1:接触2

「どう? ルフトさん?」


「ハイ、外傷モ無ク、脈拍ニモ異常アリマセン。オ聞キキシタ通リ、精神的ショックデ、気ヲ失ッテイルダケト思ワレマス」


 細い手を取り、健康管理フレームと照合し、異常の無いことを確認する。本人の了承がないため、バイタルデータから、この人物だろうと思われる公開情報パブリックと照合している。

 担ぎ込まれた真っ白い人物を、応急的に診断しているのは、ロボットにしか見えない先鋭的なフォルム。さしずめ青い疾風・・・・という印象の割に、柔らかい人格設計ものごし


「まあな、ぶつかって吹っ飛ばされた後、平気で起きあがって、鋤灼スキヤキに駆け寄ってたからなー」


 ここは、鋤灼スキヤキシルシ少年が、御厄介ごやっかいになっている学園βベータ指定宿泊施設、「The下宿」。1階、食堂横の、リビングのような広い空間。ソファーとテーブル、イスが数脚置いてある。


 イスにはシルシ刀風カタナカゼ。2人とも背もたれをテーブル側に向け、腕や顎を乗せている。


 薬箱から、熱冷ましのシートを取り出し、ソファーに横たわる白っぽい人物のへ張り付けようとする全長1メートルのルフト。両目を交互に明滅させた後、シートを開封せず薬箱に戻した。


「むしろ、鋤灼スキヤキの方が危なかったぜ、俺が、たまたまオーバースピ・・・・・・・・・・ードで・・・突っ込んでやってなき・・・・・・・・・・、おまえ、プラスチックとはいえ、堅い地面にダイブしてたんだからな?」

 ガタガタ。イスをガタガタさせ、刀風カタナカゼ勝ち誇るドヤる


「たまたま、突っ込みすぎて、緊急作動したコミューターが、周囲周りの慣性を吸収してくれただけじゃネエか」

 口をとがらせ、言い返すシルシ


「だから、そう言ったぜ」

「ん? そうか? まあ、助かったのは、本当マジサンキュー」

 あごだけで、お辞儀するシルシ


 ウォロンウォロン! ウォロォロォロォロォン!

 玄関先から、過充電状態の、物体電池フライホイールの雄叫びが聞こえてくる。相殺しきれなかった運動エネルギーは、何故か・・・利得ゲインとなった。シート下にわずかにのぞく、物理電池フライホイールたけるように、明るい赤色・・・・・で発光している。

 この状態が、解消されるまでは、コミュータを自走させることは出来ない。少年2人は可憐(推定)な少女を、座席へ座らせ、手で押してきたのだ。


 お互い無事で何より、と頷き有った後、シルシは、テーブルの方を向いて、自分の頭を指さした。テーブルの上には笹木講師から預かったパーソナル・ブレインキューブ入りセット済みの”VOIDチャージャー”。


