勇者ですか? お断りします♪

荒木シオン

私とアイツの出会い編

第1話 血で汚れるとか絶対嫌ですし

「ぐぅぬぉぉぉぉ!!!!」


 静寂な空気が似合うであろう、白亜の神殿に響く場違いな野太い声。


「な~~ぜ~~ぬ~~け~~ぬ~~!!」


 発生源は鉄製の全身鎧に身を包んだ、熊の様な大男。

 彼が額に青筋を浮かべながら、見かけ通りの怪力でもって抜こうとしているのは、神殿の最奥にある祭壇に突き刺さった、一振りの剣だった。

 剣は深々と祭壇に刺さっているわけではない。切っ先がほんの少し刺さっているだけだ。それなのに、剣はまるで祭壇と一つになっているかのようにビクともしない。

 やがて大男が疲れ果て、剣を握る力を緩めた瞬間、剣の刀身がパッと光ったかと思うと、彼は凄い勢いでその場から、神殿の入口付近まで弾き飛ばされてしまう。

 その様子を見守っていた、神殿に仕える神官や礼拝に訪れていた信者は、何処か不憫そうな視線を彼に向けて、各々小さく溜め息を吐くのだった。

 そして、誰となく呟く「あぁ、またダメだった」と。


 そんな彼らの様子を見て、剣の突き刺さった祭壇に腰かけながらクスクスと楽しそうに笑う少女が一人。

 墨の様に艶のある髪を腰の辺りまで伸ばし、キトン風の白い一繋ぎの服を着た、白磁のように美しい肌を持つ彼女。しかし、そんな人目を引く少女を、周りの者は気にも留めない様子だった。故に見るものが見れば、場所が場所だけにその姿を幽鬼の類と疑う者もいるだろう。

 けれど、少女の瞳を見ればその疑いも霧散する。まるで黒曜石を削り出したかのように澄んだ黒い瞳は、生気に溢れ今この瞬間を大いに楽しんでいる者の目だったからだ。幽鬼のように、この世を恨めしく思う、そんな暗い目とは、無縁の瞳を彼女はしていた。


「あ~、可笑しい! あんなに必死になって! 抜けるはずないってのに!」

 

 心底バカバカしいといった感じで笑う少女。けれど、そんな彼女を周りはやはり注意しない。それどころか何事も無かったように、普段通りの仕事や日課の礼拝に戻って行く。

 それを面白くなさそうに少女は鼻で笑い、祭壇で昼寝でもしようかなぁ~、とのんびり思い始めた頃、ガンッと頭を何かで勢いよく殴られた。、


「貴女はっ!! またっ!! またなのですかっ!?」

 

 同時に怒ったような声が投げかけられる。

 殴られた彼女が声の方に顔を向ければ、背中に羽を生やした少女が頭の少し上を浮いていた。身長は三〇センチ程だろうか。

 その小さな少女は全身で怒りを表現するかのように、背中の羽をブ~ンブ~ンと激しく動かしている。腰に当てた両手の右手には、彼女の身の丈ほどある金棒らしき物が握られていた。……さっき頭を殴ったのはそれか!

 その事実に若干の怒りを覚えつつも白い少女は何処か面白くなさそうに応える。


「またって人聞きが悪いわね。不適格者を弾いて何が悪いってのよ?」

「そんなこと言って!! コレで何人目です!? 私が来てからでも軽く一〇〇人超えてるのですよ!?」

「じゃあ、妖精さん? 訊くけど、アレで良いとか本当に思うわけ?」


 ビシッと白い少女が指さす方向には、眠っている熊のように涎を垂らして気を失っている大男が一人。


「うぐっ、た、確かに……ちょっとアレは無いかもですけど、で~す~け~ど~!!」

「だったら良いじゃない、別に……」

「良くない! 良くないのです!! いい加減に勇者を選定してくださいなのです! 聖剣様!!」

「嫌よ!!」

「即答なのです!?」


 愕然として目を丸くする小さな少女改め妖精さんから、フンっと顔を背ける白い少女改め聖剣の少女。

 そして、彼女は頭の後ろで騒ぐ妖精さんを無視しながら、懐から一枚の羊皮紙を取り出し、改めてどうしてこうなったかを考えるのであった。




 今から遡ること五年前。

 聖剣の少女は、地球という惑星の日本という地域で、ごくごく普通の女子高校生だった。

 平均的な中規模の都市に住み、一般的な公立高校に通っていた彼女。唯一誇れることがあるとすれば、某四十八人ユニットアイドルの真ん中ぐらいには入れそうな顔立ちと、剣道で全国大会に出場できる位の実力があったことだろう。

