ったが肩が上がらない。あれっ、と思ったが理由はすぐわかった。俺の腕…もといグリフォンの前足の可動域は俺の顔の高さから下に限るようだ。犬や猫の前足をイメージするとよくわかると思うが、四足歩行の生物の前足が、胴体を全く動かさずに頭のすぐ上のものに触れることはできない。


(ははあ…なるほどね、じゃあ無理やり肉を登って行くしかないか)


 登れないんだなこれが。生肉が新鮮なおかげで足が血で滑るのなんの。


(くっそおおおお! そもそもなんだよこの生肉は!? 胎内に逆戻りでもしたか!?)


 そんな生物聞いたことないが、グリフォンの生態なんぞ誰も知らないので否定しきれないのが怖い。どうにか抜け出せないかと体を捻ったり捩ったりしていたが、ふと背中に妙な感覚があるのに気づく。なんだこの感覚は。


(…あ! これ翼だ! そうだ、グリフォンの…俺の背中には翼があるんだ!)


 試しに動かそうとしたが…なかなか動かない。こうか? それともこうか? と模索を続けることしばし。ついに翼を大きく動かすことに成功した。どうも翼というものは思っていたより力強いものらしく、翼を大きく動かすと俺の上にあった生肉は大体吹き飛んだ。吹き飛んで…向こう側で佇んでいるグリフォンと目が合った。全身が強張る俺。


(落ち着け落ち着け、あれは味方…コワクナーイ…コワクナイヨ…)


 コワクナイ…コワクナイ…と心の中で唱えに唱え、どうにか心を落ち着かせる。そう、俺の予想が正しければ、このグリフォンは間違いなく俺の親であり、可愛がられることがあっても殺されるなんてことはない…現代日本じゃあるまいし。グリフォンの性別なんてわからないから父か母かはわからないが。もっと言えば、俺は俺自身の性別すら確認できていない。なんなら性別がない可能性すらある。


 ちょっと落ち着いてきたので、翼で周りの生肉を払いながら辺りを見渡す。すると、場所は変わらず大森林を一望できる…おそらくグリフォンの巣、だった。巣にしては相当広い。形は円形で、俺が端から端までたどり着くのには十数秒のダッシュが必要そうだ。


 ふと、目の前のグリフォンが前足に握っている物に目がいった。生肉だ。それを、何事もないかのように、口に運んで、食べた。うまそうに食べた。その瞬間、俺を生肉の底に沈めた犯人が誰か、その理由を含めて理解した。つまり、このグリフォンは、生まれたての俺に、さぞかし腹が減っているだろうということで、食事を持ってきてくれたのである。おいしい生肉を。俺が埋もれるほどの、山のような生肉を。


(オエエエエエエエエッ…)


 想像して強烈な吐き気に襲われた。生まれてからまだ一度も食事をしていないので、当然吐く物などなかったわけだが。


(そこは母乳とかじゃないのかよ…)


 確かに、生まれたてにしてはずいぶんしっかりした体ではある。最初から普通の食事ができる体で生まれてくるのかもしれない。しかし、問題はそこではないのだ。生肉をそのまま食すことへの抵抗感。これに尽きる。なまじ医学の知識があるぶん、感覚的にも理性的にも厳しい者があった。

 どうしても食べようという気になれず、そのまましばらく我慢していた。グリフォンは心配そうにこちらを見ているが…すまん、もう少し覚悟する時間が欲しい。


 などと考えていると。なんだか目が霞んできた。体に力が入らない気がする。頭もぼんやりしてきて…


(…あれ? これはひょっとして…餓…死の…)


 あろうことか、俺は三度気を失った。




****************************




 俺がグリフォンとして改めてこの世に生を受けたのは、春のような気温の頃だった。最近は気温が上がってきたので、今は夏…なのかもしれない。この地域に日本のような四季があるとすれば、俺は暫定生後三か月のグリフォンといったところだ。巣の中で日々運動をつづけたおかげで、体もかなり思い通りに動かせるようになり、またずいぶん大きくなった気がする。今や巣の端から端までダッシュで十秒を切る勢いだ。

 今の俺は、間違いなくグリフォンそのものだった。


 輪廻転生。概念としては知っていたが、まさか本当に魂のリサイクルが起きているとは思ってもみなかった。もっというと、前世の記憶を残したまま転生するなんてことがあるとは思わなかった。輪廻転生とか生まれ変わりとか言い出した人はほんとすごいな。なんでわかったんだ。

 …いや、逆か。たまに記憶が消えそこなって生まれ変わる人がいて、そういう人の一部が輪廻転生とか生まれ変わりとか言い始めたと考える方が自然だな。いやいや、なんなら実はみんな言わなかっただけで三人に一人くらいは前世の記憶を残してた可能性も…?


