6:コウベ 対 MΘNΘCERΘS その8

 青い獣の肩が沈み込む。

 曲がる前足の放電が、複雑なパターンを描く。

 背後のツノをおお螺旋コイルは、黒い放電を続ける。ツノから発せられる青い光が、青黒く塗り替えられた。

 獣の尻が沈み込み、背骨がバネのようにギギギとたわむ。

 膂力りょりょくを最大限に溜め込み隆起した後ろ足。

 重複した環状放電リップルスパークが、ゆっくりとした動きで複雑に折り重なっていく。

 持ち上げられた首は狙いを付け、”ツノ”は水平になった。

 それは、まさに、矢をつがい、引き絞られる弓。


 ポポポポポッ。

 少女の胸元に咲く、執拗五重に掛けられた、立体的な赤い三角形ロックオンマーカー


 ズドンンンンンンンンンン!

 青い雷が、大気を熱し、膨張させ、身のすくむ爆音をとどろかせた。


 ヴァリヴァリヴァリッ!

 荒れ狂う極太の大電流・・・が放たれ、眼前の少女コウベ向かって誘導されて行く。

 その先端、青黒い矢尻やじりと化した一角獣モノケロスは、空中を駆けた。

 なにもない空中へ、穿うがたれる、ひづめの跡。

 ドガドガドガガ! ヴァリヴァリヴァリリッ!


 ジグザグの軌道を描いて、到達する矢の先端。

 上体を反らスウェーバックして、かわ少女標的の、カモシカのような足に大量に流れ込む、オレンジ色の環状放電リップルスパーク


 青黒い矢尻モノケロスも、カモシカの前足に環状放電を流し、ひづめを射出してきた。

 高速で接近する右前足。


 少女は、左かかとを”電磁加速リニア”で打ち出し、左半身を後ろへ反らすことでかわす。

 左肩を反らせる動きのまま、極至近距離の右ショートアッパーを放つ。

 チィーーーーーーーッ、炸薬は炸裂しない。遅延信管の作動を制御コントロールすることは出来ないようだ。


 それでも、出かりの右前足をショートアッパーで迎撃できた。

 迎撃時に押ノックバックされることで、わずかに出来た距離時間を使い、コウベはコスチュームの体表面から、大量に放電をかき集める。


 ジジジッヴァリバリッ、ズドン!

 そして、即座に、右かかとを全力射出。

 飛び退くと同時に、振り上げていた右手を、裏拳気味に、打ち下ろし―――ピピッ♪


 シュドドドドドドドドドッ!

 オレンジ色の火煙かえんに包まれる一角獣。

 青黒く輝く、ツノを突き出し、その大電流で、火煙かえんを散らす。


 お互いに有効打は無いが、少女コウベは、一角獣の進行方向から、軸をずらし、なおかつ、数メートルの距離を取る事に成功した。

 このまま下がり続ければ、背後の木々に挟まれ、身動きがとれなくなる所だ。


 胸元に、花のように張り付く、5つの赤い三角形ロックオンマーカーの内の、時計で言ったら、2時すぎのヤツが、パリンと割れる。


「ザザッ―――コウベ、”小鳥”が何か言っとるぞー」

「ザザザッ―――ピッピピピュイッピュイチッ♪」

 右側空中、すり寄ってくる、映像空間シルシたちに、眼を走らせる。


「なんだと!? ピッピチうるさ―――!」

 青黒い稲妻が速度を変えずに、軌道を変えて追撃してくる。

 コウベは、背後へ飛び退く動作の、最頂点で、まずバレエダンサーの動きで、上体だけ回転させた。

 ねじられた、体軸背骨を、走り高跳びの選手のように、またぐ芸当を見せた。蹴り足で、ジャンプして、その蹴った足で着地をしたのだ。


「ザザッ―――なんだっけ? あれ、あの、足だけで戦うの」

「ザッ―――カポエイラだろ。つか、今の動きはアレじゃね? ……えっと、アレだぜアレ。地面で踊るダンス」

「ザザッ―――ダンス? ブレイクダンス?」

 そうそれ。あーそうね、ソッチの方が近いかしらね。


 やや距離が詰まったが、獣に背を向け、縮こまる、着地姿勢は、爆発的な急加速ロケットスタートを、生み出した。


 ドッン!

 加速。

 スタート地点から、およそ5メートル。

 ”重力補正”スキルによる、自重改変。スムーズな重心移動が可能になる。


 決戦場の外周に沿って、加速していくコウベ。

 速度をもてあまし、直進しない矢が、確実に距離をめていく。


 ドッドン! ジ、ジジッ。

 加速。加速。

 スタート地点から、目測で65メートル。

 ”電磁加速”による、かかとの射出。異様なまでの推進力を得る。


 バリバリバリバリ!

 標的ロックオンマーカーを追う一角獣。

 距離は縮まり、不規則な雷状の軌道先端は、既に標的コウベを追い越している。


 ドドンドドンドドン!