 そんな全国を探せば似たような娘が、両手の指の数ぐらいにはいそうな彼女、鬼怒沙綾きぬさあやはとある大雪の日に事故に遭ってしまう。

 普段なら恐らく助かるであろう交通事故だった。ただ、大雪というのが災いした。北国ならいざ知らず、積雪なんて十数年に一度ぐらいしかない地域だった。

 救急車やその他処置が遅れに遅れその日、鬼怒沙綾は十六年という短い生涯に幕を閉じた……はずだった。


 事故後、沙綾さあやが目を覚ました時、彼女は何もない真っ白な空間に佇んでいた。

 暫くぼーっとしていると段々と事故当時の記憶やら、救急車で必死に処置をしてくれている隊員の人達等が、思い出されていく。

 そこまで思い出して、彼女はポンッと手を打ち、


「あ、これ私死んだわ、うん」


 頷きながら納得する。よくよく見れば、この純白の空間もいわゆる映画やドラマなんかでよくあるお約束的な空間である。

 いやー、本当にこういう空間に死後は行くんだなぁと沙綾がしみじみ感じていると、


「案外落ち着いているわね、貴女……ちょっとやり難いんだけど……」


 背後から呆れた様な声が掛かった。

 沙綾は振り向いて、息を飲む。……何故なら、そこには自分自身が立っていたから。


「あぁ、なに? コレには驚くのね、良かった……」


 何処か安心したように呟く声の主に、コクコクと首を縦に振る。


「この姿は、まぁ、なんて言うのかしら? 深い意味はないわ。宗教観がハッキリしている人が見たら、それっぽく見える様だけど、貴女ぐらいの歳だとまぁ、無理よね。逆にその歳でカッチカチの神様なんて想像されて日には逆に引くし、その辺別に普通だから気にしなくていいわよ」

「え? えぇ?」


 沙綾は自分と瓜二つの存在がペラペラと意味不明な事を話し始めて、少し混乱し始める。


「まぁ、なんかテンパっているようだけど、一言で言えば、私は神よ、神。オーケーですか? イエスですか? 了解ですか? 頷きますか?」

 

 そこに追い打ちをかけるように自分は神だと宣う、もう一人の自分。

 もうわけが分からないよ!! と叫びたくなるのを沙綾は必死に堪え、とりあえず言葉のままに理解して、頷き、疑問を口にする。


「えっと、その神様が何の用なんですか?」

 

 ある意味、もっともな質問だった。何せ死後の世界など初体験である。どう動けばいいのか何一つ分からない沙綾だった。


「あぁ、そうそう。用っていえばアレよ、貴女その若さでポックリ逝ったでしょう?」

「は、はい……」

「それで、不憫? 可哀想? 哀れ? に思った一部の神様がなんか二度目の生を与えてくれるらしいんだけど、どうするぅ~??」

「は、はぁ……」


 あまりの事に思わず生返事になってしまう沙綾。

 無理もない、こんな重要なことを今日の晩御飯何にする? 的なノリで聞かれても困る。


「ちょっと、ちゃんと聞いてんの? ねぇ? 聞いてんの? 理解したならちゃちゃっと決めちゃって。デッド? オア ダイ? オア デス?」

「ちょっ!? 結局全部、死んでませんかっそれっ!?」

「あっ……」

 

