2:バックヤード2

「どぞ、乗ってください」


 ウリュリュリューリュリュリュー。

 通路を進んでいくコミューター。

 見たことのない連結タイプで、一つ一つも、長さがあってユッタリしてる。配車的には、通路に入ってきた順番そのまま、以下の様になった。


1:シラタキ

2:ササキ(ワ)


3:ササキ(マ)

4:―――


5:スキヤキ

6:カタナカゼ


 禍璃マガリの後ろに乗ろうとしたシルシは、シッシッと追い払われ、刀風カタナカゼ相乗りタンデムする事に。見た目以上に大きい座席に、笑顔が漏れる男子生徒達。ガタイの良い刀風カタナカゼと一緒でも、ピッタリ寄り添わずに済んだのだ。禍璃マガリは振り返り、舌打ちした。


白焚シラタキさぁん、ウエストォ、ほっそぉい」

「ふにゃはゅ! ……コホン……先生、あんまりグリグリしないでくださはひっ!」


 3台連結した状態なので、幾分、動きが窮屈不自由だ。それでも何とも擦れ違わなかったので、苦労することは無かった。やがて目的地らしい、特徴的な赤色のドアの前に到着する。


「ちょっとお待ちください。今、扉をお開けしますので」


 シルシが出発時にオンにした、ストップウォッチによると、7分34秒の道のり。コミューターの速度を考えると、入り口からの距離はそれほど遠くないはずだ。それでも、目印案内表示の類が一切ないのに、十字路・T字路・Y字路を幾度となく通過したので、自力での帰還は難しいといえる。しかも、スロープ状の床を登ったり降りたり、時には、クイズに正解しないと動かない謎のリフトで、上がったり下がったりもした。ひょっとしたら、シルシ達が考える以上には元の自販機のあったフロアから、離れているかもしれない。


 真っ白い壁。なぜか定間隔で描かれている、目盛りによれば幅1.5メートル。高さは3メートルと窮屈な感じはしない。


「倉庫の位置を解らなくするための、迷路みてえだ」とシルシ少年が率直な意見を述べるのも、無理の無い事だろう。


「ふふふふふ。この通路は、自動識別ナビの類も、一切、機能しませんよ? この動く目盛りが妨害ジャミングしてますから」

 勝ち誇る魔女娘プロトたん


「ほんとだぁ、この目盛りぃー、ゆっーくり流れてぇるぅー!」

「うひゃっ!? キモッ! 何なのこれっ!?」

 ドアの両隣の目盛りを触って、確かめてる笹木姉妹。


「今居るとこ、自販機のトコよりは、ちょっとだよな?」

 シルシは顔の前で、水平にした平手を上下させてみせる。

「えー? じゃないの?」

 片手を付いたまま、振り向く禍璃マガリ

「バカ、±プラマイゼロ・・だろが!」

「私はぁ、ものすごぉーく下・・・・・・・・じゃないかとぉ……もうジオフロントのぉ”シールド《境界》”越えちゃってるんじゃないのぉってくらいに?」

 禍璃マガリと同じポーズで振り向く、環恩ワオン


 ビクリ!? と肩を震わせ、ぎこちない笑顔を張り付かせた、白焚女史(セクシー魔法美女)が、笹木姉妹と同じポーズで振り返る。

「や、やだなぁ、ジオフロントへの無断進入なんて、生身で出来るわけ無いじゃないですかぁ! ヤ、ヤダなぁもう! アファファファハァッ!? ……ケホケホッ!」

 それまでの、ピシッとした所作が、ギコちないモノに変わる。


 彼女の、今の格好は、メインヒロインの装備一式を模した、体のラインがそのまま出るセクシーなモノなので、なおさら、無防備というか締まらない。

 昨日のビジネスライクなスーツ姿と、”暴走屋台”を止めた手腕(及び足技)を見てなかったら、とても、特区の優秀な管理者サイドの人間には見えない。逆に、昨日の印象と比べて、親しみやすさは大幅にアップしている。


 シルシ少年と、耀次ヨウジ少年の瞳が、スッと細められる。

「……おい、鋤灼スキヤキ、逆に、もうちょっと、様子見しようぜ……ヒソヒソ」

「……そうだな、策略とか性格が問題ってんじゃなくて、なんつうか単純に用心しとこう……ヒソヒソ」

「……ちょっと、またなんか、悪巧みしてんじゃないでしょうね……ヒソヒソ」

 禍璃マガリが素早く戻ってきた。


「よっこらっせっと!」

 ガチギャリガリギャリカチカチカッシャン!


