第11話
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いつも通り、厨房の仕事や掃除のため早めに出勤すると、更衣室には意外な人物がいた。
「……あれ? 聖夜さん?」
僕の声に聖夜さんの肩がビクっと跳ねた。
聖夜さんは訝しげに僕の方を振り返った。
「……どうも」
「聖夜さんがこんな時間に珍しいですね」
人気ホストの人は同伴でくることが多いので、こんな時間に更衣室で会うことは滅多にない。
「いや……ちょっと探しものがあって……」
そう言うと聖夜さんは口をつぐんだ。
昨日と同じ無表情だったものの、その表情からは焦りの色が窺えた。
「大事なものですか?」
「まぁ……」
「よければ一緒に探しますよ!」
「……いや、自分で探すからいい」
よかれと思って申し出たのだけれど、聖夜さんはすげなく断った。
あまり干渉されるのは好きじゃないのかもしれない。
そう思った僕は「じゃあもし落とし物を見つけた時は声をかけますね」とだけ言って自分のロッカーに向かった。
トイレ掃除などもあるのでまだ着替えずに荷物だけ置いてロッカーを閉めようとした時、ハンガーにかけているスーツのポケットの小さな膨らみに気づいた。
あ、そういえば、昨日は桜季さんとの件で持ち主を探すのすっかり忘れてた!
ポケットの中から、昨日拾ったフラワーキュアーズのキーホルダーを取り出す。
あらためて考えると、子供向けのキーホルダーを持っている人が思い浮かばない。
もしかすると、桜季さんみたいに姪っ子さんが好きで買ったものかもしれない。
だとすると、持ち主は姪っ子さんに渡せず困っているかもしれない。
ふと、まだ更衣室を歩き回り捜し物をする聖夜さんの姿が目に留まった。
もしかして聖夜さんの?
分からないけれど聞いてみるだけ聞いてみよう。
「あの、聖夜さん。もしかして捜し物ってこれですか?」
聖夜さんが振り返る。
僕の手からぶら下がるキーホルダーを目にした瞬間、聖夜さんの目がカッと見開かれた。
あ、もしかして、人が真剣に捜し物をしてるのにって怒らせたかな……。
考えてみれば、成人男性に失礼な質問だったかもしれない。
慌てて謝罪と弁解を連ねようとした時、
「紅葉(くれは)たん!」
「え?」
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