インフィニティアンドエンプティ・ワナビーズ

八矢ナリ

夜明け前

夢はいつしか手段に変わっていた。

小説家。作家。文豪。シナリオライター。脚本家。

活字に携わるプロ、大勢の人からもてはやされる創造者。

そういうものに、私はずっとなりたがっている。


原作が映画化されたら、主人公は今をときめく9人組男性アイドルグループの絶対センターのあの子にやってもらいたい。


脇はベテランの俳優陣で固める。主題歌はもちろん、ずっと追いかけている5人組女性アイドルグループに歌詞を提供して歌ってもらう。

クイズ系バラエティ番組で知識をひけらかすのもいい。

文藝雑誌でマタヨシナオキと対談してそれをきっかけに交際するのも夢じゃない。

私大の雄「香稲田カセダ大学中退」という、誰もが持てるわけじゃない、とっておきの箔もある。


そんな妄想が捗るばかりで、肝心のWordファイルはいつまで経っても真っ白のままだった。

公募の募集要項が載っているページをブックマークしては、賞(必ず一番いいやつ)を取った気になって賞金の使い道ばかりを考える日々。自分の作品の資料になるからと、マンガや小説を買い込んで満足する日々。もう何年もこの状態が続いている。


『どうしてガムシャラに書けないの?』心の中の自分1。

『だって、仕事もあるし、その後は旦那さんのご飯も作らなきゃいけないし…』心の中の自分2。

自己批判と自己弁護で日が暮れる。腹が減り、減った腹を満たせば眠たくなる。

上書き保存する必要もなく閉じられるWord。暖かい布団に挟まれて閉じられる二つのまぶた


『また今日も書けなかった……』心の中の自分3。

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