数見景子の災難の十日目

横沢真央が殺されてから十四日目の朝を迎えた。このわずか二週間の間に三戸里市では四つの大きな事件が起きた。それに加えて警察が立て続けに起きる事件に目を奪われているのを幸いと、スリや泥棒などが活躍した。今まで全国的には知られていない無名の市だった三戸里市は全国ニュースで度々取り上げられ話題になった。インターネットでは今や三戸里市についてあることないこと様々なことを書き込まれ、話題にならない日はない。三戸里市民はこのような状況に苛立ちを隠せないでいる。


午後九時、三戸里市三戸里市役所。今日は、雨がしとしとと降っている。三戸里市清掃センターの社員たちは、いつも通り清掃の仕事に取り掛かる。その中の一人に、パートタイマーの数見景子かずみ けいこがいる。彼女は四十四歳。結婚して十二歳と十歳の二人の息子がいる。次男が小学校に入学した四年前、九時から三時までのこの仕事に応募した。給料はあまり高くないが、人間関係はそこそこよく景子はこの仕事を気に入っている。彼女は清掃の仕事に取り掛かる前に会社の作業着に着替えゴム手袋を手にはめ業務用のゴミ袋を三枚持つと、市役所内で他の社員と共に班長の小森美代子から今日の仕事の段取りを聞いた。そのあと、市役所の後方にある立体駐車場へと急ぐ。ここは市役所の駐車場であり、景子が清掃を担当している場所である。彼女はエレベーターで最上階の五階に行き、そこから来場する市民の邪魔にならないように駐車場に落ちているゴミを拾い、床にガムがついていればそれ剥ぎ取る。今日もそのやり方で三階まで降りてきたときだった。景子は駐車場のコンクリートで覆われた床に、小さいリュックサック位の大きさの物が落ちていることに気がつく。近付くとそれは口を結んだ白いビニール袋であった。駐車場を利用した誰かが置いていったゴミと考え、あらかじめ用意していた業務用ゴミ袋に機械的に入れようとして、景子は班長の言葉を思い出す。班長は落ちている袋の中に危険物があるかもしれないので、全部確認するようにと言っていた。勿論大抵はお菓子の袋や、丸めたテッシュペーパーが入っているだけなのだが、一応確認しなければと思い袋の口を開ける。中には赤黒い物体が入っていた。


「なに」


景子は不思議に思いその物体をつまみ上げ目の高さまで上げる。その輪郭をしげしげと見て、その物体の正体に思い至ったとき、景子は悲鳴をあげる。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る