5:決戦! MΘNΘCERΘS 終盤戦その3

「ところで、一体何だぜ? こんなとこまで来てよ」

「そうね、管理者権限有れば、特区内のどこにでも出入りできるだろうけど」

 ヒソヒソ話す魔女っ娘と海賊生徒2人


「今日はぁー、何のぉご用ぉー?」

 躊躇ちゅうちょせずに、子供に聞くような声で、環恩ワオンが問う。


 ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォッ!


 環恩ワオンに対する返答かと思うタイミングで、巨大な歓声が上がった。

 テーブル席の一同が、外の広場を見た。

 辺り一面が、プレイヤーで埋め尽くされていた。

 開いた空間の一角いっかくを埋める程度だった、観客たちが、結構遠くの方の通路にまであふれていて、凄まじい人出ひとでになっている。


「本日、おうかがいしたのは、モノケロス捕獲依頼・・・・のためだったんですが、―――コレ・・、なんか、面白いことになってます、ねぇー?」

 広場の賑わいを手のひらで示し、フフフンと鼻で笑って、紅潮する。一見優しげで、巻き毛モコモコ美人。内面が見え隠れするような、つり上がった目尻を、ギュッと更につり上げる。

 手にしていた、瓶をそのままあおり、プハァー。即座に目が据わり、ギザギザした微笑みを浮かべた。


 その禍々まがまがしい気配に、眼をらす一同。

 再び目に入る、外の巨大な映像空間の中、シルシ少年はがんばっていた。美少女と宇宙服にお手玉され、ギリギリで、雷撃鞭や、鹿ソバットをかわし続けている。


 投擲とうてき数で言えば、84、最初の電磁槍を投げたのも入れれば、正に、第85投目が命中した。


 現在85。『5375339 DAMEGE! 85HIT COMBO!』。


『MΘNΘCERΘS__/LV52』

『HP_1024661/6400000』


 あと1球。あと1小さい棒。それだけで、640万ダメージオーバーを、初陣で達成することになる。すでに500万ダメージオーバーは果たされているので、何かしらの、記録は達成しているかもしれない。


 さて、投球モーションに入った、鋤灼スキヤキシルシ投手。

 それ投手を受け止める宇宙服が、なぜか、ソコ落下地点居なかった・・・・・

 地面に激突し、自爆ダメージによる、撃破。少年は紙装甲な上、既に何度か攻撃をかすっているので、小石一個で撃破必至の状態だったのだ。やむなく、彼は光の粒子に変換されていく。


 あれ?

 ザワつく、広場一面の観客たち。

 もはや、SIGN†ORGEたちの勝利を信じて疑っていなかったのだ。

 あれ? あれれ? その場の空気が、”?”で埋め尽くされる。何が起こっているのかと。


 定格の映像空間の横。小さく開かれていた文字チャットウインドウ。

 気づいた刀風カタナカゼとマガリは、顔を寄せて、小声で読む。


『■管理者シスアド怖イ。逃ゲルデソウロウ電磁槍ロッド回収シタノデ、ゴ自由ニオ使イクダサi_』

『SIGN†ORGE:悪い、死んだ、コウベ、後頼む』

 ワルコフの野郎は、管理者NGなんだっけか?

 たぶんそうなんじゃじゃないの?

 ヒソヒソヒソ。

 さっきまで何とか、シルシ少年の陰に隠れていたようだが、どうにも隠れようがない位置どりに陥ってしまったのだろう。ワルコフはLVUPよりも、自分の継続保全を優先させた。


 少年サイボーグは、消える寸前、手に持った長い棒をコウベに向かって放り投げた。

 動きの止まった少年を仕留めようと、背中から飛び込んでくる一角獣。

 近接攻撃はソレソバットしか持っていないのかもしれない。

 本来、手練手管の高LVランカー相手でも、接近戦を挑むことなど、あり得ない。

 攻略フレーム情報サイトによれば、『モノケロスが中距離を維持するだけで、プレイヤーは自滅する』。


『NEW RECORD! <MAXIMUM> 5375339 DAMEGE!』。

 パパッパパパーン♪

 コウベの頭の上に、新記録達成レコード表示。


『MΘNΘCERΘS__/LV52』

『HP_1024661/6400000』

 カタカタカタカタカタカタッ、ドカーン♪

 無情にも戦闘バトルシステムはコンボ数を確定した。


 虎の子の”1ダメージ”は、もう無い。

 それをもぎ取る、”電磁槍ロッド”も無い。つか、宇宙服ワルコフが居なければ、ノズルへの点火なんてできない。最大推進力を得られなければ、”1ダメ”すら攻撃を与えることはできない。