「おい宇宙服。こう言う・・・・たちが悪いのは無しだ。いいか?」

 普段より、低い声質トーンで宣告する鋤灼スキヤキシルシ


「現に、見ただけで、倒れちまう人だって居るんだからな」

 指さした自分シルシの頭から大量の血が流れている。フローリングの床にポタポタと落ちる前に、ノイズとともに消えていく。


「っつうか、いい加減、消せ! この現実味のある流血・・・・・・・・!」


ワルコフゥ今ノ季節ニピッタリト、思ッタノデスガ。了解シマシタッ」

 顧問一押しの、顧問の子供声とはひと味違う、舌っ足らずだけど悪戯っぽい声。シルシの制服の、文字が流れる袖のあたりから発せられている。


「今日は、気温が生暖なまあたたけぇけど、まだ、怪談にゃ早えーぜ」


 ピタリと停止し、ジジジジーと、古い静電プロッタのような音を立てる宇宙服。

 ギョッとするシルシ刀風カタナカゼ

 その音は、ワルコフが暴走中に発した音と、同じだったからだ。

 宇宙服は、バイザーの中央いっぱいに四角い枠を表示した。


 そのまま、腰をひねり”鍵箱禁則事項リストBOX”を手で押さえる。

「ん? なんだそれ、顔どうした?」

「は? ワルコフの悪戯悪ふざけに決まってるだろ。実際、タンコブくらいにはなってるかもしれんけど……」

 可憐な少女(推定)のでかいメットきらびやかに、ブツかったオデコをさする。


「違う、鋤灼おまえじゃ無くて、ワルコフのバイザー。見て見ろよ」


 ソファーと同じ高さのテーブル上に立つ宇宙服ワルコフ。その小さく、ツルンとした顔には何の変哲もないシルシの、血濡れの顔が写っている。

「別に、何も変じゃねえぞ?」


「いや、そうじゃなくてな、……ワルコフ飛行士、こっち向いて見ろ」


 ワルコフはシルシの顔を張り付け・・・・・・・・・・たまま・・・、飛び跳ねるようにして、刀風カタナカゼの方を向き、宇宙軍式敬礼を披露・・・・・・・・・した・・


 ブワハハッハハハハッ!

 豪快に笑うガタイの良い少年。

「おう、失敬だな、刀風カタナカゼ! これは、宇宙軍の正式な敬礼スタイルだぞ」

「なら、ワルコフ! 鋤灼スキヤキ学生にも、ソイツをおみまいしてやれ」


 宇宙服は、がに股のまま、跳びはね空中で120°ターン。かかとがカツンとぶつかる。わずかに姿勢を崩した宇宙服は、ジャンプの頂点でスラスターを1/6秒10フレーム点火。ゴールする100メートル走選手の様に胸を反らし滞空すること1/2秒30フレーム。姿勢回復に成功し、華麗に着地する。

 着地の衝撃を吸収したがに股のまま両手の手刀を水平にしてバイザーへタッチ。再び敬礼のポーズで静止した。

 一連の行動の間中、バイザーには血濡れのシルシが、映し出されたままだ。


 ビシッ! 決まった。ズルとギコチなさ満載だが、バレエのような動きが炸裂。

 ぽこん。

『★★★☆☆”アントルシャ”チャレンジ獲得』

 宇宙服の頭上にポップアップした、謎のダイアログ。

 いつもの冗談のたぐいだと、思われる。


 アファファファアファファッ!

 崩れ落ち、わめシルシ。ひーひーひー! 肩を押さえている。


 テーブルの上の宇宙服サムネイルは、ドヤ顔を手刀しゅとうごと左右に向け、少年達2人へ、交互に勝ち誇っているように見える。


「ひひっひ、っつうかコレ俺の顔ずっと張り付いてんじゃん! なにやってんだワルコフ!」


「なー?」

 カシュッ。シルシの部屋付きの1/6ルフトが手渡した、瓶入りのジュースをあおる刀風カタナカゼ


 宇宙服ワルコフは、バイザーに表示された、四角い枠の中の血濡れの顔をつかんで、ベリッと引き剥がし、”鍵箱禁則事項リストBOX”へ、ニュニュッと仕舞い込んだ。


「あー禁則事項それか、そうだ、質の悪いスプラッタ実像・・・・・・・は禁止だからな」


ワルコフゥイエス、シルシ殿」

 ワルコフは、シルシの言うことを聞いて、自分の顔に写るスプラッタ実像をハードコピースクリーンショットして、黒い箱に放り込んだのだ。

 笹木環恩ワオンから、「とりあえずぅ、ワタシが居ないときにはぁ、鋤灼スキヤキ君のぉ指示に従ってくださぁい」と釘を差されているにしても、ワルコフにあるまじき素直さである。


