非処女と漏電の十六日目
学は事務所に行く前にインターネットの上の掲示板をチェックする。昨日三戸里市で起きた大学生の男が同じ大学の大学生と、営業職のサラリーマンを故意にはねた事件についての書き込みを読むためだ。あらかじめ予想していたが、昨日から予想通りの残酷な書き込みが続き、学はひたすらげんなりしていた。
【大正義】大学生が援助交際を行っていた中年親父と女子大生を処刑【速報】五
七月×日、午前十一時二十分ごろ、三戸里警察署近くの県道で大学生の
名無し
貴重なヴァジャイナが!
名無し
安心しろ。 すでに中古だ
名無し
それなら良かった
名無し
お前ら最低だな
名無し
この深山っていう奴、お前らの仲間なんじゃ
名無し
あり得る。こいつの部屋に萌えアニメのポスターが貼ってあったら完璧だな
名無し
写真見ると割りとイケメンだし、真面目で努力家だとか、近所の人に自分から挨拶するとかで周囲の評判良かったのに、どうしてこんなことするかね
名無し
好きな女をおっさんに寝とられたら発狂するだろ
名無し
でも別に被害者はこいつの女って訳じゃなかったらしいぞ
名無し
片思いの女が援交とかしてたら嫌だろ
名無し
嫌だけど、だからって殺すか
名無し
潔癖症をこじらせたんだろ
名無し
これは無罪にするべき。援交女に人権などなし
名無し
この女はともかくおっさんは結婚しているらしいからなあ。父親が援交してたあげくそのせいで殺されたとか、家族からしてみればたまったものじゃないぞ
名無し
ホントそう思う。女はどうでもいいけどおっさんの家族が可哀想
名無し
そもそも本当に援交だったのか。実は純愛かもしれないわけで
名無し
例え純愛だったとしても、おっさんに家族がいる限り不倫なわけで
名無し
確かに。それはともかく、被害者の女とおっさん、そして犯人も三戸里市の人間か。冗談じゃなく本当に修羅の国化して来たな
名無し
夏に人工造雪機で雪を作って道路にぶちまける愉快犯が出た日の昼にこれだからな。ニューヨークよりも危険な都市。それが三戸里市だ
名無し
もうあれだ。同じ県の
名無し
なぜ三戸里市で最近事件が起きるのかお前らに教えてやろう。それは某アニメの主人公みたいに周りで犯罪が次々と起きる体質の奴が三戸里市に引っ越して来たからだ
***
「こんな風にインターネット上では言いたい放題で、俺が関係者だったら本当にいたたまれないですよ」
夕方朝霞台探偵事務所に行った学は時哉にインターネットに流れている事件についての話を時哉にした。
「全く同じ意見だよ。被害者の御家族のことを思うと、本当にいたたまれないよ」
「この事件は三戸里市で起きている一連の事件とは関係ないんですか」
「今のところ他の事件との関係はないとされている、が、しかし」
「先程の君の話を聞くと、もしかしたら関係あるかもしれないな」
「それって、どういう意味ですか」
「まだあまり報道されていないが、加害者である深山悠登が在籍している青応大学の校舎は八王子にある。君が先程話してくれた八王子近辺の大学を中心に発足したという『未来を変える会』に彼が入っていた可能性はゼロではないだろう」
「確かにその可能性はありますが『未来を変える会』に深山が入っていたからといって、それと事件が関係あるんでしょうか」
「さあ。それは全くもってわからないね。そもそも橋本君が変わったのは『未来を変える会』に入ったせいかもしれないという君の友達の話も、単なる憶測でしかない」
「だからこそ、君が調べてみる価値はあると思う。もちろんあくまで無理をしないことが前提だけどね。ところで話は変わるけど」
「病院を停電させた犯人がわかったみたいだよ」
「本当ですか」
「一応まだ事情聴取をしている段階らしいがとにかく、状況的に停電の時にその場にいた清掃会社、三戸里清掃サービスの社員、
「どうやって病院を停電させたんですか」
「実に簡単なことだった。病室に置いてあるテレビのプラグにあらかじめカッターで切れ目を入れて中の電線を切り、プラグの
「そんなことで停電するんですね。というか漏電って、なんですか」
「電線などが切れたり、被膜が剥がれたりすることで外部に電流が流れることだよ。防水性のない電化製品に水をかけることでも同じ現象が起きるけどね」
「この漏電をそのまま放置すると火災が起きる可能性がある。そこで電気を使いすぎると、ブレーカーが落ちて電気を使えなくなるように、漏電すると漏電ブレーカーが落ちて電気を使えなくなる」
「君の家にある、電気を使いすぎると落ちる安全ブレーカーには漏電ブレーカーもついているから、今度見てみると良い」
その言葉に学が頷くと、時哉は話を続けた。
「彼女はその方法で病院を停電させると、赤ちゃんの御遺体のある部屋へと行き赤ちゃんの御遺体を盗んだ。彼女は元々清掃のために二階の病室全てをまわっていて、その部屋のこともよく知っていた」
「また彼女は清掃の時は常にゴム手袋をしていて、病室から出たごみの回収もしていた。彼女はゴム手袋をした手に小さめのごみ袋を持つと、ごみ袋越しに赤ちゃんの御遺体をつかんだ。それを袋に入れ口を縛ると、紙ごみなどが入っている大きなごみ袋の中に紛れ込ませる」
「後は簡単だよ。病室を出た彼女はエレベーターの前に行くと、それをエレベーターの中に入れ、一階へのボタンを押した」
「看護婦たちは赤ちゃんの世話や、漏電という普通の停電とは違う初めての事態にとまどっていたから、誰も彼女のことなど見ていなかった」
「彼女の証言していることは今のところ、それで全てだそうだ」
「えっ」
学は疑問に思った。
「その後、赤ちゃんの御遺体をどうしたか、証言を拒否しているんですか」
「拒否しているんじゃなくて、彼女が知っているのは、いや、彼女が頼まれたのはここまでらしい」
「では、そのあと誰かが下で赤ちゃんの御遺体入りのごみ袋を受け取ったということですか」
「そうなるね。実際に一階の監視カメラを確認すると、二階が停電していた時、エレベーターが一階に降りてくるのを見計らっていたようにエレベーターに近づき、ごみ袋を回収する三戸里清掃サービスの社員らしき姿が映っている」
「誰か声をかけなかったんですか」
「その病院では、三戸里清掃サービスの社員が掃除用具の運搬にエレベーターを使って良いことになっている。だから三戸里清掃サービスの制服を着た者がエレベーターに近づいても、誰も不審には思わなかった 」
「ただ当時受付にいた職員は、その女性を見かけたのは初めてだと証言している」
「また、今わかっている情報だと、その容疑者は背が高く、髪は白髪まじりの黒髪が軽く波打ち、顔は大きなマスクと縁なしメガネのせいでわかりづらいが若々しく見えるということ位で、容疑者のその後の足取りなどはまだわからない」
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