 なんてことを考えていたら、親グリフォンがこちらに戻ってくるのが見えた。例によって食べ物を――食べやすいようにグチャグチャにしてくれた生肉を――運んできてくれたのだろう。

 わかってはいたが、この体の身体能力は尋常じゃない。まず視力。マサイ族もびっくりの望遠性能、色彩把握力。動体視力も抜群にいい。眼鏡をかけていた前世からすると信じられないくらい世界がクリアに見える。聴力も非常によくなった。今俺が暮らしているのは、大森林の中でもひときわ高い大樹の上に作られた広い巣なのだが、そこからでも大樹の真下を生物が通る音が聞こえる。他の感覚も優れてはいたが、視覚と聴覚の鋭さは別格だった。狩りのために発達した感覚だからだろうか。


 ああ…あと味覚がな…。

 一度餓死しかけた後、親グリフォンに生肉をむりやりねじ込まれたのだが。最高の味わいだった。

 もう一度言う。生肉最高。食べたことない生物は損してる。今人間に戻っても思わずくらいついてしまうかも…いや、それはない。言い過ぎた。反省。

 それにしても、生肉をあんなに美味しく感じる日が来るとは…。当然ではあるが、味覚が人間の時のそれとは大きく変わっている。親グリフォンの運んでくる生肉を食っちゃ寝する生活を続けて数か月、病気にならないどころか一層頑丈になっていく体も驚異的だ。グチャグチャの生肉に交じった内臓でビタミンを摂っているからだろうか。今日も今日とて食事を楽しみにしている自分がいる。さあ、親グリフォンがすごい速度でこっちに来るぞ…こちとらワイルドに食らいつく準備は万全よ…!


 みるみる近づいてくる親グリフォン。よっしゃ生肉こいこい…!と思っていたが、よく見ると親グリフォン――フォンとでも呼んでおこうか――が持っているものは生肉ではなかった。遠目ではわからなかったが、近づくにつれてはっきり見えてきた。


(兎みたいな生物を…二羽持ってるな…)


 フォンは巣につくなり兎に似た生物を二羽ともこちらに投げてよこした。普通の兎と違うのは、耳が翼のようになっているところだ。兎が全部この見た目なら、兎を一匹二匹ではなく一羽二羽と数えることに疑問を持つ人はいなかっただろう。あと、でかい。俺よりでかい。いや、大きさに関しては俺がまだ生まれたてで小さいだけの可能性もある。

 フォンは「食ってもいいぞ」という表情を浮かべてこちらを見ている。こちらとしても是非この空腹を満たしたい、のだが…。


(えーと…どうやって食べたらいいんですかね…?)


 医学生だった前世の記憶でなんとなく構造はわかる。食べられそうな部分もわかる。しかし、どのように手をつければ上手に食えるものか…皆目見当もつかない。兎に似た生物――羽兎と呼んでおく――に近づきながらフォンに助けを求める視線を送ると、「まあそうだろうな…いいか見てろよ?」とでも言いたげに羽兎に近づいていった。


 フォンの解体講座が始まった。フォンはこちらに手際を見せながら、ゆっくりと少しずつ羽兎を解体していく。俺はそれを真似して解体を進めていく。生まれてから大した時間も経っていないが、この爪と嘴、そして全身の筋力には目を見張るものがあり、力を入れると面白いように解体が進んでいく。時々うまくいかずに手こずることもあるが、その時はフォンも手を止めて待ってくれる。しかも、解体したそばから羽兎の肉をこちらに投げてよこしてくれる。俺は美味しい思いをしながら羽兎の解体法を学んでいったのである。羽兎は二羽とも俺より大きかったが、気づけば俺が一人で二羽とも食い尽くしていた。恐るべし、成長期。


 俺が羽兎を食い終わると、フォンは再びどこかへ飛び去っていった。フォンの後姿を見ながら思う。


(俺、ものすごく愛されてるな…)