「……WARKOVウォーコブ?」

 どこからかこもった声が、シルシの耳に届く。

「ん? コウベか? 」

 シルシは自分の鞄を開け、入れっぱなしだった小鳥騎士メジロナイト一式在中入りのパーソナル・ブレイン・キューブを取り出した。

 ”VOIDチャージャー”のスイッチがすでに入っている。やはりワルコフが起動させたのだろう。

 テーブルに置いてみるが、なにも、出てこない。

 ん? ”VOIDチャージャー”を持ち、中身をテーブルに落とすように、ひっくり返して縦に振ってみるシルシ


「おいおい、なんだそりゃ―――!?」

「オ気ヅキデスカ―――?」

 そんな声に、顔を上げたシルシの眼前には―――


 教室でシルシが使っていた、オレンジ色の化石用チゼルハンマー。

 ただしその大きさはハンマー部分の大きさが抱き枕くらいはありそうな巨大さ。

 対するは、十数センチの細長い角棒まさに五寸釘

 ワルコフは巨大なオレンジ色に叩き潰される直前―――

 細長い棒を投擲とうてきと同時に、末尾の釘の耳ノズルへ点火した。

 シュドン!

 放たれた実像は、額のリング状の脳波顕微鏡レンズのど真ん中へ的中した吸い込まれた


 ポポン♪

索敵スカウティングモード緊急停止。パススルー機能解除のため、VRHMD、取り外しアンマウントします」

 大人っぽい声の、合成音声マシンボイス

 パシャ、ウイゥイィッ。ガシャ―――ぼっすん。

 開放され、背後へ転がり落ちた、開発者用っぽい本格的なVRHMDデバイスシャンパンゴールド


 舞い上がる栗色の長い髪。ひるがえる真っ白いワンピース。

 その姿は半透明ではない。白色光に照らされ、産毛がほほの輪郭を輝かせる。

 切り揃ったぱっつん前髪に、少し太めの眉毛。

 揺れる長いまつげ、切れ長の瞳。

 強いて言うなら清楚系美少女そっくり。

 つまるところ、実物サイズ1/1米沢首ヨネザワコウベ。再顕現の巻。

「うわ、また、リアルコウベ来た―――!?」

 ひっくり返した””からボトリと落ちる”小鳥騎士メジロナイト属”の”騎士部分コウベ”。


「痛って! 何すんだ、シルシ!」

 額を押さえる確認用1/10サイズ。


 ♪ピチュチュイ?

 その上に、ポトリと落ちる抹茶色、実物1/1サイズ。

「ふっぎゃんっ!?」

 ピプルル♪


 引き潰れるコウベの声に重なるように、配送シュート便、到着のベルが鳴る。

 ソファーの上を転がっていた、VRHMDデバイスシャンパンゴールドが床に落ちた。

 宇宙服ワルコフは、テーブル反対側に「たっらーん♪」と再登場リスポーンバカでかく10/1サイズでオレンジ色の、オモチャハンマーを再び構える、真っ白いリアル実物大米沢首ヨネザワコウベ

 ジタバタする確認サイズサムネイルコウベ。寝る抹茶。

 刀風カタナカゼはジュースの瓶を落とし、ソレを難なく受け取る足下の1/6ルフト。

 あー。シルシの、口を突いて出る、困惑・・音階


 ピプルル♪

 収拾付かない、今の状況を介さず、再び到着ベルが鳴った。

「はいはーい! 今、でまーす! 刀風カタナカゼ手伝え」

「お、おう」腰を上げる筋骨隆々。

 玄関先では地下から、かなり大きな配送カーゴが迫り上がってくる気配が伝わってくる。


「お前等は、全員着席! ルフトさんは何か飲み物でも出してあげて」

 振り返り、指示する鋤灼驗スキヤキシルシ管理者権限所持者顧問からまるなげ


 真っ白な、リアル米沢首ヨネザワコウベは、オレンジ色をそっと立て掛け、膝を揃えてソファーへ着席した。

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