第11話


****


いつも通り、厨房の仕事や掃除のため早めに出勤すると、更衣室には意外な人物がいた。


「……あれ? 聖夜さん?」


僕の声に聖夜さんの肩がビクっと跳ねた。

聖夜さんは訝しげに僕の方を振り返った。


「……どうも」

「聖夜さんがこんな時間に珍しいですね」


人気ホストの人は同伴でくることが多いので、こんな時間に更衣室で会うことは滅多にない。


「いや……ちょっと探しものがあって……」


そう言うと聖夜さんは口をつぐんだ。

昨日と同じ無表情だったものの、その表情からは焦りの色が窺えた。


「大事なものですか?」

「まぁ……」

「よければ一緒に探しますよ!」

「……いや、自分で探すからいい」


よかれと思って申し出たのだけれど、聖夜さんはすげなく断った。

あまり干渉されるのは好きじゃないのかもしれない。

そう思った僕は「じゃあもし落とし物を見つけた時は声をかけますね」とだけ言って自分のロッカーに向かった。

トイレ掃除などもあるのでまだ着替えずに荷物だけ置いてロッカーを閉めようとした時、ハンガーにかけているスーツのポケットの小さな膨らみに気づいた。


あ、そういえば、昨日は桜季さんとの件で持ち主を探すのすっかり忘れてた!


ポケットの中から、昨日拾ったフラワーキュアーズのキーホルダーを取り出す。


あらためて考えると、子供向けのキーホルダーを持っている人が思い浮かばない。

もしかすると、桜季さんみたいに姪っ子さんが好きで買ったものかもしれない。

だとすると、持ち主は姪っ子さんに渡せず困っているかもしれない。


ふと、まだ更衣室を歩き回り捜し物をする聖夜さんの姿が目に留まった。


もしかして聖夜さんの?

分からないけれど聞いてみるだけ聞いてみよう。


「あの、聖夜さん。もしかして捜し物ってこれですか?」


聖夜さんが振り返る。

僕の手からぶら下がるキーホルダーを目にした瞬間、聖夜さんの目がカッと見開かれた。


あ、もしかして、人が真剣に捜し物をしてるのにって怒らせたかな……。


考えてみれば、成人男性に失礼な質問だったかもしれない。

慌てて謝罪と弁解を連ねようとした時、


「紅葉(くれは)たん!」

「え?」

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