 

 羽兎を二羽運んできたのは、最初から解体法を教えるつもりだったのだろう。手とり足とり教えてもらうような経験は、前世ではあまりしたことがなかったように思う。前世での親は、決して酷くはなかったが、俺に熱心に構ってくれたとは言い難い。それに、両親とも俺が十歳になる前に事故で死んだ。施設に入ってからは無償の愛を一身に受けた記憶はない。


 だからだろうか、俺はフォンに、最初はあれだけ恐ろしかった怪物に、強い好意と深い感謝を抱くようになっていた。グリフォン生活も悪くないのでは、と思い始めていた。と同時に、全く別の恐怖が頭の片隅に浮かんでくるようになった。


(もしもグリフォンなんて生物が人間にみつかったら…この生活は壊されてしまうんじゃないだろうか…?) 




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暑さのピークが過ぎ、気温が下がってきた。体感的にも生まれて半年くらいが経っている気がするし、四季があるなら秋にさしかかってきたところだろうか。葉の色は変わらないが、木の実が落ち始めたので少なくとも春ではないだろう。この調子だと冬もあるのではないだろうか。


 初めての解体から季節が移り替わるまでに、俺は様々な生物の解体に挑戦した。羽猫、羽狼、羽鹿、羽猪、羽猿、羽牛、羽馬、羽熊…などなど。不思議なことに、いや不気味なことにというべきかもしれないが、生物には漏れなく翼があり、体の一部が羽毛に覆われていた。

 そんなビックリ生物を見ているうちに、「人間に見つかったらどうしよう」という懸念は吹き飛んだ。最初のうちはグリフォンも羽兎も、どこか人の手の届かない場所に暮らす新種の生物だろうと考えていたのだが。こんな生物が地球上にたくさん生息しているはずはない、ここはそもそも元いた世界とは別のどこかに違いない、と考えたからである。輪廻転生はおろか、平行世界まで実在するとは。俺と同じ境遇の人が、前世の世界にもいたに違いない。

 とにもかくにも、これで本格的にグリフォン生活を送る覚悟が決まった。


 フォンが運んでくる生物には、翼と羽毛があること以外にもう一つ共通点があった。死体の損傷具合がどうにもおかしい。かつて運んできていた生肉には、前脚の鋭い爪をものすごい力で食いこませて引き裂いた跡があった。しかし、最近運んでくる死体には目立った外傷は見られない。かといって気絶しているだけ、傷は全くない、というわけでもない。不思議なことに、元医学生として本当に不思議なのだが、内部からグズグズに崩れているようなのである。解体したときに、ものによっては血管が破裂していたり、骨が砕けていたりといった様子が見られた。これがフォン固有の能力なのか、はたまたグリフォンが持つ力なのかはわからないが、解体の術を一通り身に着けた今、次の目標は外傷のない死体の謎を解き明かすことである。


 さて、今日もフォンが獲物を持って帰ってきた。今日の最初の獲物は羽兎だ。今や俺の体は羽兎よりも大きく育っており、解体など文字通り朝飯前である。フォンが巣に投げ入れた羽兎に張り切って近づこうとして…ようやく気づいた。


(これ死体じゃない! というかほぼ無傷だよね!?)


 逃げられないように翼だけは大きく傷つけてあるものの、他に傷は見受けられなかった。弱っているどころか、生命の危機が目前に迫った羽兎からは、俺を殺してでも生き延びてやるという気迫を感じた。

 フォンはというと、「よし、頑張れ!」という表情でこちらを見守っていた。解体は大体覚えたろう、次は狩りの練習だな!とでも言わんばかりである。


(そうきたか…解体なら前世でもやったけど哺乳類を殺したことはないんだよな…うーん、爪で直接殺すと手に気持ち悪い感触が残りそうで抵抗がある…断末魔も聞きたくないし…かといってフォンみたいに相手の内部に傷をつける方法もわからない…どうしようk)


 瞬間、すさまじい衝撃を受けて吹き飛ばされた。羽兎がタックルの構えをとったところまでは目で追えたが、タックルの速度が想像以上であったために防御しそこなってしまったのだ。


(痛っ…! いっ………てえなあ…………!)


