世界は英雄戦士を求めている!?
ケンコーホーシ
第1章 プロローグ
第1話:ヒーロー達の入学
帰宅すると、家がなくなっていた。
今から三年前、俺が小学六年生の時の話だ。
瓦礫の山と化した我が家の前で、俺は怪獣が暴れているのが見ていた。
人家を超えた巨体、山脈を切り崩して作られたような外皮、岩石を繋ぎ構成された眼球。
テレビ画面の世界から飛び出してきたような容貌からは、現実感が消え失せてみえた。しかし、怪獣の発生させる激しい地響き、荒々しい砂塵、鋭い咆哮は、この状況が夢ではないことをはっきりと物語っていた。
俺は呆然と眺めていた。
絶望すらしてなかったと思う。
ただ、目の前で起きている惨劇に打ちのめされていた。
家が壊れ、街が壊れ、俺の世界が壊れる。
自分の人生がここで終わるかもしれない。
そのあまりにも過酷な現実を、幼い俺は許容することができなかった。
やがて、怪獣は俺の存在に気づいた。
どうしてわかったんだ。どうやって俺みたいな小さな存在を発見したんだ。的外れの疑問を抱きながら、呆然と俺は怪獣を見つめていた。静かに、そして確実に俺の心は衰弱をはじめた。無力感が全身を覆い、あらゆる感情が絶望に向かおうとしていた。
そんな危機的状況において、俺は――遭遇した。
砂煙の中を、真っ直ぐに、怪獣にめがけて、飛び込んでいく一つの輝きがあった。
それは暗黒の闇を切り裂く一陣の光であった。
俺はその時の戦いを忘れることはないだろう。今の俺の生きる道を決めた瞬間であった。
この俺、
ヒーローとは、
1984年に起きた謎の隕石落下事故は、この世をヒーローと怪獣の楽園に変えた。
時空震と呼ばれる空間の歪みが発生し、その中から怪獣たちが出現するようになったのだ。時を同じく人類も、まるで怪獣に対抗するかのように『特殊な力』を有した子どもたちを誕生するようになった。
世界は変わりはじめた。
創作上のキャラクターであったはずのヒーローや怪獣は、現実の事象として観測されるようになった。
西暦2018年現在、ヒーロー達は“当たり前”の存在として、人々に受け入れられている。
というか、そもそも俺自身――この新島宗太自身、そういう世界で、十五年という人生を過ごしてきた。怪獣のいない世界、ヒーローいない世界なんて、歴史の教科書でしか知らない。生まれるはるか昔の話だ。いるのが普通。当たり前であった。
英雄が、勇者が、戦士が、救世主が、ヒーローが、この世界には
それが俺たちの世界。
俺たちの世界の、正常な姿であった。
とはいっても、普通に生きていれば、怪獣やヒーローに出会う機会は滅多にない。大抵は一般人の目に触れられる前に、政府が怪獣の出現を察知して、ヒーローが撃退を終えてしまう。そのため、現代においても、ヒーローが夢のような存在であることには変わりなかった。
(そうだ。俺も四年前まではそうだった……)
しかし、今日からは違う。夢のような存在は、夢ではなくなる。俺の憧れは、より身近でリアルなものへと昇華する。
――大平和ヒーロー学園高等部。
目の前にたたずむ巨大な正門に刻まれた校名と、手に持つ入学証明書を見比べながら、俺は一人、感動で身体を震わせていた。
「ついに、ついに、この時がきたのだ……」
と、誰に語りかけるでもなくつぶやいた。周りを見渡せば、俺と同じように入学証を片手に、学生服を着込み、初々しい顔をしている生徒たちが大勢いる。
春、四月上旬。高校の入学式である。
ただし、その学校名からもわかるようにここは普通の学校ではない。
ヒーロー専門の教育機関。
将来、怪獣と戦い、世界を守るヒーローとなる人材を輩出することを目的とした、日本唯一の学校、
それがこの“大平和ヒーロー学園”であった。
現在、世界には多くのヒーローが存在している。
例えばそれは、クモをモチーフとした、ビルとビルの間を駆け巡るアメリカのヒーローだ。
