2:サーキットガール
コトリ。
濃いクリーム色を基調とした、ハイカット・スニーカー。
よく見ると、爪先と
特区立学園
隣にY、Z組の教室が続いている。
一階1年、二階2年、三階3年と、それぞれ、学年に対応した階に教室がある。
ここは校舎西側の比較的通常の学校施設が揃っている区画。
東側のVR・AR専門教室区画との間には、読書から体力作りまで、自由に使える多目的スペースが、解放されている。教室3個分の幅があり、全校生徒が押し寄せても、窮屈になることはない。
ガヤガヤガヤ。朝のHR前。
本日は、土曜日で、HR後、即放課となる。
部活動など、授業以外の目的で校舎設備を利用する者が、その使用申請代わりに出席の返答をするだけという意味合いが強い。
連絡事項がなければ5分と掛からず終了する。
パタパタパタン。騒々しく接近する上履きの足音。
「何、この靴? どしたのよ」
「あら? 重……くも……ない?」
首を傾げ机から、持ち上げたり置いたりを、繰り返している。
「―――これ、慣性制御付きの、”パワーブーツ
袋入りの、スニーカーは、頂点で一瞬滞空して、不自然なふらつきを見せながら
この重心の偏りは、ソールが重いわけではない。力学的にはとても複雑な、”慣性に
がらがらがら。ガキシュキシュ、ウィウィ、プピッ♪
「先生、来たぞー」
連絡事項と、出欠確認だけなので、土曜のHRはロボット先生が勤めることが多い。ロボットとはいえ、顔の部分にカメラモニタ内蔵で、基本的には、担当教員が遠隔操作することになる。
「じゃ、俺は戻るぜ、VR教室で待ってるからな」
「あたしも、戻らなきゃ、先行ってるわよ」
先に行っているというのは、
「出欠をとります」
今日の教師ロボには、やや太めの化学教師の顔が張り付いてる。
顔は、オットリとしたものだが、体は、あちこち肉抜きされたシャーシが、ギラリと光っていて、最高にサイバーだ。
「おう。じゃな」
「わ」
バチッ、ゴツ、ギョォン!
スニーカーは、軽い放電を放った後、天井に届きそうなほど、飛び跳ねた。
この靴は、
今朝、
チキ♪
「作動半径内デ、登録者以外ノ装着ヲ検知シタタメ、盗難防止装置ヲ作動イタシマシタ」
真っ白な細腕にはデカすぎる、腕時計型デバイスが、応答した。
だがまさか、
跳ね上がったスニーカーは、落下し、
ひっくり返って、見えるソールは
昨日、過充電されたコミューターの、
ソレを拾い上げる、しなやかな手先。
チキキ♪
「登録者ノ接触ヲ検知シマシタ。通常モードヘ復帰シマス」
真っ白いデバイスが、応答し、魔術的な意味合いを帯びた
「あー、彼女は、本日付けで、我が1年X組への
教師ロボの紹介を引き継ぎ、自己紹介する制服姿。
「
鈴の音のような声。若干のイントネーションの揺らぎが見られるモノの、標準語を喋っている。
うっわっ、なにあのちっさい顔。
すっごい、白い。
声、かーいい、サンプリングしてー。
足ほっそい。髪長ーい。
口々に、
だが、その足下は、ルフトさんが履かせてやった、玄関先に転がっていたサンダルのままだ。
実は、教室内は、土足のままでも問題はない。
物質工学、音響学、光学による
「あー、席は、……
『項』『邊』『歌』と、印刷品質の白文字を書いていた教師ロボが、ちらりと
名指しで呼ばれ、指を広げたままの手をダラシナく持ち上げる
「席は彼の後ろが空いてるから、ひとまず、ソコに座って下さい」
教師ロボへ軽く会釈した、リアル
「よろしくね。
なによ、美味しそうな名前のくせに、手が早いわね。
勝手な、野次が飛び交う。
「よ、良くお似合いですね……制服」
「あらそうどすか? ……ありがとぉ。2年前まで……現役で着とったから……まだまだ……だいじょおぶ……でっしゃろ?」
顔を寄せ、声を潜めた、
「それ、見せてん……だな。……ほんと、コウベみてぇだ」
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