ワルコフに気をつけない
スサノワ
ワルコフに気をつけない
X・5:ワルコフ爆誕!
X・5:ワルコフ爆誕!
「ワールーコーフー! どぉーこぉーだぁぁーー!?」
俺は、東京湾から上陸した怪獣のように、ゆったりと、下宿の廊下を北上する。
頭を動かす度に、ボサボサの髪と
「ワルさぁーん! 怒らないからぁー、出てきてくださぁーい」
25歳っていう推定年齢からは想像できねー、舌っ足らずな声が後をついてくる。
「何言ってんすか! 今度という今度は
俺は、ゴーグルの左に付いてる丸ボタンを、押し込みながら、振り返った。
ここは都心をはずれた衛星都市で、通称ゲーマー特区なんて呼ばれてる。
簡単に言やあ……
ちなみに
『
「へっくち!」
目鼻立ちの整った美人が鼻を
今日は、いつもの事務服と違って、大人っぽくてひらっひらのスカートだ。……オシャレしているのかもしれん。
「あ、大丈夫すか? 何か
俺は慌てて
陽気の良い日が続いてっけど、まだ6月中旬だ。まだまだ朝夕は冷える、薄着じゃ寒みぃ。
「へーきへーきー。デバイスでぇ首もとぉ少し暖ったかぁいしー」
美女は、帽子の
……仕草が、いちいち子供っぽいけど、
カラフルでハロウィンみたいな魔女帽子は、フルダイブVR
「
「見た目よか、全然軽いんで、大丈夫っすよ」
俺はカッコつけて、パシパシと、
「じゃ、廊下の見張りお願いします」
「了解しましたぁ、……けどぉ、
俺は無言で、人差し指を突き出した。
魔女帽子さんは、俺の指に、自分の手のひらを当てて、何もない空中を凝視した。
「特選おやつ、残数・手羽先2個・・・・・・これだけ!?」
美女の、眼鏡フレームの両サイドに付いた
「ええ、昨日かき集めた”
「うにゃぁー!? つまみ食いって言うから、10個くらいかと思ってたんだけどー」
眼鏡美女は、オデコに手を当てて、ひきつった笑いを浮かべた。
◇
がちゃ。ぱたん。
俺がドアを開けて、中を確認して閉める。
彼女は、その間、廊下を見張る。
がちゃ。ぱたん。がちゃ。ぱたん。
ワルコフが逃げ込んだかもしれん、5部屋のうち3部屋を捜索した。
2階は俺の部屋以外、全部、空き部屋だから、隠れる場所はない。
残りは、左手前の、ドアが開けっ放しの部屋と、奥の突き当たりの部屋だけ。
俺は開いたドアから、壁に手を伸ばして、明かりを点けた。
部屋の中には、
前衛:つまり俺は、フルフェイスのメットにゴテゴテした機械をくっつけたようなのを、頭に装着してる。簡単に言やあ、巨大おはぎが、
ゴーグルに隠れて、顔はほとんど見えない。口元と後ろ首のあたりが、左右に開いてて、見た目よか、ゆったりしてる。
両耳に光る
締まりのない
休日とはいえ、シワの入ったままの服は、女性に見せる格好としては、だらしな過ぎたかもしれん。
後衛:
オレンジと赤の派手な、魔女みてえな帽子。廊下を見張ってるから、後頭部の光るリングが映ってる。その下から伸びてる衛星アンテナは、黒くて
縁無し眼鏡のフレームには、小さな
髪型はおしゃれな感じの、ボブカット。絶えず、にこやかな口元。細いけど健康的な体つき……げふんげふん。
「……それにしても、
「えっ!? そっすか? 結構、高かったんすよー」
俺は、褒められたのが超うれしくて、舞上った。長袖Tシャツの
洗ったままで、シワだらけだったシャツが、少しピンとした。
このぉ、フォークがぁ宙に浮いてる所がぁ、いいわぁねぇー。
でっしょー? きゃっきゃ! やべえ、楽しくなってきた。
フッ!
長袖談義に花が咲くなか、
「うわっ」「きゃっ」
ヴォン!
突き当たりの閉じたドアから、何か
ぱりぱりぱりッ!
その先端が、青白くスパークした。
「うぉおおっ!?」
ギリギリの所で、
白い棒は、放物線を描いて飛んでいく。そして、後ろの
屈み込んだ、足下。
なにか、モコモコした物が、凄まじい勢いで飛び上がってきた。
フゥォォン!