例えばそれは、拳法やカンフーを自在に使いこなして敵を討つチャイナのヒーローだ。
例えばそれは、身体を巨大化させて数分間だけ戦う日本のヒーローだ。
他にも、魔法の力でドレスアップして戦う女性のヒーローや、頭部を食用アンパンに改造した摩訶不思議なヒーローなど、多種多様なヒーローがいる。
中には、評判を得て、映画化や漫画化を果たしたヒーローも存在する。
さらに凄い者はゲーム化したり、グッズ展開まで起こしていたりする。
大平和ヒーロー学園は、こうしたヒーローを夢見る若者を応援し、
同時に後進の育成を目的として国家規模で設立された、巨大な教育施設であった。
四年前、俺はヒーローに命を助けられた経験があった。
家を破壊されて怪獣に踏み潰されかけたところを、命からがら救出されたのだ。その時ヒーローは俺を安全なところまで避難させると、怪獣へ恐れることなく突っ込んでいった。そして、俺が見ている目の前で、怪獣を撃退したのであった。
俺も彼らのようなヒーローになりたい。
この一件以来、俺はヒーローになることを目指すようになった。そして中学三年の春、ヒーローを専門に教育しているこの大平和ヒーロー学園の存在を知ったのだ。
それからの俺は『受験の鬼』と化した。
ヒーロー学園への入学を目標にかかげ、毎日毎日遅くまで勉強に取り組んだ。体力テストがあると聞いたため、筋力トレーニングも毎日毎日かかさずおこなった。面接もあると噂されたので、人前で緊張しないように話す練習もした。
その結果、学力試験をくぐり抜け、体力テストに打ち勝ち、面接を饒舌に突破し、そして、そして、そして――この学園に入学することを決めたのであった。
「ついに、ついに……やった、やったぞ――――!!」
先ほどとは違い、今度は両腕を上げて、力のかぎり叫んでしまった。
正門前ということもあって、周りの生徒達がびっくりしたような視線を向けてきたが、あまり気にはならなかった。
だって嬉しいのだから仕方ないだろう。
俺がこの学園に合格するために頑張ってきた努力と苦労の日々を書き連ねていけば、それだけで大ヒット。重版に重判を重ねてベストセラーを巻き起こし、映画化・アニメ化・ハリウッド化間違いなしの、一大長編小説が出来上がってしまうはずだ。
「お~い」
それくらい、俺は頑張った。そして努力は報われた。素晴らしい、よくやった、ナイスだ俺。
「お~い、置いてかないでよ~」
と、俺が一人で盛り上がっていると――後ろから声が聞こえてきた。
振り向くと、女の子が息を切らしながら、こちらへ走ってくるのが見える。
「は、はぁ……そーちゃん、急に走らない、でよ。びっくりしたっ――」
女の子は俺の前で立ち止まる。身体を前のめりに倒しながら、ゼーハーと呼吸を整えている。
「ああ、悪かった、美月。ついに学校が目の前にあると思ったら、いてもたってもいられなくなってな」
――彼女の名前は
野暮ったい長く癖のある髪に、優しそうに『見せかけた』表情、中くらいの顔つき(本人談)と、そこそこな身体つき(本人談)をしている。俺はそれなりに可愛いと思ってるが、彼女的には「それは美人に失礼」とのことらしい。
基本的には、温和そうな雰囲気を醸しだしている。家ではお菓子作りだとか家庭菜園とかをしながらまったりとした暮らしを送っていそうな内職系女子だ。
実家が同じ町内にあるため、付き合いは非常に長い。世間一般で言うところの『幼馴染』ということになるのだろう。
「げ、元気だねっ……。私は緊張してよく眠れなかったって言うのに」
と、伏し目がちな視線をこちらに向けてくる。
まあ、世間一般で言うところの『ジト目』ってやつだ。
美月も大平和ヒーロー学園への入学を決めた一人であった。
しかも俺に内緒に、である。初めてその話を聞かされた時は驚いた。入学証明書をグイグイ頬に当てるように見せられるまで、信じることができなかった。