 何処までもノリが適当且つ軽い神様に、若干げんなりし始める沙綾。


「何よ、急にげっそりと老けこんで……生気が無いわよ! 生気が! あ、貴女もう死んでたわね!!」

「…………」

「何よ、今度は急に黙り込んじゃって」

「いや、もう普通に安らかに眠れればそれでいいかなって……」

「えっ!? ダメ! ダメよ!? それは凄く困るわ!!」


 若干白く煤けた感じの沙綾が力なく呟くと、急に焦り始める自称神様。


「もう、申請通しちゃったし! 行ってもらわないと困るのよ!!」

「結局、私に意志確認した意味なくないですか、それっ!?」

「あ、アレよアレ、形式上必要だった的な? 様式美的な??」

「ふっざけるなよ! この……この……あぁぁぁ、もうっ!! なんで同じ姿なのよ!!」

「まぁ、向こうはいわゆる異世界だけど、きっと楽しい世界だから! じゃぁ、なんかもう可及的速やかに送り出せって、上とか現地の神様が言ってきてるから、頑張ってね!! 貴女の来世に幸多からんことを!!」


 そう神様が笑顔で言うと、沙綾の立っていた足元にポッカリとマンホールの様な穴が開く。


「え、ちょっ! お前、マジで待てよ!? 異世界ってどういう事!? 最後、それっぽい台詞でまとめてるけど、全然何も説明してないからなお前!?」


 穴に落ちていく沙綾を見つめながら、しかし神様は手をひらひらと振るだけに留める。涙は見せない。別れとは何時も辛いものだ。

 でも、まぁ、とりあえず彼女が何に転生して異世界へ旅立ったのか気になった神様は、昨晩の宴会で酔った勢いで悪乗りして通した申請書を読み直す。

 そして、目が点になった……。

 うん、確かに多種多様な神様とノリノリで、色んな加護を付与しまくったので、昨今流行りの異世界チート系が出来ているだろうなという認識はあった。 

 あったのだが……

「え……聖剣って……え? どういう事??」

 勇者か何かだと思っていた転生先は、予想の少しばかり斜め上を行っていた。

 ちょっとばかし、いやかなりやってしまった感があるのだが、そこは神様、

「うん、見なかった事にしましょう!」

 羊皮紙をくしゃくしゃと丸めて、沙綾が落ちた穴に投げ込み証拠隠滅。聖剣に転生した少女なんていなかった! 的な様子でその場を立ち去るのだった。




 それから五年後の神殿。当時のことを羊皮紙に書いてある内容を読みながら、改めて思い出した沙綾は重々しく頷く。

 未だに後頭部でぎゃあぎゃあと騒いでいる妖精さんを右手でグワッシっと捕まえ、自身の目の前に連れてくる。


「な、な、何をするのです!? 暴力はいけないと思うのです!!」

「いやー、別にそんなことはしないけど……改めてこの内容をよく読んでみたけど、やっぱり勇者選ぶとか無理だわ」

「う、な、何故なのです?」

「いや、妖精さんもこの内容知ってるでしょうに……そこの、私の本体(?)である聖剣に付与されてる加護が強力すぎて常人には扱えないって」

「でもでも、万に一つという可能性も!!」

「ないない」

「だから、なんで即答なのです!?」


 聖剣に付与された加護が強力すぎて、常人には扱えない。これは誰が何と言おうと明確な事実だった。全て悪乗りした神様連中が悪い。

 しかし、そんなに悪乗りしているのに、聖剣に宿っている沙綾の姿は服装以外生前と同じという辺り、やはりそこはかとなく悪意を感じる彼女だった。出来ればトップは無理でも、センターを飾れるぐらいに可愛くなりたかった。

 さて置き、加護云々はまぁ、いわゆる建前だ。仮に適正者が現れても沙綾としては、その誰かを勇者として認める気は毛頭なかった。その理由は、


(魔物の血で汚れるとか絶対嫌ですし……)


 つまりそういう事だった。

 沙綾の本体(?)は言うまでもなく聖剣その物である。要は斬った張ったを主とする近接武器の代表格なわけで、それはつまり、血のぬるっとした感触や肉や骨を断つ感覚は、使い手の比ではない位に沙綾へダイレクトに伝わってくることを意味していた。


(想像しただけで身の毛が弥立つんですけどぉ……)