 羽兎のタックルの威力は馬鹿にできないもので、生まれて初めて痛みを覚えた。しかし、前世で味わった痛みに比べればダメージのうちにも入らない。なんたって比較対象はトラックだ。羽兎の決死のタックルは、俺の心を折るには及ばず、むしろ殺意を掻き立てる結果にしかならなかった。


(調子に乗りやがって兎ごときが…! こちとらその気になればお前なんざ一瞬で肉塊にできるんだよっ!)


 翼を大きく広げる。はばたきの練習をしていて気づいたのだが、巨大な肉食獣の体で宙を舞うことを可能にするグリフォンの翼は、とにかく大きく、力強く、頑丈である。羽兎は二度目のタックルをしかけてきたが、翼で体を覆い防御することで勢いを殺し切った。

 俺の手の届く範囲で動きを止めた時点で、羽兎の絶命は確定だ。前脚を伸ばし、羽兎の動体を掴む。猛禽類のようなこの脚の握力が並はずれているのは解体作業を通してよく知っていた。この前脚に掴まれた時点で逃げる手段はない。あとはとどめを刺すだけだ。

 やろうと思えば握力だけで羽兎の肉体を四散させることなど容易くはあったが、俺は羽兎を捕まえた時点で少し冷静になった。目的が「羽兎を殺すこと」ではなく「食事」であることを思い出したのである。怒りに身を任せてゴリラがリンゴを握りつぶすように羽兎を四散させたなら、きっと気分はすっきり爽快になるだろうが、バラバラになった羽兎は間違いなく食べにくい。というわけで、後片付けや解体の順序などを考慮し、力加減を調整して締め落としておいた。


 フォンの表情を見ると、どうやら俺が攻撃をもろに受けることは想定外だったらしく、そこについては若干の焦りを覚えたようだが、その後の展開には満足したようだ。俺が最初から躊躇なく直接攻撃を行うものだと思っていたらしい。まあ、まさか自分の子どもの中身が別の世界の生物の生まれ変わりで、肉食の生物に生まれたくせに殺しに抵抗がある、なんて夢にも思わないだろう。


 俺の初戦闘はこうしてあっけなく幕を下ろした。生まれて初めて、前世まで込みで生まれて初めてこの手で生物を殺し、糧を得た。新鮮な生肉はいつも食べている生肉より心なしか美味しかったように思う。そしてこれ以降、フォンが運んでくるのは生きたままの獲物となる。




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 秋の次は、案の定冬だった。この世界にはどうやら四季があるとみていいようだ。体感的にも四季が一巡して一年…もしくはそれより少し長いくらいの時間が経つものとみている。冷たい風が吹いたその日に、フォンは俺を掴んで大きな洞窟まで運んでいった。どうやら冬の間は高い大樹の上ではなく、北風から守ってくれる大洞窟のなかですごすようだ。ここで俺は、フォンが冬の洞窟での暮らしを見越して俺を育てていたのだということを思い知る。


 大洞窟に引っ越して五日目。洞窟ではばたきの練習をしていた俺は、ふと聞きなれない足音がこちらに近づいてくるのを感じた。


(あれ? 歩いてくるなんて珍しいな、何かあったかな?)


 誰にも手出しできない大樹の巣から一度も出たことがなかった俺は、あろうことか完全に平和ボケしており、巣に近づいてくるのはフォンしかいないものだと思い込んでいた。


 で、てっきりフォンだと思って大洞窟の前まで迎えに出向いた結果。自分の倍の大きさの羽熊と前脚が届くか届かないかの距離で睨み合うはめになってしまった。しかも生まれて初めての「フォンが見ていない戦闘」である。羽熊を相手に、フォンという命綱なしで、殺し合いをすることになったのだ。


(そりゃ洞窟で寒さをしのぎたいよなあ…他の生物がいたらそれはそれで食料が増えて万々歳と…。てことはここには洞窟とあわよくば獲物を求めて肉食の生物がやってくるわけで、ここはその争いの勝者だけが体を休めていい場所なわけだ…。)


 冬の洞窟で暮らしていると、時折洞窟に侵入して俺を食い殺そうとする生物が訪れるということに気づいた。洞窟からフォンの気配がする時には寄ってこないかもしれないが、子グリフォン一匹しかいない洞窟であればどうだろう。腕に自信のある生物は、寒さのしのげる洞窟での一時の安息を、俺というおやつをかじりながら過ごすことを夢見て、襲撃をしかけてきてもおかしくない。


 フォンのこれまでの修業は、この冬のためにあったに違いない。事実、羽兎にさえ一撃食らった三か月前の俺であれば、羽熊の前脚による鋭い先制攻撃をもろに食らっていたことだろう。しかし、今の俺は戦闘訓練を重ねた子グリフォンである。その辺の子グリフォンと一緒にしないでいただきたい。


(…あれ? 見たことないけど、グリフォンってフォンと俺以外にもいる…よな?)


