第15話


****


聖夜さんの説明は、手短でありながら要点を得ていたのでとても分かりやすかった。

分からない箇所について質問するのは最初は少し勇気が要ったけれど、思いの外、質問されると嬉しそうだったので安心して訊くことが出来た。

それに説明をする聖夜さんはとても楽しそうで、話を聞いていると僕まで楽しくなってきて、上映時間が迫るほどに胸が高鳴った。


上映まであと五分となり、だいぶ席も埋まってきた。

大人もいるとはいっても子供の方がやはり多く、可愛らしいざわめきが満ちていた。

しかし、突然、大きな泣き声が場内に響き渡った。

泣いていたのは三列前に座る三歳くらいの女の子だった。


「いやだー! くれはちゃんがいい!」

「こら! わがまま言わないの! 他の人の迷惑になるでしょう」


隣に座るお母さんが慌ててなだめるけれど、女の子は「くれはちゃんがいい!」の一点張りで泣き止む気配がない。

恐らく入場の時にもらったカードが紅葉ちゃんじゃなかったのだろう。


「後で紅葉ちゃんの買ってあげるから」

「いやだー!」

「もう! うるさい! こんなことで泣かないの!」

「いやだー!」


上映時間も差し迫っていてお母さんの口調にも焦りが滲んで、強いものになっている。

それに対抗するように女の子の泣き声も大きくなる。

周囲にはうるさそうに顔を露骨に顰める人もいた。

自分のカードと交換してあげれたらいいのだけれど、残念ながら聖夜さんにあげてしまったのでそれはできない。


まさか返してとも言えないし……。


ちらりと聖夜さんを見ると、突然、聖夜さんが立ち上がった。

そして階段を降りて女の子のいる席に向かっていった。


ま、まさか、クレームを言いに行くつもりじゃ……!


あり得ないことではなかった。

フラキュアが大好きな聖夜さんにとって子供の泣き声は映画鑑賞の邪魔以外の何ものでもないだろう。

でも、相手は子供だ。

泣くのは仕方がないし、泣き止まないことだってよくあることだ。

誰もがそういう時期を経て大人になったのだ。

だから子供が泣くことに文句を言う資格なんてこの世にきっと誰もいない。

それに文句なんて言ったら必死に子育てをしているお母さんを傷つけてしまうことになりかねない。

そんなことをしてまで観る映画はどんな傑作も絶対に面白くない。


僕は急いで立ち上がり、聖夜さんのもとに向かおうとした。

けれど、僕が立ち上がった時には既に聖夜さんは女の子の横まで辿り着いていた。

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