 今時、珍しい、多重回転シリンダー錠だ。

 ただし、内部機構はパワーアシストで継続する。古来の絡繰からくりのような古いタイプの仕組みを、最新型の装置で置き換えたものである。

 一見普通のドアの、内部構造すべてが、鍵を回す動作解錠の審議の為に使われている。

 右か左か解らないが、連続して5回転させたと思ったら、ドア内部で、カタンカタンカタンと何かが断続的に落ちる音。

 タイミングを合わせて、カチンカチンカチンと3回逆方向に回転。

 歯車が噛み合う音が1つ、2つ、3つ。コン、ゴコン、ガガガン!

 次第に大きな歯車へと動力が伝わっていく。


 30秒ほど、ドア内部で作動音が継続した後、ピピピッ♪ と作動音が鳴った。

 ドアノブを同心円に取り囲むように、10センチ程の可動部分リング状のパーツが見えている。銀色のドアノブを囲むように、3重のリング状の可動部分が、パーツ分けされている。

 そのリングにはそれぞれバラバラの箇所にがついていて、自動的に外側から順に回転し出す。内側のリングがドアノブに水平の箇所で、自動的に停止し、何か堅い金属が噛み合う衝撃が、音で伝わってくる。次に、真ん中、外側と連続で溝が揃った。

 ガッコン! カチャン!


「開きましたー。開け方忘れてなかったー」

 袖で額を拭う白焚シラタキ

 ギッギギギギギギ。

 重厚な音とともに、ゆっくりと押し開ける白焚シラタキ女史を、すかさず手伝うイケメン。


 お前はどうして、そう、イケメンなんだ。用心するんじゃなかったのか?

 と言う顔で、片目を細めるシルシ。同じ顔で、禍璃マガリが、「単なる年上好き?」とヒソヒソとシルシに耳打ちした。


「音声入力」「照明・空調・換気オン」「あれ?」「照明オン」「あれ?」

 慌てる白焚シラタキ女史。シルシは壁際のスイッチを押していく。

 一瞬で、白色光で満たされる室内。

「あ、ごめんごめん。この辺は、”音声リモコン”対応前の区画だったっけ」

 赤・青・黄・緑・紫・ピンク・白・黒、とカラフルな段ボール箱がギッシリと積められた棚が現れる。天井が低くとても窮屈だが、脚立が無くても一番上にある箱まで手が届くのは便利そうだ。


「この中の赤と黒以外・・の物なら、どれでもお渡しできますよ」

「結構沢山あるわねぇー!」

「棚ごとにリストが張ってあるので、それを最初に見てもらえれば、それほどは掛からないと思います」

「なんか、ちょっと、楽しくなってきたぜ!」「まじめにやんなさいよ!」

「いや、でもたしかにドキドキするかも」


「じゃあ、私、ついでに検品だけ初めてますんで、解らないこととかいつでも聞いてください」

 奥へ入っていく女史へ礼を言う一同。

「はぁい! ありがとうございますぅー!」

「ありがとうございます」「「どもっす」」


「赤黒以外って事は、この『持ち出し厳禁』シールが無いヤツを見ていけば良さそうだな」

 制服の上着を脱いで、足下あしもとの小さな脚立へ掛けるシルシ

「んーっと……そうみたいだぜ」

 上着を脱ぎ、シルシの制服の上に重ねる刀風カタナカゼ

「じゃとりあえずぅー、こっちの端からぁー見て行くわよぉー!」

「「「「了解ー」」」」

 顧問講師の号令に返答する生徒達。何故かその中に、白焚シラタキの声も混じった。


「やっぱり、寂しいのかしら?」「やっぱ、システム管理者シスアドの仕事は……」「やっぱ、ちょっと、優しく接してやろうぜ」

 ヒソヒソヒソ。

 生徒達の会話をスルーして、顧問講師は、最初の段ボール箱に手を掛けた。

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