 飛びかかってくる羽熊を翼でいなしながら考え事をするくらいには余裕がある。ひとえにこれまでの戦闘訓練の賜物である。体勢を崩した羽熊に素早く近づき、頭を前脚で握りつぶした。はっきり言って楽勝である。ありがとうフォン。いただきます羽熊さん。


 羽熊をあらかた食い終えたところで、ちょうどフォンが羽猪を運んで帰ってきた。フォンは俺の様子を見ると、満足そうにうなずいた。少しやせたフォンの、狙い通りだな、という表情を見て、洞窟に引っ越して以来、フォンが巣に帰る頻度が目に見えて減っていた理由がわかった気がする。そもそも獲物が少なくてなかなか俺のところまで運んでくる余裕がないというのもあるだろうが、フォンはこの洞窟に、成体のグリフォンである自分の匂いや気配を残したくないのだ。そうすると、肉食の生物が俺の食事になりにくる。俺が勝利することが前提ではあるが、獲物の少ない冬場にあちらから獲物が来てくれることは喜ばしいことだ。

 そう、冬場は獲物が少ないのだ。それでもフォンは俺に獲物を持ってきてくれる。フォンの運んできた羽猪を速攻でしとめて、羽猪をフォンと半分ずつ食った。


 フォンの狙いがわかったので、俺は洞窟に獲物が入りやすいように、獲物を食い散らかした跡をきれいに片づけてなるべく血の匂いが残らないようにした。俺自身も洞窟の奥に身を隠し、極力気配を消すことにした。フォンも俺の狙いがわかったようで、一層洞窟に近寄らなくなった。会うときは俺が気配を察して外で会う。フォンは獲物を持ってこなくなったが、俺には食料が減ったことよりもフォンが以前よりも健康そうにしていることが嬉しかった。


 洞窟を獲物の皆様が入ってきやすいように改装した結果、最低でも日に一度は何かが迷い込んでくるようになった。さすがに草食の生物は入ってこなかったが、肉食の生物は微かに残る血の匂いに期待して、おそらく危険は承知のうえで、弱い生物から強い生物まで色々と入ってきた。そうやって入ってきた獲物との戦闘は、決して楽なものではなかった。特に、寒さが一段と厳しくなってからは、生き延びることができるかどうかの瀬戸際の状態で、目をギラつかせながら入ってくる強者が増えた。覚悟の決まった者は強い。前世でもそうだった。


 こうして、俺の冬季限定「人生初一人暮らし」が始まった。




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 冬も佳境にさしかかったある日のこと。その日は特別寒く、なかなか獲物がやってこなかったので、俺はかなり機嫌が悪かった。しかし、イライラしていても腹が膨れるわけではないし、取り敢えず寝てしまって体力を温存しておこう。あいつらが現れたのは、そう思った矢先のことだった。


 洞窟に入ってきたのは若い三匹の羽狼だった。


(お、きたきた)


 手早くしとめて肉にありつきたい、と逸る気持ちを抑えて様子を見ることにした。すると、なんだか様子がおかしいことに気づく。様子がおかしいといっても、病気で弱っているだとか、殺気がすさまじいとか、そういうわけではない。

 緊張感がないのだ。三匹でヘラヘラとふざけてじゃれあっているように見える。なにより非常に騒がしい。ワンワンキャンキャンガウガウと、煩わしいことこの上ない。空腹のところに騒音被害をうけ、俺の苛立ちは留まるところを知らない。


(くっそ…落ち着け…落ち着け俺…! もっと引きつけるんだ…早まるな…頑張れ俺…!)