 急にぶるぶるとしだした沙綾を、不思議そうに眺める妖精さん。そんな彼女に沙綾は続ける。


「だからね妖精さん、なんか勇者をさっさと選べって神様のとこから送られてきたみたいだけど、絶対無理だからね? その辺早く戻って説明してきなさいって」


 実はこの妖精さん、この世界の神様が勇者を全く選ぼうとしない聖剣、沙綾に業を煮やし、教育と監視を兼ねて一年ほど前に送り込んできたのだった。

 最初はその小さな見た目と、ザ・妖精という感じの可愛らしい容姿、まず普通ではありえないピンク色の髪のポニーテールに、エメラルドグリーンの瞳等見ているだけで飽きないし、癒される存在だったのだが、最近では沙綾を金棒で殴ってくるような、デンジャーなチンチクリンと化していた。

 そして、このチンチクリンがやらかす。

 

「無理じゃないのです!! その為にこの一年、コツコツとマナの通る地脈を整備して、この辺りにいるちょっと強そうな人のマナ感受性やマナ許容量を地道に上げてきたのです!! 普段はダメダメな人も今ならそこそこ強くなってる筈なのです!! 中には伝説の勇者っぽくエボリューションしちゃった人もいるかもなのです!!」

「何やってんのよアンタ!?」


 思わず大声で突っ込んだ沙綾は、その場で頭を抱えたくなった。とりあえず、付与された加護でこの異世界の不思議常識やファンタジー言語もしっかり理解していた彼女は、目の前の妖精さんがどれだけぶっ飛んだことをやらかしたのか、完璧に把握できてしまっていた……。

 マナはこの世界に溢れている不思議な力の事だ。これを上手く扱えれば、普段より体を効率的に動かしたり出来るし、またその才があれば、魔術や霊術、神術、錬金術など奇跡と言われる類の力を行使することもできる。

 しかし、このマナはそれが通る地脈などを下手に弄れば天変地異等が起きかねないため、とある種族によって変な偏り等が無いように管理及び整備されている代物である。そして仮にそれを乱そうものなら、管理者たる彼らは烈火のごとく怒り狂い、国一つ滅ぼすこともあると伝えられている。


「ふっふっふっ。もっと褒めても良いのですよ? マナに対する各種感覚を上げるには、常時大量のマナにその身を晒すのが最も効率が良いのです!! これで一般人も勇者や上級魔術師なのです!!」

「だ~か~ら~!!」

 

 妖精さんを掴んで上下に揺らす沙綾。その目はかなり焦っており、必死だった。


「ちょっ、まっ。何をそんなに慌てているのです? コレで勇者の心配はしなくていいのですよ??」

「だからっ!! 違うってのよ!! アンタは管理者の事忘れてんのかって!!」

「あ……」

「あ……っじゃねぇよ!? お前やっぱりあの駄神の使いだな!! なんで、後先考えずにやっちゃうのよ!!」

「えっと、ど、どうしましょう……聖剣様……」

 

 ふよふよと力なく床に落ち、泣きそうな顔で沙綾を見上げてくる妖精さん。

 それを無視して、沙綾は親指の爪を噛みながら祭壇の周りをグルグルと回り始める……。


(どうしよう……どうしよう……どうしよう……どうしよう……どうしよう……)


 このまま放置すれば、まず間違いなく管理者は襲来する。そして、聖剣である沙綾は恐らく無傷で残れるだろうが、この神殿がある国は丸ごと消されてしまうだろう。彼らは地脈を含む何もかもが白紙になったこの土地を、ゆっくり調整するはずだ。

 それだけはどうしても避けたい。沙綾としては別に好きで異世界に転生したわけでも、聖剣になったわけではないが、五年というそれなりに長い期間留まっていれば、少なからずこの場所や人に愛着が湧いて来る。


(あぁ、もう……仕方ない……)


 何かを決意した様な眼差しで沙綾は、聖剣に近づき、その柄を握った。

 そして、聖剣を通して慎重に地脈を探って行く……。


(……あった。ラッキー♪ この祭壇、地脈の終着点にあるじゃないの)


