第2話
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街は夕日に浸り、ビルの合い間に暗い影を落としていく。
家からここまで向かうまでの間、様々な人とすれ違ったが、その多くは一日の疲れを顔に湛えた帰路につく人ばかりだった。
そんな中、今から出勤する自分が異質であるかのように感じた。
ホストクラブ『パラディゾ』の裏手のドアの前で、僕は唾をごくりと飲み込んだ。
今日は初出勤だ。
一度、店長の菱田さんとの顔合わせのため『パラディゾ』には訪れたが、仕事が始まる前であったため、仕事の様子はもちろん、職場の人間の顔さえ見ていない。
久しぶりの仕事であると同時に初めての仕事であり、いろんな意味で緊張は既に最高潮に達していた。
もらった裏口の鍵をぎゅっと握りしめ深呼吸する。
お、落ち着け、落ち着け……!
緊張で固まった体を解すように、肺をゆっくり動かす。
すると、
「おい、アンタ、ここで何してんだよ」
低い声が後ろから投げ掛けられ、びくりと肩が飛び跳ねた。
振り返ると、怪訝そうにこちらを睨みつける高校生くらいの男の子が立っていた。
背は自分より少し低めで、目つきは怖いが、スーツに身を包んでおり、顔も整ったきれいな顔をしているから、ここの従業員なのかもしれない。
「あ、初めまして。今日からここで働かせてもらうことになっている青葉幸助と申します」
僕が慌てて挨拶しぺこりと頭を下げると、男の子は胡乱気な表情で顔を近づけてきた。
値踏みするように上から下まで見られ緊張する。
確かに、こんな三十五のいい歳した男が突然現れ、同じホストだと言えば疑いたくもなるだろう。
しかし、
「あ! そういえば人が足りないから募集するって言ってたな!」
彼の中で僕の存在が合点いったようで、警戒心剥き出しの態度が氷解した。
「いやぁ、すいません。怪しんだりして。俺、ここでホストしてる
先ほどの態度とは一転して、屈託のない笑みを浮かべる右京君にほっと胸を撫で下ろす。
「こちらこそよろしくお願いします」
「敬語じゃなくていいですよ、青葉さんの方が年上だし。あ、よかったら、中、案内しますよ。一緒に入りましょうか」
ドアを開け、右京が招き入れてくれる。
若い、しかもホストを生業とするような派手な男の子たちが多くいる職場に果たして自分は馴染めるだろうかと心配していたが、少なくとも彼とは上手くいきそうだ。
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