 いつもは獲物がそれなりに奥に入ってきてから洞窟の入り口に回り込み、逃げ道を塞いでから攻撃を始める。あいつらは洞窟の入り口付近でじゃれあいながら少しずつ奥に入ってきており、今飛び出していっても入り口に回り込むことはできないだろう。腹の虫をなだめつつ必死に耐える健気な俺。あいつらは、そんな俺をあざ笑うかのように、次なる遊びを始めた。


 一匹がそろりそろりと一歩ずつ奥に進んでいく。そして、今俺が飛び出せば一撃で仕留められるかもしれない、という範囲にギリギリ入らないくらいまで進むと、キャンキャンと吠えながら元の場所まで戻るのだ。一匹ずつ交代でこれをやるのだが、絶妙に俺の手の届かないギリギリの距離で――そう、あたかも、もしかして、ひょっとして、俺の居場所がわかっているんじゃないかというくらいの絶妙な距離で――俺をおちょくるかのように引き返すのだ。その絶妙な間合いの取り方に違和感を覚える前に。俺のストレスは頂点に達した。


 順番が一巡し、最初にこの遊びを始めた羽狼が再び俺の近くに寄ってきた時。考えるより先に体が動いてしまっていた。

 一瞬しまった、と思ったが、後悔は苛立ちにかき消された。


(くたばれええええええ!)


 伸ばした前脚は、惜しくも空を切った。三匹は一目散に洞窟の外へと駆け出していく。


(お前らは絶対に逃がさん!)


 逃げる相手の背を追うのは初めてだった。それもあって、愚かな俺は頭に血が上ったまま、何の警戒もせずに憎き羽狼どもを追いかけて洞窟の外に飛び出した。


 洞窟から飛び出してわずか十歩。俺は二十を超える羽狼に包囲されていた。

 煮立った頭から一気に血の気が引いていく感覚を覚えた。


(う…おおっ!? まずいまずい! 嵌められたっ!)


 急いで洞窟に引き返そうとするが…そこには明らかに群れのボスだとわかる、ひときわ大きな羽狼が立ちはだかっていた。その目には、どのような犠牲を払ってでも俺をしとめ、一匹でも多くの家族を生き延びさせるのだ、という強い覚悟が見てとれた。この羽狼たちは、最初から俺を食うことを目的にしてやってきたのだ。

 洞窟に入ってきた若い三匹も包囲に参加していた。あいつらが身にまとう空気は、先程のような仲間とつるんでふざけている若狼のそれではなく、刺し違えてでも俺をしとめてやるという、仲間の生活のために命を懸ける戦士の気迫に変わっていた。


(ちくしょう…はぐれ馬鹿狼三兄弟かと思いきや名役者だったってことか…)


 つまるところ、俺はこの三匹に完全に手玉に取られたというわけである。

 羽狼は何匹も倒して食らった。五匹を同時に相手にしたこともあった。

 それが油断につながったのだろう。


 状況的には今、俺は完全に狩られる側にいる。

 相手は羽狼なのに、手が震える。足がすくむ。

 これが狩られる側の感覚か…。


 俺は自分を奮い立たせ、生き延びる方法を必死で考えた。




 真っ先に試そうとしたのは、翼で上から逃げることだ。はばたく練習をずっと続けてきた成果が最近現れつつあり、自在に飛び回れるところまではいかずとも、宙に浮くことくらいならできるようになっていた。ただし、空を飛べたことは一度もない。


(大ピンチの時に限って都合よく初飛行に成功するかも、なんて甘い期待は捨てる。羽狼の頭を越せるくらいの高さに跳んで一度包囲を脱出することに専念。それなら俺にだってできるはずだ…!)


 その考えこそが甘かった。翼を広げた隙をついて、両脇から数匹の羽狼が飛びかかってきたのだ。高く跳ぶために体勢を整えようとした隙を、空腹と覚悟で研ぎ澄まされた羽狼たちが見逃してくれるはずがなかった。


(まずい…っ!)


 咄嗟に広げた翼を振るって羽狼たちを吹き飛ばす。グリフォンの巨体を飛ばすための大きな翼。その実態は高密度の筋肉の塊を丈夫な無数の羽毛が覆ったものであり、羽毛のために大きさの割には軽く、しかし密集した筋肉が恐るべき馬力を実現し、さらに翼を攻撃されても羽毛に阻まれてダメージが芯まで通ることはない。ここしばらくの戦闘で、俺の最も強力な武器はこの翼だと確信していた。現に、今の一薙ぎで飛びかかってきた四匹の羽狼が吹き飛んでいった。


(よし防御できる! これならなんとかしのげるか…?)