 そして、どのみち、シルシ少年が居なければ、命中率特技を攻撃力に変換する術がない。


「あああぁ、コウベちゃぁん!」

 猫耳環恩ワオンが、孤立無援こりつむえんの、コウベの身と心境を案じる。


 爆破済みナックルガードが自動格納された手で、反射的に受け取った、長い棒電磁槍を、さっきまでしていたように、つい分解するコウベ。

 何のも入っていなかった、ワルコフ標準装備にして、最大攻撃武装は、いとも簡単に分解開始される。使用レベル制限のない武器の中では最強。おそらくモノケロスにも引けを取らない、積電コンデンサ、及び、放電スタンユニットを内蔵しているのだと推測できる。ノズルから放出されるエネルギーなど、謎の部分も多い。


 コウベは、光る棒を見つめ、シルシの居なくなった決戦場で、ただ一人、立ち尽くす。


 シルシが掻き消え、もう一体白い丸頭もいつの間にか居なくなった。

「グゥルルルルルルリュ!」

 尖る奥歯を、むき出す、四つ足の獣。

 MΘNΘCERΘSモノケロスと呼ばれる、一本角いっぽんつのの、ボスクラスモンスター。


 彼の敵は、標的をシフトした。

 コウベの額のあたりに標的ロックオンマーカーが付いた。


 一気に、落胆の空気が、広場を支配した。

 決戦中は、ログアウトしたり、撃破退場したプレイヤーは、戦場へ再登場リスポーンできない。


 開きっぱなしだった、歌色カイロの開いた映像空間の中、ボサ髪の少年が飛び起きた。彼は出現ポイントが限定されている。彼は決戦が終わるまでは、スターバラッドへ降り立つことができない。


「私、途中からしか、拝見出来ませんでしたけど、良くやったと思いますよ。まあ、ロスト中で、懸賞金付きウォンテッドボーナスMΘNΘCERΘSモノケロス撃破なんていったら、宇宙ドルで9000万、”特選おやつ”で言ったら、10万宇宙ドルは下らない、”特選おやつ:パーティー用”900個買ってもお釣りは……お釣りはないのか、ぴったりか」

 健闘を労い、不屈の闘志を讃えているつもりなのだろう。残念会と洒落込みましょう、と縦に長めの”特選おやつ”を、テーブルの上に並べ出す白焚シラタキ


 だが、不屈の闘志・・・・・には、まだ、火が付いてすら・・・・・・・居なかった・・・・・のだ。


「ザザッ―――ピチュッチュチュイ♪」

 まるで、『お前は、ここで諦めるのか?』とでも言うさえずり。

 しんとした、未来風の公園に響きわたる。


「ザッ―――ピュピュピピピピピューーーーイ♪」

 さながら、『お前は、”特選おやつ:パーティー用”とか言う美味そうなモノを、こんな後ろ蹴り一発ごときで諦めるのか!?』と言っているようにしか聞こえないさえずり。

 未来風の公園では、甲高い鳥の鳴き声が反響していた。

 なんだよこれー。うるさーい。とブーイングが漏れ出す。


 歌色カイロの開いた映像空間の中で、ボサ髪が、なにやら配線を駆使して、複数の映像空間を開いている。オープンチャンネル経由で、パーティーチャットを再構築しているようだ。

 座席横の、パーソナル・ブレイン・キューブの上に小さな宇宙服がく。

 彼女カイロは、教室を映し出している映像空間を閉じた。


 おい、見ろよ!

 観客の一人が、巨大な映像空間を指さした。


 瑞々しい体のラインが丸わかりの、ピタピタなSFコスチュームに身を包んだ、美少女。分解に時間が掛かってるっぽい、光る棒を「要らねっ」とばかりに、放り投げた。

 そして、装填してある最後のナックルガードを、水平に構える。

 非常に様になっていた。ココまでは本当に格好良かったのだ。

 直後、まるで、そうさせまいとするかのように、首もとのスロットから、飛び出てきた抹茶色。

 小さな鳥が、美少女の頭上に止まった。

 ズババババッババァーーーーン!

 頭の上に、小鳥をのせている様子は、お世辞にも格好良いとは言いがたい。


 ”小鳥騎士メジロナイト”―――

 違うな、正確には―――”コウベ小鳥”が、完成した。

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