俺が必死に勉強している間、お菓子でも食べながら遊び呆けていた女なのだ。成績はそこそこよかったはずなので、てっきり地元の進学校にでも進んでくれるのかと思っていたのだが、卒業も近くなったある日、
「私も、ヒーロー学園に行くから」
と、ニッコリと完璧パーフェクトな『作り笑顔』をしてそう言ってきた。
家族と仲の良い友人にしか見せることのない、邪悪な微笑みであった。長年の経験から、この表情を見せたときは何を言っても無駄だと、俺は悟っていた。
「よし、じゃあ。さっそく中に入っちゃおうよ。クラス発表あるんでしょ」
と、美月はノリノリの様子で、俺の腕を掴んできた。
女子特有の柔らかい感触が腕に当たり、ちょっとだけ気恥ずかしい気持ちになる。
つーかお前も十分にテンション高いじゃないか。
「ん、ああ……わかったけど、もう少しだけ正門で感慨に浸ってたいな、俺の苦労と汗と涙の日々を――」
「よし、行こう! 行こう~!」
聞いちゃいなかった。ガン無視だった。
言っておくが本来、美月瑞樹という人間は基本的にはおとなし系の女子だ。
初対面のやつが相手だと、緊張して萎縮してダンゴムシのように丸く黙りこんでしまう。ただし、仲の良いやつが相手だと話は別だ。途端に手のひらを返したようにワガママになり、我を通そうとしてくるのである。
「…………内弁慶め」
と、俺はぼそっと呟いた。美月の赤みがかった両目がキラーンと光る。
「――とおっ!」「だっ!」
と、美月に頭を叩かれた。真上からの綺麗な水平チョップであった。
「なにすんだよ」
俺は頭を押さえながら抗議すると、《そーちゃんはダメだね》と言わんばかりの視線を返してきた。何様のつもりだ。
「そーちゃん、それはNGワードです」
「何が?」
「私は、この学園では友達をいっぱい作って、楽しい青春ライフを送るつもりなのです。だから、私の印象を悪くする単語はNGなのです」
彼女は指を一本立てて注意を促してきた。何を偉そうにと思ったが、優しい俺は何も言わないで肯定しておくことにした。
「そうか、NGなのか」
「そうなのです。…………もう中学校の時みたいに、体育の授業で二人組を作れない生活は送りたくないのです」
「さすがに体育まではフォローできないなぁ」
美月のぼっち生活は中学になってから加速度的に浸透していったからなぁ。
「美月瑞樹は静かに暮らしたい――お茶とかお菓子とか食べたりしながら日がな気が向いたように学業に励むのです」
「……ヒーロー学園なんだけど、ここ」
未だにこいつが試験を突破できた理由がわからない。体力テストだってあるのだ。こいつの体育の成績がよかった覚えはない。少なくともスポーツ大会の時は“秘密兵器”と称した役職に収まっていた。要するに補欠で皆の応援をするポジションだ。
俺たちは門をくぐり抜け中に入った。
校内は広大であり、桜並木の大通りが俺たちを出迎えてくれた。
季節柄、ちょうど桜は満開であり、美しく咲き誇っていた。
「ベタな言い回しになるど、やっぱ綺麗だよな……まるで、俺たちの学園生活の成功を祈ってくれてるかのような――」
「――あっ! 前の校舎のところにクラス分けの紙があるみたいだよ! 行こう、行こう~っ!」
そういって美月は無理やり俺をグイグイと引っ張っていく。
桜を愛でる暇もなく、俺たちは大通りを進行する。
……風流を介さないやつめ。そんな「イケるイケる!」ってどっかの幼馴染のパクリか。
大通りを抜けて校舎前に到着。ザワザワと人混みができあがっていた。
中学の入学式を思い出す光景だ。若干の懐かしさすら覚える。俺は自分の番号を頼りに、どのクラスであるのかを確認する。
――大平和ヒーロー学園は、全部で三つのクラスにわかれている。
前述の通り、世界にはたくさんのヒーローが存在している。
もはやそれが日常となった現代では、それぞれの専門性を高めるために、一年生のうちからクラスを『三種類』に大別しているのだ。
