第29話 浄化の騎士と悪のケブラー界
十個ある大界の内の一つだ。その中にある大宇宙の一角。黒赤く輝く巨大恒星が幾つも点在し、黄金の水泡が
黄金の水泡群の中を、これも巨大で、深い藍色の球体が飛行していた。
その直径は約一四〇〇〇万キロ。
全面に、黄の
この黄の模様は超次元的な攻撃と守護を司る空間術式が刻まれたものだ。高位の知覚を所有するもならば、あらゆる属性耐性と獅子、牛、鷲の相貌が複雑に入り組んだ攻勢防御の空間印が確認できるであろう。
巨大球体の周囲には絶えず、数百の白銀色に燃える炎が車輪のように展開され移動していた。
これこそが
創造主様から放出される、至純奔流。
全世界を形なす根本的な存在意志エネルギーで、全世界を包むような意識であり、基礎のマイトエネルギーだ。全ての命は創造主様と繋がっている。
その基本となるマイトエネルギーに、様々な
だが、空間で捻れたり歪められたりすると、正常に流れず濁ってしまう。
至純奔流が陰性奔流に転化し、絶望などの負の感情を生み、運命や因果律を悪い方向に変えてしまう。その捩じれにより、負の
混沌体は恐怖や憎悪に染まった暗い色調のマイトを求め、世界に仇なす。
特に、このケブラー界。別称ディーン界。悪の発現と流出がある世界と呼ばれ、空間が多重にねじれ、巨大な大穴がある大界なのである。
その大界を監視し、混沌体などを浄化する役目を負うもの達が乗艦するのが“
そして、この戦艦内部には、『法の間』という座がある。
『法の間』は藍色の亜空間で、純白の床が彼方まで永遠、
なよなよと揺れる細胞球――浄化念球の中には、青や赤の宝珠が幾つも漂って、胎児のように身を丸めた全裸の女性がいる。聖母の豊かさをもった女性で、輝く白い全身から発散される後光は凄まじく、高位の精神体であることが一目でわかる。
至高精神体アフラであった。
「こちらに向かっているだと!」
言葉を発したのはアフラではない。アフラの下にいる小人。
と云っても背丈はシュラン達とほぼ同じ。紫の長髪をした勇ましき美貌の女騎士アールマティだ。赤紫色の甲冑を着用し、覗く胸元には五つの宝珠。両手には一つの宝珠が埋まっていた。
アールマティの凜とした強さと、その生真面目そうな相貌が不快に歪む。
「アンリは兄上や姉上が追っている。何故、こちらに来るのだ?」
アールマティの疑念に、傅いていた部下の女騎士も言葉を濁すだけだ。
《あら、ほんと!》
アフラが、誰もが拍子抜けするような、軽い波動をぽんとほうじた。
女騎士アールマティはその遠山の眉を曲げ、怪訝に見上げる。
《昔からユミルは、ほんと、せっかちさんなんだから、ノックもしないのね。女の子のお部屋に、自分のお部屋ごと飛び込んでくるのですもの!》
「母上、何を……」
アールマティは言い掛けて、はっとして振り返ったとき――
大絶音!
外壁を突き破り、薄赤い鋭角の物体が『法の間』に突入してきた。
空間壁が散乱し、アールマティ達の目前を、
同時に、
アンリとフォルネウスだ。
半壊した外壁より、シュランが現れた。真紅に発熱する右手を握りしめ、激情の波動を迸らせる。瘴気を放ち、その激高する姿は悪鬼とも見えた。
《俺がいるかぎり、ルオには永遠に指一本、触らせない! 仲間達も! 現れる度に、その顎を砕き、思い知らせてやるぞ!》
胸元のルオンが、瞳を潤ませると喜びのあまりシュランに抱きついた。胸に顔を埋める。
《ありゃ。ルオンちゃんにとっちゃ、殺し文句だね》
ミャウが軽く呟いて、ふいに訪れた寂しさと哀しさに顔をうつむかせた。
巨獣アンリの顎がどろりと崩壊し、そこから黒の血潮を噴出する。
「アンリ? 混沌体ぞ。出会え、浄化せよ!」
突然の出来事だったが、アールマティは反射的に叫んだ。
ざっと、アールマティの後ろに、数百の輝く女騎士達と白い
聖なる光の槍が緑の集中豪雨となって降り注ぎ、アンリ達は串刺しになった。そこへ、陽炎の
光子槍に縫い止められ、肉の一部一部を喰い千切るように浄化される激痛にたまり兼ねて、フォルネウスが身を捩じり分裂して、逃げだした。
小さな赤エイとなって逃走するフォルネウス。
《ぎゃああああああああああ~~~~!》
だが、アフラの浄化念球から透明な流線が伸びて触れると、フォルネウスは一気に真っ白になって浄化され、崩れさった。
《シュランよ! 今の相手は我らではないだろう!》
アンリは
アールマティが釣られて空を見上げ、戦慄に叫ぶ。
「
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