 ここで気が緩んでしまったことは。俺という存在が、どうしようもなく経験不足で、全力を尽くそうにも出せる知恵も力もなく、ただ身体能力が高いだけの弱い生物でしかなかった、ということの証明に他ならない。


 羽狼が一匹、俺の広げた翼の影に身を隠して俺に肉薄していた。俺がそのことに気づいたのは、羽狼の牙が俺の首元に突き立てられた後だった。


(ぐっ…おお…っ!)


 俺の上半身は翼と同じく丈夫な羽毛に覆われており、ダメージは通りにくい。しかし、羽狼の力は想像以上で、噛みつかれた首からは鋭い痛みを感じた。何より首を絞められたことによる圧迫感が俺を焦らせる。


(離せええええっ!)


 羽狼の胴体を前脚で掴み、全力を込めて握りつぶした。羽狼の胴体は四散し、首がすっと楽になる。ふぅ、と息を吐いた瞬間、頭上から立て続けに衝撃と鋭い痛みが襲ってきた。五匹の羽狼に翻弄されている間に、さらに五匹の羽狼が背中の翼で空中へと舞いあがり、勢いをつけて俺に突撃をしかけてきたのだ。

 文字通り息つく間もなく繰り返される攻撃に、俺はうずくまって翼で体を覆うことしかできなかった。羽狼たちはここぞとばかりに攻撃をしかけてくる。羽毛もどんどん削られ、翼にも痛みを感じ始めた。


(くそっ…! 全員まとめて…吹っ飛べっっっ!!)


 全力で翼を広げ、まとわりついていた羽狼たちを吹き飛ばす。羽毛がごっそり削られた翼はもはや見るに堪えないが、それでも翼は俺の思った通りに羽狼たちを吹き飛ばしてくれた。

 しかし、それは羽狼たちにとっても思った通りの行動だったということに、俺はすぐには気づけない。翼を広げた瞬間に三匹の若い羽狼が――あいつらが――待ってましたとばかりに飛びついてきて。俺の右前脚を除く三本の脚に、一匹ずつ食らいついた。


(ぐ…があああ…っ!)


 脚は羽毛が少なくガードが弱い。後脚に至っては羽毛が生えてすらいない。激痛に耐えつつ、力の入らない右前脚で左前脚に食らいついていた羽狼の頭を砕き絶命させる。しかし、


(こいつ…離れない…!)


 死してなお、若狼の牙は俺の脚をとらえ続け。


(離れろ! 離れろっ!!)


 パニックになり、こいつらを無理やり引きはがそうと暴れ回ったのがいけなかった。どんなに振り回しても、こいつらは俺にくらいついたままで。俺はただただ消耗するばかりで。遂には、痛みと重さでまともに動けなくなってしまった。


 その様子を確認し、羽狼のボスが襲いかかってきた。その目に一切の油断や余裕はなく、弱った俺を確実に殺すために、全身全霊をかけてとびかかってきた。


(落ち着け…! どうする…どうする…!? どうすればいい…!?)


 ボスの殺気にあてられて、俺は完全に恐慌状態に陥った。「落ち着け」「どうしよう」それしか考えられない。具体的な行動なんて一つも思いつかない。体も動かない。時間がゆっくりと流れていくように感じられた。



 突然、キィィィィン…という音が鳴り始め。ボスが悲鳴をあげはじめた。ボスは五秒ほどのたうち回った末に、口から血を吐いて倒れた。その様子を見て唖然とする羽狼たち。唖然とする俺。混乱した羽狼たちを、フォンが空から強襲した。どうやらボスを仕留めたのもフォンだったらしい…というか他に可能性がない。


(あっ…ああ…あ…?)