一つ目は、個人で戦うヒーロータイプのクラス。例を出すと、先ほど出てきた蜘蛛で戦うヒーローや巨大化するヒーローはこうした部類に入る。個人技を鍛えていくのに適しているだろう。クラス番号はAクラスと呼ばれていた。
二つ目は、チームで戦うヒーロータイプのクラス。基本的に、三人組や五人組などのチームを組んで怪獣の討伐にあたるヒーローが該当する。周りと協力して戦う能力を高めていくことができる。クラス番号はBクラスである。
三つ目は、ヒーローのサポートを行う司令官タイプのクラス。主にヒーローが出撃する際の作戦を考えたり、特殊な武器の開発に携わるなどヒーローが活躍できる土台作りをする役目を担っている。なお、クラス番号はCクラスである。
噂によると、こうした三つのクラスの“特に”優秀な生徒を結集させた《特別選抜クラス》も存在しているらしい。クラス番号はそのまんまスペシャルでSクラスとのことだ。
ちなみに俺は入学時の面接で「どのクラスでも構わないっ!」と堂々と宣言した。
こういう時は「なんでもできます。なんでもやれます」とアピールしておいた方がお得だと思ったのだ。クラスには人数の上限が決まっているという話も聞いていた。チームで戦うタイプのヒーローになりたいと言って、定員オーバーで落とされてしまっては元も子もないだろう。
「う~ん、見つからないなあ」
美月は背伸びをしながら自分の番号を探していた。人混みが多くてかき分けることができないのだ。
「ちなみに美月はどのタイプのヒーローになりたいんだ。やっぱ司令官タイプか」
俺はコタツに入りながら、艦隊を動かす美月を想像した。
《前方に向けて全弾発射っ! ど~んと私に任せなさい、ど~んと》
うーむ、大した無責任艦長になりそうだ。
「ううん、一応、個人で戦うヒーロー志望だよ」
「おっ」
意外だった。女性のヒーローは少なくないが、その多くが徒党を組んだチームタイプであった。一人で戦う女性ヒーローというのは珍しい気がした。
「私も例の怪獣事故には影響を受けた人間だからね。良くも悪くも……」
そう言った美月の瞳は少しだけ悲しそうな色をしていた。四年前の事故の時、美月は家族と一緒に先に避難所に逃れていた。事故の後、放心状態であった俺を看病してくれのは美月であった。
「……そうか、あのヒーロー格好良かったもんな。お前も憧れちゃうか」
美月の頬が少しだけ赤く染まるのが見えた。やっぱりコイツもちゃんと影響受けてたんだな。
俺はちょっとだけ嬉しい気持ちになった。あの事件を通して、同じ気持になっていた人間が隣にいるというのは心強かった。
「ん~やっぱ見つからない」
美月は困ったような声をあげる。どうやらAクラス(個人ヒーローのクラス)に名前が載っていないようであった。
「他のクラスも探してみればいいんじゃないのか」
「いいけど、希望と違うクラスになるとかちょっとヘコまない? 幸先が悪いというか、出鼻をくじかれたというか……」
「まあ、そりゃあ仕方ないよ。自分の適性ってものもあるんだろうし」
そう言いつつ俺も、自分の名前を見つけられずにいた。
「そーちゃんは? 名前は見つかった?」
「見つからない。もしかしたら俺が優秀すぎるせいで、例の特別選抜クラスに選ばれてしまったとか――」
「ああ、そういえば、そういうクラスもあるのね」
美月は俺の台詞を無視して、勝手に納得してきた。
スルーすんなや。
「ん~こうも見つからないと不安だなあ」
「大丈夫だって。仮に俺が特選クラスに行ったとしても、俺たちはずっと友達さ!」
「ずっと友達かぁ……」
嫌なのかよ。
俺は他に掲示場所はないのかと探してみると、隣の校舎に別の掲示が貼られているのを発見した。俺は期待も込めて、そっちの方へ接近してみる。
「――おっ! こ、これは!」
いつまでも背を伸ばしている美月の服を引っ張り、その掲示を指さす。
「なになに、そーちゃん?」
「ほら、美月、あれを見てみろよ」
そこには【特別選抜クラス(Sクラス)生徒一覧】と大きく記載されていた。