丸いヘルメット、丸いバイザー。現実にしか見えねー解像度。
バーニアスラスター全開で、飛びかかってくるソレは、全長30センチの、
俺は死ぬ気で、首を
たたた、とたたた、どたたたた。板張りの廊下を駆け寄ってくる、
何だ? 視界の
閉まったドアを、すり抜けた
さっき何も居なかったはずの、
そして、
それは、棒を構え突進してくる、―――
ヴァリヴァリヴァリッヴァリリリリッ!
四方から青白い雷撃が迫る。
「うわわっ! 勝手に増えんなっ!
絶賛大ピンチ中の、俺を、気にも止めず、美女の子供のような
「音声入力」「ボイスメモ」「ホラー映画」「アトラクション」「千客万来」「一攫千金」
こんな時に、この美人さんは何してやがるっ。
俺は、
この下宿は古めかしいけど、施工も規格も最新型で、結構高さがあるんだな、これが。
しかも、投げると同時に、即、
シュドドドドドッドドドドドッ!
廊下を照らす大爆発。
俺は、伸ばしたままの手で、高速で
「痛ってぇー!」
情けない声を出して、うずくまるしか出来ねー。
まだ天井付近に
ちっ、新しい棒を手にしてやがる!
廊下の柱を蹴る、
子供声や、普段の落ち着かなさに反して、基本的な運動能力は、低くなかったっぽい。スカートだから、いろいろあられもねー感じだったけど……げふんげふん。
スッタァーーーーン!
両足で着地した、スタイル抜群の美女が、「ふしゅるるうぅぅぅっっ」って、息を吐く。来客用スリッパの片方が、落っこちる。
「よぉーーーーっし! つっかまえたわぁよぉうぅーーーっ!」
魔女帽子は、最大で
美女がドヤ顔で、
内心、ちょっとウゼーとか思ったけど、顔には出さなかった。お手柄っちゃお手柄だし正直、あの棒を連続で食らってたら、無事じゃすまなかったかも知れん。
そして、その
ばしゅっ! すっぽーーーーーん!
宇宙服が、
「ニャオーーーーーーーーーーン!」
薄暗い廊下に、
それは、
「当方には」
ドン!
明るい紺色のワンピース。
「『ワルワラ=ミミコフ』という」
ドドン!
ポケットの付いた真っ白なエプロン。
「れっきとした正式
ズドドン!
ヘッドドレスを押しのけ、生えている褐色の猫耳。
「正式な
ドガァァァァン!
詳細不明の
その後ろに、詳細不明のカラフルな
む、ちょっとカッケーんでやんの。ワルコフの中身のくせに。
自称『ワルワラ=ミミコフ』は、回転しっぽを更に高速で回し、俺の、目の前まで進み出た。そして、顔に掛かった、ピンク色のくせっ毛を、両手で
呼吸に合わせた、ゆっくりとした動きで、遠くを見るときのポーズの両手版、両手で眉毛に手刀を当てるようなポーズを決めた。
腰を落とし、
数字の「8」にも見える、こいつは、そう―――ワルコフ得意の、『惑星ラスク宇宙軍正式敬礼』だ。
ちなみに、VRMMORPG:スターバラッドの世界に、宇宙軍なんて無えー。無ーんだけど、
相変わらず、「バカにしてんのか」って、
「なぁにこれ? どういうことなのぉ? かわいいかわいぃいぃ~」
『ワルワラ=ミミコフ』を、ガシリと抱きしめ、廊下に座り込む、魔女帽子装着型美女。
「ワルさんの中身、こんなにかわいかったんでちゅか~!?」
ぎゅーっと、全身で抱きしめるように掴んで、放さない。
そうなのだ、この美人さんは猫耳とかフィギュアとかが大好物なのだ。
かわいい、かわいい♪
ウ゛ニャーーーっ(断末魔)!
俺は、ため息をついた。
「ワルちゃん、いえ、ワルにゃん~!」「ギニャニャ!」
魔女は、約1/8のスケール差を考えてない。
ぎゅーっ! すりすりすりすりっ!
ギィニャアァァァァァァァァ!
ポンコツと化した美女の、
猫耳を倒して、うなだれる様が、……気の毒かつ、悲惨で、痛ましかった。
「―――助けてやるか」
美人さんの頭から、魔女帽子がスポンと引っこ抜かれ、
逃げていくミミコフの背中を、俺は片手でつかんだ。
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