2:バックヤード3

「ココは防災用のテントに携帯食料なんかのセット」

「今回必要なし……と」

「「「異議なーし」」」


 ツカツカツカ。ぞろぞろぞろ。小さな親ガモ禍璃マガリに、追従する立派な体格の部員&顧問子ガモ達。


「次はコミューター!? 1人用のヤツ? こんなの有ったかしら?」

 禍璃マガリが引っがしたシートカバーの中から、かなり小振りで、半球タイヤの他に、小さな間接付きのゴム足を持つ、イス型コミューターが出土した。


「それー、特区建設当初に、現場監督さんが、広範囲の移動が大変だから、管理者サイドで私たちが急遽作成した物なんですよ~。もしよければ、それを選んでいただいてもよろしいですよ~!」

 事ある毎に、会話へ参加してくる、白焚シラタキ女史。

 ヒソヒソヒソ。少年少女達は、やっぱり、寂しいんだぜ。きっとそうよ。などと揶揄やゆしている。見かねた環恩ワオンが、本当に寂しがり屋さんだとしたら、余計に止めてあげなさい。とまるで、講師のように、やさしくさとす。


「……結構便利そうねー」

 禍璃マガリ座席シートを押して座り具合を確かめている。


「もちろん階段も上れますよ~」と女史の補足。


「階段上れるのは良いな」「通勤にいいわねぇー」「やべぇ。欲しくなって来たぜ」

 概ね高評価イス型コミューターの、必要ポイントをシルシが確認する。

「えっと、一台で、600003人分のptsポイント……無いな」


「箱に入ってない大きい物も、すべて、お渡しできますのでー!」


「はぁーい! 解りましたぁー! ありがとうございますぅー!」

「「「……ございあーす!」」」

 声に一抹いちまつの優しさが込もった。



   ◇◇◇



「そろそろ、半分くらいまできましたね」


「そうねぇ、さっきはああ言ったけどぉー、ワルさん達が心配だからぁー、出来るだけ急いでぇ済ませちゃいましょ」

 拳を顎に当てる環恩ワオン


「そうですよ。”ワルコフ”と”小鳥騎士メジロナイト”なんてもう、どう考えても(何もしでかさない訳がない)心配・・な組み合わせじゃないですか」

 諦観あきらめ気味にシルシは言った。


「じゃぁー、どんどん行くわよぅー!」

 拳を突き上げ、2歩先行、次の箱に手をかける顧問講師。

「ウェイトトレーニングの機械ぃ?」「いらないわね」


空調・換気簡易シェルター機能付きぃハイテク寝袋ぉ」「俺ちょっと欲しいかも」

鋤灼スキヤキの部屋には、もう寝袋有るじゃないの。いりません」


 机ぇ、いらない、イスぅ、いらないぜ。

 VR関連ゲーム機各種ぅ、これちょっと保留・・で。

 小さく手を挙げるシルシ


 普通の贈答用のぉ缶詰とかハムぅ、ルフトさん喜びそうだなぁ、いらないわよ。

 VRじゃない映像機器と映像ライブラリが凄ぇ一杯、んー今回いらない。

 詰め合わせに心奪われる鋤灼スキヤキ少年。

 映像ライブラリの目録に目を通す刀風カタナカゼ少年。

 見もせずに一蹴していく禍璃マガリ嬢。


 データグローブとかぁウェアラブル系とデータマテリアル規格の玩具ぅ、ちょっと気になるわねぇ保留・・でぇ。

 箱を開け、確認し、禍璃マガリに記入させる。


 入力機器各種と量子サーバーのプロダクトキーカード、はいはぁーい保留・・でぇー。

 冷暖房器具、いらない。

 情報暗幕とPBC・開発者用デバッグ機器、保留・・


 服ぅ? いらな……ちょっとかわいいけどぉ、我慢する、いらなぁい。

 ぬいぐるみ、あぁ、だめそれ、強者・・が潜んでそうだから、フタして、早く。

「あらぁー?」「姉さん、次々」姉の背中を押し、奥へ進む妹。


 白物家電だぜ、いらないわねぇ。

 この区画は大きい物が多いため、棚の間の横板が所々、外されている。

 あ、俺、この小さい冷蔵庫ほしいかも。えーなんで? いや、これから部員おまえらが俺の部屋に集まることもあるじゃん。そのときに飲み物出したいなーって。んじゃ保留で。


 貴金属に特区ブランドのバッグ、興味なしぃ。


「あっ! 導念SuperEEGケーブルゥ!」「ちかぁいぃ!」