「本当にあったな特選クラス」
「だねー」
あくまで噂だけかと思った。しかし、こうして貼られているということは、実在するのだろう。よく見ると他のクラス人数が40人以上いるのに対して、特選クラスの人数は20人以下である。やはり選び抜かれた精鋭が集うクラスなのだろうか。
俺は、特選クラスの中から自分の名前を探しはじめる。
「えーっと、新島宗太、新島宗太……」
……ふふん、そういうことだったのか。
やはり、俺はSクラスに選ばれるような人間だったのか。
俺の受験における頑張りは、ヒーローの神様も小躍りしてクラッカーを鳴らすレベルだったからな。他の有象無象のクラスなんかじゃなくて、特選クラスに抜擢されていて当然だったか。
「えーっと、新島宗太……新島宗太……新島……新じま……にいじま……にぃ」
しかし、生徒一覧を見つめる目が下へ進むうちに、俺の声はだんだんと小さくなっていった。
ラジオの音量を下げるような調子で俺の声は静かに静かに減少していく。
そして最後には沈黙してしまった。
「…………ない」
ない。
ない。
なかった。特選クラスには俺の名前はなかった。
ま、まあこういうこともあるよな。人生そんなに甘くはないさ。ヒーローの神様だって万人に愛を降り注げるわけじゃないさ。俺は自分のペースで頑張ってヒーローを目指していけばいいんだ。
肩を落としながら、一般クラスの掲示へと戻ろうと背を向ける。
しかしその時、隣から大きな声が聞こえた。
「あったぁ――――――!」
俺はその声に振り向いた。
美月がひと目も気にせず飛び跳ねて喜んでいた。レ、レアな光景だ……。美月の台詞とその様子から何があったのか、俺はすぐに理解できた。
バ、バカなっ!? 俺は特選クラスの掲示板へと目を向ける。
――――美月瑞樹(Sクラス所属 16番)
「か、書いてあるだと……!」
俺は衝撃でうち震えていた。正門を前にした時とは異なった要因であった。
美月は人前で感情を露わにしてしまったのが恥ずかしいのか、少しだけ紅潮した顔をしつつ、俺の前にやってきた。
「…………ふっ」
こ、こいつ……鼻で笑いやがった。
美月は俺を軽く一瞥した後、慈愛にあふれる『作り笑顔』を浮かべる。
「……大丈夫だよ、そーちゃん。特選クラスに行ったって、私たちずっと友達だから」
殴ってやろうかこのアマと素で思ってしまった。
というか、俺のクラスは一体どこなんだ。不安な気持ちを抱いていると、美月がちょいちょいと俺の服を引っ張ってきた。まるでさっきと立場が逆である。
「そーちゃん、そーちゃん、あれを見てよ、あれ」
「あれ?」
俺はそう言って美月の示した掲示を確認した。他のクラスとは異なり、Sクラスの隣に小さい紙で貼られていた。
そこにある名前を順々に追っていくと一つのところで目が留まる。
――――新島宗太(Dクラス所属 15番)
「や、やったぁー!!」
俺は両手を上げて喜びを示す。美月が隣でパチパチと拍手をしてくれる。嬉しくて思わず二人でハイタッチを決める。どうして合格発表でも何でもないクラス分けでこんなに大喜びしなくてはいけないのだろうとちょっと思ったりもしたが、これでやっとヒーローへの一歩が踏み出せたのである。
いやあ、よかった、よかった。
よーし、頑張るぞ。
「そーちゃん、Dクラス入学おめでとう」
「おうよっ!」
そうだ。
俺はこれからこのDクラスでヒーローへの道のりを進んでいくのだ。
辛いことも楽しいこともたくさんあるだろう。しかし、俺は乗り越えてみせる。このDクラスでヒーローとしての自分を鍛えていくことで――ん?
――うん? Dクラス?
「……Dクラスってなんだ」
俺の疑問はさておき、俺と美月は大平和ヒーロー学園へと入学を果たした。
愛と正義のヒーロー学園ライフの始まりであった。
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