3×4‼ ―― 3 slots × 4 for wars ――
音寝 あきら(おとねり あきら)
【1】星見の山
【プロローグ 港の公園にて】
港の公園にて、遠塚 文緒は、この宇宙(ストーリー)を、聞いた
水は、人を引き込む魔力がある。海を見ていると、時々そう思います。空をゆらゆらと映す水面に人は魅入られ、吸い寄せられそう……
今、わたしは公園の片隅、海に張り出したテラスにいます。今日は高校の卒業式、お友達と待ち合わせをしているのです。海と言っても『
思い起こせば、平穏無事に済んだ高校三年間でした。平穏と言っても何もなかったわけではなく、ささやかながらも日常にはいろんな出来事が起こって、とても楽しく過ごしてきました。
だけど、時々思う。
―― 本当に、そうだったのでしょうか ――
わたしは何か忘れている……?
仲良しのお友達が、誰も傷付かず、転校せず、留年せず、退学せず、入院せず、殺されず、殺さず、そして愛し合っているのに、親友なのに、憎み合ったりしなかった?
違う、気がする。
わたしとお友達にはそのような、いろんなことがあったから、親友を
「あまり水を覗き込むと、引き込まれてしまうぞ。
水は、そういう衝動に逆らえない存在なのだ」
突然声を掛けられて、そんな、お
振り向くと、そこにいるのは凛とした雰囲気の長身の黒づくめの女性。顔は分かりません。だって闇に覆われているから。凛とした雰囲気だなんて、わたしはどうしてそう思ったのでしょう? 体型? 姿勢? 違う気がする。多分、容貌と表情。顔が見えないからそんなはずはないのに、どうしてもそうだとしか思えませんでした。この人は一体……?
長く慣れ親しんだ人のように感じました。でもきっと初対面なのでしょう。
「
「わたしには……忘れてしまった記憶があるのかな?」
どうしてこの人にそんなことを打ち明けたのか、自分でも分かりません。でも、そうすることが自然であるように思えたのです。
「『忘れた』か。言い得て妙だな」
何故かその人、『スクールマシュ』さんはおかしそうに笑いました。
……あれっ? わたし、どうしてこの人の名前を知っているの?
「しかし、それは間違いだ。この宇宙には、そのような過去はない」
「『この宇宙』? それって別の宇宙があるってこと?
「
「そうなの? もう一人の自分と同じ記憶とか、あってもよさそうなのに」
「ないな。別の宇宙の
『人形は人の形、つまり呪う相手の形をしている。そして相手の髪の毛、かつて相手の一部で、今はそこから別れたもの。ならばその藁人形に五寸釘を打てば、同じ形をした相手は、その髪の毛が分かたれる元だった相手は、同じ影響を受けるに違いない』
そういう発想が『呪術的思考』だ。だが実際にはマンションの七〇五室の住人が引っ越ししても、別のマンションの七〇五室の住人も引っ越しするわけではない。一つのりんごを二つに割り、一方を焼きりんごにしても、もう一方も焦げるわけではない。過去の時代や別の宇宙でもう一人の自分に会ったとて、それを起因とする消滅など起こらない。
とにかく、同一人物だからと言ってそれを原因として別の宇宙の君の記憶を、ここにいる君が持つことはない。あるとすれば、その原因は他にある。
そして君は『忘れた?』と聞いた。『忘れる』とは記憶を『失った』のではなく『見失った』のだ。失ったものは戻らないが、見失ったなら見付ける=思い出すことも可能だ。もっとも『忘れた』というのはあくまで
大変です! わたしのいる、この世界、スクールマシュさんが創ったそうです。
後、全然具体的じゃないです。漠然としすぎて分かりません。
「とは言え、わずかに違いがある。この違いこそが重要なのだが。そしてこの世界の君の周り、
わたしと優弧ちゃんと桜ちゃん?
「君の周りの九五人は
さあ、どうする? 君が望むなら検索鍵を修復し、
「わたしは……」
「今、結論を出すことはない。私がここを去った後、君は私と経験した一切の出来事を忘れることになる。次に私と逢った時、そのすべてを思い出すことになろう。その時、結論を出せばいい。とりあえず、少し見てみないか? では、検索鍵を一時的に修復しよう」
途端に周囲が暗くなりました。無数の星々が輝いています。これ、夜空じゃない。宇宙だ!
小惑星のような天体の上に、わたしの友達がたくさん乗っています。立っている人や座り込んでいる人、みんなボロボロで疲れ果てています。
「もう、無理……」
小惑星の上、へたり込んだように座った
「さすがにこれは……私も打つ手が思い付かないな」
いつもしっかりしている
「やっと、ここまで来たのに!」
「ぷっ」
誰かが突然、吹き出しました。ここの雰囲気に、あまりにも場違い。
「あっはっは!」
笑っているの、茅汎くんだ! 一体どうしたの?
「どうした茅汎、大丈夫か?」
怪訝な表情で
「なんだよ、そういうことか!」
茅汎くんだけが、みんなと違って明るい表情です。
「何だ茅汎、もしかして奴を倒す方法が見付かったのか?」
「日本には素晴らしい言葉がある!」
実啓琉くんの顔が、希望から懐疑に変わりました。
「『諦めたら負けだ!』 逆に言えば『諦めない限り負けじゃない!』」
途端に実啓琉くんも、他のみんなもガッカリ。
「ここに至って精神論か? お前はアホか!」
実啓琉くんの言い分もごもっとも。
「ふっ」
茅汎くん、怒られたのにドヤ顔? 何だか楽しそう。茅汎くんが
「茅汎、状況が分かっているのか?」
雪玲さんが厳しい表情で
「ああ、ごめんごめん。言い方が紛らわしかった。俺が気付いたのはもちろん精神論じゃない、
そう言って茅汎くんは虚空に浮かぶ『敵』、すべての始まり、そして元凶に向き合いました。
「『3×4』か。三つの
茅汎くんの言葉を受けて『敵』が答えます。
〈良かろう。問うのは
「違うな。答えるかどうか、決めるのはお前じゃない。俺だ。答えるべき問い、答えるべきじゃない問い、どちらかは俺が決める」
ああ、そうだ。
これは絶望と、
そして希望の
みんなの中心になった茅汎くんがあの
そして、この
すべては茅汎くんがパートナーの少女と出逢った公園から。
そう、今わたしがいる、この
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