 加速。加速。加速。

 スタート地点から、推定200メートル。

 ”重力補正”スキルによる、歩幅に合わせた重心の射出。

 継ぎ目のない推進力は、加速状態・・・・を維持し続ける。


 トップスピードはどれくらいか。

 コウベの背後、乗用車2台分くらい、距離を空けた映像空間の中から

 マガリが、指輪型デバイスから測定アプリを取り出し、測定結果を告げた。


「ザザッ―――時速……230Kmだって」

「ザザザッ―――”一角獣モノケロス”の方は、……測定不能だぜ」

 海賊マッチョ外装マガリに寄り添い、測定結果を覗き込む、魔女っ娘外装カタナカゼ

「ザッ―――うひー。しかも、あいつら、曲がっても、あんまり速度が落ちねーから、もうなんか」

「「「ザザザッ―――眼で追えねー」」ないわー」


 シルシたちが見ている映像空間は、現在、決戦場全体を、やや上空から見ている遠景超ロングショットだ。

 奴らの速度デタラメに追従するには、これしか方法カメラワークがないのかもしれない。


「ザザザッ―――おーい。ちょっと見づらいんだけど、さー」

「ザッ―――そうだわね、あの娘の表情も、ワイプで欲しいじゃなーい」

 広場から、そんな声が届く。


「ザザッ―――ふむ、……そうですねー。ちょっと見やすく・・・・しましょーか?」

 白焚シラタキが、”自動機械”から飛び降りた。


    ◇


「音声入力、赤点號レッド・ノード:モード変更:観測点オブザーバーモード、公式イベント即時開催、権限行使:白焚畄外シラタキルウイ画面表示HUDタイプ、……PvB:世界大会決勝戦準拠」


 親指を”イェーイ♪”と突き出し、NPC米沢首ヨネザワコウベ接続リンクしている映像空間パーティーチャットへ、押し当てた・・・・・

 ボゥワァン♪

 白焚シラタキの背後、控えていた”自動機械レッド・ノード”が、謎のプログラム起動音SEと共に屹立きつりつした。足を伸ばし、正面からややズレた位置に付いているカメラアイが稼働かどうする。

 周囲の測量スキャンを開始する。筐体カウル危険な明るい赤色からすると、索敵スカウティングといった方が良いかもしれない。

 カメラアイの周囲を時計回りに回る光点が3周半した後、”自動機械レッド・ノード”の円筒状の天板がスライドして持ち上がった。


「3・2・1・キュー!」

 両手の指を立て、体重を掛け、”自動機械レッド・ノード”の天板を押した。

 白焚シラタキの、両サイドの巻き毛が揺れる。黙ってれば、いや、黙ってても、”ちょっと横柄な印象のお嬢様”にしか見えない、美人OLシラタキ外装の、美人システム管理者シラタキは、周囲を一変させる・・・・・・・・


 ”自動機械レッド・ノード”直下から、発振された光の円が周囲に広がっていく。

 接続先コウベから、離れた空中に浮かんでいた、2つの映像空間は、板状のホログラフィー映像を投影する金属球に変化した。

 屋根付きの休憩所は、各種の観測装置であふれかえる、大会設営本部に。

 光の粒子に包まれた観客たちは、気がつけば、整頓された応援席に座らされていて、ざわつき出す。

 その正面に浮かぶ、何とか状況を拾い上げようと奮戦していた映像空間パーティーチャット(ミラー)が、7色の爆発で、霧散した。


 カラフルな煙が晴れ、ソコに現れたのは、決戦場を立体的に表示するグリッドに囲まれたプロユースの巨大な映像空間。元々低くは無かった解像度も跳ね上がり、遅延演出も全くない。

 米沢首ヨネザワコウベや、一角獣モノケロスのオンラインステータスを表示するウインドウや、刻々と変化する状況を解説するPLOT-ANメインヒロインが立つステージまでが設置されている。


「こりゃ、一体!?」

「ひゃわぁぁ?」

「いいじゃねーか! やるもんだぜ、白焚シラタキさんよ」

「そうね、見やすくて助かるわ」

 部員一同、揃ってペコリとお辞儀する。


「まあ、この面白いカードを、見逃す運営がいたら、バカってことですよ」

 ここからの映像、運営で預からせていただいてもよろしいでしょうか?

 今後、金銭など発生する利用に関しては、規定の料金をお支払いいたしますので。

 付きましては、と赤く分厚い厚紙をカーディガンの小さなポケットから取り出した。

「みんないいかしら?」と、確認を取る環恩ワオン

 コウベちゃんのー姿もー含まれるけどー大丈夫かしらぁー?

米沢首ヨンベザワコウベのNPC契約は、正式に取り交わされておりますので、問題は無いのですが、……一応、歌色ちゃんが起きたら、再度確認することに致しましょう」

 などという、特区では見慣れた、やり取りが終わり、それぞれ、設置されているブースに付いてる名札の席に着席した。


「レディース アンド ジェントルマン!」

 PLOT-ANメインヒロインは、すっかり様変わりした公園の中央、メインステージから、観客へ向けて、にこやかに・・・・・手を広げている・・・・・・・

 あれ、プロトたんじゃね? あ、ホントだ。初めて見た。カワイー。そうでもなくね?

 など、レアな案内役の存在自体・・・・が物議を醸しだしている中、決戦場を、オレンジ色の雷光が駆け抜けていく。

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