 禍璃マガリは、|授業で使っている50枚つづりのノート《電子ペーパーノート》に、棚の区分番号と”VRケーブル品名”を手書き入力している。


 ケーブルを引っ張り出している環恩ワオンを追い越し、次の棚に張られた、品目リストへ目を通す禍璃マガリ

「あった! VRデバイスって書いてあるわよ」

「でかい段ボールが続いてるぜ」

「じゃあ、見てみましょうか」

 禍璃マガリは腕まくりした。


 まず禍璃マガリが開けた段ボールには、笹木講師と同じデザインの魔女帽子タイプのVRデバイス。

「これ、姉さんのと同じ! ……でも、色が違う?」

 笹木環恩ワオン特別講師が使用している魔女帽子は”オレンジ(右脳側)”と”赤(左脳側)”のド派手なヤツ。

 対して、笹木禍璃マガリ受講生が手にしているのは、形状は瓜二つだが、カラーリングと、脳波顕微鏡レンズから突き出ている衛星アンテナ無骨な突起の有無が無い所が違っている。禍璃マガリが魔女帽子を試着する。


「あらぁ、禍璃マガリちゃぁん! それ良いじゃなぁい! 色もすっごく似合ってる! このシリーズは材質が柔らかいから、丸めて、鞄に入れておけるし便利よぉー」

 ”白(右脳側)”と”ラベンダー(左脳側)”の幾分落ち着いた色合い。


「これ、姉さんのと、性能も同じ?」

「屋外でのPBC稼働に制限が付くわねぇ。でも、特区内ではあんまり意味無いから平気よぉ。あとぉ、センシング規格が1段落ちるくらいー?」


「……そうね、私、コレにする」

 とても気に入ったようで、頬に赤みが差している。


 入り口に有ったアルミ製のスーパーのカゴみたいなのを持たされていた、刀風カタナカゼを呼びつける禍璃マガリ

「ちょっと、刀風カタナカゼ、コレの付属品一式揃えておいてよ」

 試着したままの、モコモコしたシルエットの魔女帽子(白・薄紫ラベンダー)を指さす。

「あああん? 何で俺が!?」

「じゃあ、アンタ、記録係代わってよ」

「面倒そうだなソレ」「はっきり言って面倒ね!」

「解った、かせ」と禍璃マガリの頭から魔女帽子を引っこ抜く。


 カゴに魔女帽子(モコモコ)を突っ込んだ少年が、屈んだ目の前の箱を試しに開けてみている。

「お? コレもVRデバイスなのか。コレちょっと良いな」

 魔女帽子と同じメーカーの物で、騎士の兜のようなソレは、禍璃マガリの物と、ほぼ同じ性能で、ポイントは半額だった。

「俺、これでいいぜ」「鋤灼スキヤキもコレにしちゃえよ」


「んん~開発者用のVRデバイスは結構なポイントするわねぇ」

 魔女帽子と比べるとかなり先鋭的なデザインのVRデバイスを手にした環恩ワオンが、ちょっとポイントが足りなーいとなげく。

 ヘルメットとバイザー部分が一体化したシャンパンゴールド。SF感満載のデバイスには、リング状に光る脳波顕微鏡レンズが、前後に2つ付いている。


「俺は、コレなら欲しいかな。やっぱり自分用のVRデバイスなんて、早々買えねえし」

 環恩ワオンの開発者用のVRデバイスのそばに置いてある、ふつうのフルフェイスのメットに必要なユニットを無造作に張り付けただけにしかみえない真っ黒。


 VRデバイスにしては破格・・の低ptsポイント。2つ付いた脳波顕微鏡レンズから突き出した、導念SuperEEGケーブルはき出しのまま。ユニットの隙間を這わせて、結束バンドケーブルタイで保持している有様ありさま

 ひとまず機能を成立させただけという、製品プロダクトデザインされていない実証機デモンストレーター。恐らく何世代も前の物ながらもギリギリS1規格までに対応。


 ペタリと張られた、大きめの付箋紙に書かれた情報。食い入るように見つめるシルシ。口元に浮かぶ好意。

「なんか、見た目、格好良くは無ぇし、顔のバイザーがワルコフみてぇだけど」

 とシルシも、ゲーム機とVRデバイスの両方を諦めてはいないようだ。


 カツカツカツカツン!

「どうですか、何か良いモノ有りましたか?」

 勢いよくPLOT-ANブーツのヒールを、鳴らしてヤってきた推定寂しがり屋プロトたん風女史


「「「「やっぱり、寂しいんだ」」」……のかしらぁ?」

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