「せ、聖剣様……?」


 それを憔悴した顔で見つめる妖精さん。そして次の瞬間、沙綾が握った聖剣の刀身から膨大なマナが溢れだす。


「せ、聖剣様!? 一体何を!?」

「黙ってなさい、ダメ妖精……これ制御が面倒なんだから……」


 少し顔を顰め、額に薄らと汗を浮かべながら聖剣の柄を握り続ける沙綾。

 その間も聖剣からはマナが滾々と湧きだし、地脈へと流れていく。

 そこでようやく妖精さんもハッと気が付いた。


(まさか、私が弄った地脈を修正してるのです!? )


 驚愕の表情を浮かべたまま見つめる妖精さんだが、沙綾にはそんな事を気にする余裕はない。

 この土地に無理やり集められた膨大なマナを、押し返し、正常な流れに戻し、更に余分に繋がった地脈を分断していく、そんな幾つもの作業を並行して一気に行っているのだ。しかも、そのどれもが針の穴に糸を通すような繊細さを必要としている上に、少しでもミスをすればその瞬間、天変地異と管理者がセットで来るかもしれないという地雷付きだ。

 そんな極限状態に近い作業をこなすこと一時間……。

 ようやく全てを終えた沙綾はその場に力なくへたりこむ。

 その様子に、作業を食い入るように見つめていた妖精さんは目を見開く。


(本当に修正したのです。私が一年がかりでやった作業をこんな短時間で……。これが聖剣……神々が創造し、世界の魔を払うために人へ授けた最強の神器……)


 妖精さんは思わず息を呑む。普段の生活態度がアレだから、若干疑っていたのだが、アレはまさしく聖剣に宿った神霊なのだと。でなければ地脈の制御をこうも完璧にこなせるわけがないと。

 そもそも妖精さんは、管理者の事は忘れていたものの、ミスをすればマナが暴走して天変地異が起きるという認識は持っていた。それ故に一年という期間を使い、慎重に慎重を期してコツコツコソコソとこの地にマナを集中させていたのだ。

 それなのに聖剣は、沙綾はそれを一瞬と言っていいほどの短時間で正してみせた。これを驚愕せずにいられようか……。

 

「さて妖精さん……?」

「ひゃ、ひゃい!?」


 呆然としていた状態から突然声を掛けられ、変に声が裏返ってしまう妖精さん。

 声の方を向けば、何時の間にか聖剣本体から離れた沙綾が、自身の右横で腰を屈め様子を窺っていた。

 今までに見たことない様な、とても良い笑顔をしているのだが、目が全く笑っていない……。


(あ、これ、私ポックリポンです……?)


 瞬間的に死を覚悟して、目を瞑る妖精さんだが、


「あっ痛ッ!!」


 やってきたのは涙が出るほど痛い額への衝撃だった。

 目を潤ませながら沙綾を見れば、右手でデコピンをした状態で微笑んでいた。

 あ、これは許されたのかな? と思い妖精さんも痛みを堪えて微笑み返すが、


「次やったら、頭消すわよ……」


 ジト目で心底低く冷たい声を浴びせられ、その身を震え上がらせた。

 そして、反射的に土下座である。


「もう、もう致しませんなのですよ~~!!」

「うん、他には何かないのかな、妖精さん?」


 妖精さんの後頭部へ足を置いて、地面へグリグリ。


「本当に、本当に、申し訳なかったのです……もう、金輪際余計なことはしないのです!!」

「それで、それでぇ~??」

「はい、もう聖剣様のお力は良く分かったのです!! 今後一切、聖剣様に刃向ったりしないのです!! 聖剣様の意向に従うのです! だからもう、止めてくださいです~!! 額が! 額がぁ!?」

「ふんっ。分かればいいのよ、分かれば」

「うぅぅ……ぐすっ。穢された……なんかもう誇りとか色々粉々なのです……」

「誇りなんて、そんな埃っぽいモノはさっさと捨てなさいね、特に今後もここにいるなら」


 その場に泣き崩れる妖精さんを放置し、沙綾は大きく伸びをすると、


「さぁ~って、今日もこれから来る、勇者候補を丁重にお断りしますか♪」


 とびきりの笑顔で聖剣の横に陣取るのだった。

 それを妖精さんが絶望した表情で見上げていたのは言うまでもない。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る