1:中ボス試験ってなあに? その5

『本日発行可能な”キャリア中型免許ライセンス”:残り___03ライセンス』

 赤い縦長表示パネルの最上段に書かれた白文字。

 パネルの中央から最下部に渡って、点在する小さなキャラクタアイコン。


 (ゴッガァン!)

 青い巨漢に蹂躙じゅうりんされ、地面へ叩き付けられる、実物大の衝突実験用のダミー人形。

 四肢が砕け散り、光の粒子へと変わる。

 背後で、白焚シラタキ女史がなにやら叫んでいる。


 映像の隅に、試験開始からの経過時間などと一緒に、赤いパネルが表示された。

 立体的なドットアイコンであらわされた、ランキングらしきもの。

 その上位3名を線引きしている白い線ボーダーラインは、小刻みに上下している。


 キャラクタアイコンの隣に、名称と撃破数らしき星マーク。


 ―――ッチッチッチッチッチッ、ズドン♪


 ダミー人形撃破によって、最上位に浮上した青い逆算角形。

 『LV2:狛▼丑コマ ウシ ★…』

 凶悪なまでの攻撃力に反して、駆け出しのLV。

 続く名称の末尾に、大きめな星一つと、小さな星3つ。


 チッチッチッチッチッチッチッ、ズドン♪


 現在第2位、ツインテールアイコン、ミニスカドレス。

 『LV4:刀風曜次カタナカゼヨウジ ‥』

 小さな星2つ。


 チッチッチッチッチッチッチッ、ズドン♪


 第3位に、マネキンみたいなアイコン。

 『LVー:TESTBOT7 ・』

 衝突実験用の人形そっくりの、おそらくはテスト用の汎用NPCやられやく

 小さな星1つ。


 チッチッチッチッチッチッチッ、ズドン♪


 ボーダーラインを下回り、第4位。

 見慣れた、ピンク色のネコミミキャラクタ。

 『LV31:笹木環恩ササキワオン

 星は無し。


 チッチッチッチッチッチッチッ、ズドン♪


 さらに、数体のマネキンを挟んで、第9位に、

 『LV14:笹木禍璃ササキマガリ


 ランキング最後尾には、

 『LV0:オウガ▲▲ニャン』

 『LV0:ラージ◆ケルタ』


「なんか、時計の……音みたいなんが、……かすかに聞こえ……て来ましたえ」


 金色に輝くVRHMDあたまを抱えて悩んでいる、面白い人みたいになっている項邊コウベ歌色カイロ


 操作している左耳の辺り。リング状のパーツの中央。

 『接続先:自動検出』と書かれている、未来的なイメージの文字フォント

 そのボタンをしつこくクリックしている。

 ガチガチガチガチッ!


「―――あのう、それ、大事な商売道具じゃないんスか?」


「そうどすえ? ……それが、どうか……しはりました?」


表面カウルもボッコボコだし、もう少し、丁寧に扱った方がいいんじゃ? 仮にも精密機器だし……」


「何言うてはりますの。……これ、極限環境エクストリーム……仕様プルーフの……フルレジスト規格……品でっせ? ……使ってやらな、……スペックがもった……いないやないの……ふぅ」

 長台詞に、若干、息を切らす、丸くて金ピカなどたま。少年主観では、バイザー部分に、美少女の顔が張り付いてはいるだろうが、不気味面白さに拍車をかけているだけと思われ。


「あー、うちの兄貴も、そんなこと言ってたっけなー……」

 頭をく。


「えっ!? あの、……ろくでなしで意地悪いけず……の鋤灼スキヤキPがっ!?」

 たじろぐ、首から上だけ、”耐熱耐爆耐衝撃空調機能完備ジスト”。


「ええ、まあ、ろくでなしなのは、認めますが、……まあいっか、―――で、兄貴は、ジェットパックが耐熱対爆仕様だからって、蹴り飛ばして運んだりしてて、―――」


「してて?」


「―――ある日、通学飛行中に爆発・・しました」


「あははははははははははははっ! ……え? あれ? 本当に? そらぁ、……悪いこと話させて、―――」


「―――パラシュートが出て助かったものの、着地したのが、電波塔の天辺で、一晩中降りられなくて……」


「なんや、無事やっ……たんかいな。……そらそうどすな」


「……で、結局、やることないから、当時所属してた研究室の”見込み3年の仕事プロジェクト”を一人で、一晩で、一遍に終わらせたら、今の役職ポストに就いたって言う―――」


「なんや? ……意地悪いけずPの……サクセスストー……リーやないの!」

 まじめに聞いて損したわー。

 再び、ガチガチガチッ! っと景気よく大音を立てる金ピカ頭カイロ

 やがて彼女は、黄金の頭から手を離す。

「あ、……聞こえましたえ」


 歌色カイロのVRHMDを指さして、簡易AR面白眼鏡を持ち上げるシルシ少年。壁の映像を振り返った彼の、AR対応眼鏡のスピーカーからも、音声が流れている。

「ほんとだ。聞こえる」

 簡易AR眼鏡は、一度メイン設定した、”音声接続先”を解除・・できない。接続が切れるまで放置するか、現在の接続を経由している、歌色カイロのVRHMDの接続を解除するしか方法がない。500円ショップで売っている程度の、使い捨て前提の安物なので、利便性には乏しい。


『―――ザザザッ―――こらっ、アナタたちは、どこからの発令はつれいで、試験に乱入して来たのですか!? 所属と製造ビルド番号を答えなさい!』


「どうなってる!? 先生たちは?」

 白焚シラタキ女史が、フィールドを高い位置から見下ろしている。声を上げる女史にカメラが寄っている状態だ。

 映像の中に環恩ワオンたちの姿は、映っていない。


「まさか、コイツに、……殺られとりゃせんやろな……」

 手元の小さいゲーム画面の中・・・・・・・で、倒れたままの蒼鬼を、歌色カイロが指さす。

 同時に、コンティニュー猶予のカウントダウンが終了し、ゲーム画面が暗転する。


 腕に付いたデータウォッチへ指を走らせるシルシ

 その口元が不安げにひきつる。

「音声入力」「音声通信」「通話先:VRE研一同」


『刀風:NO_RESPONSE』

『笹木マ:NO_RESPONSE』

『笹木ワ:NO_RESPONSE』

『項邊:CALLING...』


「そっちは……どないどすか? ……連絡つきますか?」

 腕に付いた、開発者用のゴツい腕時計型デバイス。個人用途の携帯型汎用デジタルツールとしては最高峰を誇る。その白いボディーに付いた盤面をコツコツと叩いている。


「そっちで駄目なら、俺の、こんな安物で通じる訳ないですよ」

 通話先の検出が出来ずに、応答がないのは、”試験会場の仕様”であると思われる。通路に立ちふさがる、赤いエラー表示の中の一つが、通信に付随ふずいする項目を、追加でポップアップさせている。


「んんん~っ、……そしたらどない……しはりますか?」


「さっきコウベが、映像越しに直接・・会話・・してきやがったっけな……」

 少年は、まじめな顔で、椅子を壁に向けて座り直した。


「あーコホン。―――おーい、コウベェー!? 居るかぁー?」

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