 俺の意識はここで途切れた。




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 厳しい冬は終わりを告げ、人生で二度目の春がやってきた。グリフォンとして生まれ変わってから、一年が経ったことになる。体の大きさは倍ほどになり、それに伴って力も一層強くなった。とはいっても、フォンにはまだまだ敵わないが。羽狼の襲撃でついた全身の傷は、フォンが運んできてくれた薬草のおかげであっという間に完治した。


 羽狼との死闘は、結果的に得るものの多い戦いだった。修羅場を潜り抜けた成果として一番大きいのは、自分の弱さを自覚できたということだった。


 俺は弱い。


 確かにこの体は生物として規格外の強さだ。少なくとも、前世とこの一年の経験を振り返ると、グリフォンという生物は間違いなく生物最強のスペックを誇る。

 しかし、それだけなのだ。俺には強い体を持っているということ以外に何もなかった。狩りのセオリーも知らない。戦闘時にどのような動きをすればいいかもわからない。せっかくの体もまるで使いこなせない。ここまでとんとん拍子できたためか、弱肉強食の世界を一年間生きていながら、精神的な甘さが抜けきっていない。それが今の俺だった。俺に必要なのは戦闘訓練、弱さの自覚、そして弱者らしく頭を使って思考し工夫して立ち回ることだ。

 経験を積まねばならない。今日も今日とて狩りに出かける。フォンがいる時には一緒に狩りに出たり、たまに戦闘訓練につきあってくれたりする。だが、一人の時はこうして勝手に狩りに出ることが多い。一応空は飛べるようになったので、飛行訓練も兼ねて出かけるといった感じだ。


 グリフォンの体の仕組みについて、わかったことがいくつかある。グリフォンは超音波を発生させることができる。声を出す要領で、空気を激しく振動させることができるのだ。さらに、グリフォンは声に指向性を持たせることもできる。超音波を一点に収束させて浴びせることができるというわけだ。超音波、すなわちすさまじい空気の振動を生物が浴び続けると、体が熱を持ったり、三半規管が揺れて平衡感覚がなくなったり、細胞が壊れたりと、確かそういった現象が起きるはずだ。羽狼のボスもこれにやられた。

 もっとも、生物を死に至らしめるほどの効果を出すには強烈な超音波を放つ必要があり、成長すればわからないが、今の俺にはそこまでの超音波を出すことはできない。今の俺に超音波でできることといったら、せいぜいコウモリのように音の反射で物の場所がわかるくらいだ。これは当然フォンにもできる。鋭い視覚に聴覚、超音波。これらを使いこなせるフォンの索敵能力は尋常ではない。羽狼の襲撃でも、その索敵能力で異変を察して飛んできてくれた。


 フォンは本当に強い。最強生物だと言っても過言ではない。単純な身体能力が圧倒的に高く、戦闘経験が豊富で、肉弾戦も強いが遠距離にいる敵にも強く、フォンが本気で放つ超音波を五秒浴びて立っていられた生物は未だ見たことがない。フォンの超音波を俺が出せない理由は、単純に体の大きさの問題だ。つけくわえて言うなら、肺の機能の問題だ。グリフォンの肺は、鳥類の気嚢のような器官と融合しているようで、空気を溜めておくことができる。そして、すごく膨らむ。それはもうものすごく膨らむ。フォンの体であれば、上半身が丸く膨れて見えるくらいに。そうして溜めに溜めた空気を爆発的に吐き出すことによって、強力な超音波を長時間発生させることができるのだ。ただ、肺を大きく膨らませて超音波を発生させるという一連の動作には隙があるので、フォンは地上では超音波で攻撃をしかけることはない。フォンが超音波を索敵ではなく攻撃に使うのは、攻撃される心配のない空中にいるときだけだ。


 俺の体は大きくなった。それでもフォンの三分の一程度の大きさだ。しかも、どうやら肺は訓練しないと膨らませることができないらしく、俺には体型が変わるほど深く息を吸い込むことはできない。ということは、必然的に超音波を攻撃に用いることもできない、ということだ。


 羽狼のおかげで、俺は自分の弱さをこれでもかと言うほど理解した。

 しかし、死にかけた恐怖で戦えなくなる、ということはなかった。


(まずは戦闘訓練。次に飛行訓練。空いた時間で呼吸と超音波の練習。そしてよく食べ、よく眠ること。これが俺の当面の方針だ。)


 それどころか、俺は今、とてもわくわくしている。この体にはまだまだ先がある。もっと強くなれる。そう、フォンみたいに。

 俺を愛し、育て、命の危機を救ってくれた、誰よりも強いフォン。俺もいつかフォンみたいになれるはずだと思うと、心が弾む。


(そして、いずれは…フォンと勝負して勝つ!)


 憧れの存在の隣に並び立てるようになりたいと思った。

 生きる目標、努力の理由を得た俺の目には、この世界が輝いて見えた。

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