第14話
会場には既に何人かお客さんがきていて席に座っていた。
親子連れが多いかと思ったけれど、意外にも僕らのように大人だけできている人も何人かいた。
子供ばかりの中、浮いてしまうんじゃないかと心配していたので少しほっとした。
「さっきもらったやつ、中なんだった?」
椅子に腰を下ろして開口一番、聖夜さんが訊いてきた。
さっきもらったやつ、というのは、入場の際、入場者全員へのプレゼントということでもらった小さな紙袋だ。
「あ、なんでしょう。開けてみますね」
聖夜さんの歩調について行くのに精一杯で、鞄に仕舞う暇もなくずっと手に握っていたそれを開けると、中にはトランプくらいのカードが入っていた。
そのカードには紅葉ちゃんが載っていたが、ポニーテールの髪をおろしていたので一瞬誰だか分からなかった。
それに衣装も僕が昨日サイトで見たものとは違ってさらに豪華な気がした。
「あれ? これ、紅葉ちゃんですよね? いつもと違うような……」
「うそだろ! マジか!」
カードを見せた瞬間、聖夜さんが目を見開いて叫んだ。
「ちょ、ちょい、見せろ!」
僕からカードをバッと取ると、目の前までカードを寄せてじっと凝視した。
そして、額を手で覆い椅子の背にもたれハァァァと大きな嘆きに近い溜め息を吐いた。
「ウソだろ……。超レアじゃん……。うわぁ……うそ、マジ紅葉たんプリンセスバージョン尊い……。やべぇ、尊すぎて死ぬ……クソっ! 俺が後から入場しとけば……!」
悲嘆から一転して、自分の膝を悔しそうに拳で叩く聖夜さんに僕はおろおろした。
ど、どうしよう、僕はどう声を掛けたらいいんだろう……。
聖夜さんはもう一度大きな溜め息を吐いてから顔を上げて、僕にカードを差し出した。
「……これマジでレアだからな。家宝にしろ。額縁に入れて飾っておけ」
そう言う聖夜さんの目は少し潤んでいる。
よっぽどこのカードが欲しいのだろう。
僕は聖夜さんの目とカードを交互に見て、それからカードを持つ聖夜さんの手ごと彼の方へ押し返した。
「あの、もしよかったらもらってください」
「は?」
聖夜さんは信じられないといった顔で僕の顔と自分の方へやってきたカードを何度も見た。
「い、いいのかよ?」
上目遣いのような視線でちらりと僕の顔を覗く聖夜さんは、まるで臨時のお小遣いをもらった子供のような嬉しさと困惑が入り交じった表情をしていた。
僕は笑って頷いた。
「はい、もちろんです。価値をちゃんと分かってる人が持ってる方が、このカードも喜ぶと思うので」
「……映画観た後、アンタが欲しくなってもたぶん俺返せる自信がねぇけどいいの?」
「大丈夫ですよ、そんなこと言いませんよ。それに男に二言はありません」
力強くそう言うと、聖夜さんは僕の手を取りバッと頭を下げた。
「マジ、ありがとう……っ! すげぇ嬉しい。アンタ神かよ……! いや、つーか俺の中で神確定」
「え、いやいや、神様なんてそんな大袈裟だよ」
大仰な感謝の言葉に笑っていると、聖夜さんが顔を上げた。
「よし! 礼にフラキュアの魅力を上映時間までにたっぷり教えないとな!」
嬉々とした声で言いながら、鞄の中から本を取り出した。
フラキュアのキャラクターが表紙にのっていて、本の上からいくつも付箋が伸びていた。
「公式のファンブックだ。本当は全部見て欲しいけど時間ないから、重要な部分だけピックアップしてる。時間ないからちゃんと聴けよ!」
「は、はい!」
なぜだかスパルタコーチのように見えて、僕は慌てて背筋を伸ばした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます