ヒュプノスゲーム/鰤/牙
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虎の鳴く夜に
第一夜 虎の鳴く夜に―エクソシストのお仕事―
男の夢というのは如何なるものか。
例えば、スタイルの良い美女に囲まれて好き放題やるであるとか、自分の力で巨悪に立ち向かうであるとか、世界最強という言葉だって、立派な男の夢だ。
その少年は今まさに、おおよそ考え得るすべての男の夢を叶えようとしていた。
平凡な男子高校生であった彼は、ある日学校を襲ったテロリスト達に猛然と立ち向かい、クラスいちの美少女と共に唯一の生き残りとなった後、突入してきた謎の組織に監禁された。
その後なんやかんやあって隠れた能力が覚醒し、世界でも指折りの能力者として、組織のS級エージェントになった。クラスの美少女はA級だ。自分を拉致した美女の窮地を救ったり、彼女の悲しい過去を知ったり、熱烈な一夜を過ごしたり、クラスの美少女の悲しい過去を知ったり、熱烈な一夜を過ごしたり、無口で物静かな魔剣士と知り合って悲しい過去を知って熱烈な一夜を過ごしたりした。
で、今に至る。あ、途中で悪い奴らをこらしめたりもした。
彼は今、ともに視線を潜り抜けてきた美女美少女に囲まれて幸せだった。戦いは小康状態にある。少し困っていることと言えば、彼女たちが自分を巡って喧嘩をすることだろうか。戦いともなれば抜群のチームワークを見せるのに、どうしてこういう時は仲良くできないのか。まったく、やれやれだ。
「なあ、ヒカリ」
少年は、付き合いの一番長い彼女にそう言った。
「なあに、リュウジ」
「俺、まだ夢みたいだって思うんだ。おまえとこうして、ここにいられること」
「ふふ……。私もよ」
ほんの少し前まで、彼女のことを
ずっと憧れていた女の子だった。クラスの中で言葉を交わしたのは、あのテロリスト事件があった時だ。彼女の震える手を掴むことができて、その時彼の中で、ひとつの望みが実を結んだ。
「ねえリュウジ……。キスして」
「ああ……」
顔を近づけ、熱っぽくささやく彼女に、彼は小さく微笑む。
本当に、夢みたいだ。今こうして、彼女と触れ合えること。それ自身が……。
「ずいぶん良い夢を見てるみたいじゃないか、少年」
みしり。空間の軋むような音がし、
よれよれのシャツに、くたびれたコート。不精髭を生やしただらしない風体の男は、その真横に、白くしなやかな身体を持つ大きな虎を従えていた。泥まみれのブーツが、高級な絨毯を汚している。
「あんた……何者だ、どうしてこの部屋に……」
「まあちょいと仕事でな。しかし、良いよなぁ。大小よりどりみどりの女の子に囲まれてよ。まさに、男の夢って奴だ」
「マスター、最低です」
横から茶々を入れたのは、男が従えている白い虎だった。虎は女の声をしていた。
男はちらりと虎を見てから、ふんと鼻を鳴らした。
「そういう口は、美女に化けてから利きな<
「私が美女に化けては、好き者のマスターの気が
「ヒカリ、みんな、下がってるんだ。こいつら、なんだか危ない……!」
見れば、隆二の愛する少女は、顔を青ざめさせ、カタカタと身体を震わせていた。怯えているのだ。
この子を守らなければ、と隆二は思った。強くそれを意識し、願えば、それを実現するための力が湧いてくる。隆二は今までもずっとそうやって、愛する者たちを守ってきたのだ。
そんな隆二の様子を見て、白い虎が口を開く。
「欲望中枢が刺激されているようですね」
「ああ、今回の夢魔はずいぶん
男は、口にタバコをくわえ、火をつけた。
「あいつを逃がさないようにここを閉じろ、<悪食>」
「俺は逃げも隠れもしない!」
「いや、あんたじゃねぇ。あんたじゃねぇんだ。俺の目当てはさ」
火のついたタバコを、何もない虚空に押し付ける。ジジ……という音がして、空間が焦げ付いていく。煙が部屋の中を取り囲み、場所そのものが書き換えられていく。宙に浮かび上がるように出現した時計盤の上では、長針が目まぐるしく回転をしていた。
「おまえ……! ヒュプノスのエクソシストか!」
隆二の耳元で、ヒカリが言う。今までに聞いたことのないような、おぞましいうめき声だった。
男はヒカリの方へは視線を向けず、隆二に向けて苦笑いを浮かべる。
「悪いな少年。良い夢だったとは思うが」
「ゆ、夢……。夢……?」
「そう。今度は現実の方で、その夢を叶えるんだな」
男はタバコを投げ捨てると、ゆっくり歩きだす。冷たい石畳に変わった床を叩くブーツは、いつの間にか泥塗れのものではなくなっていた。白くしなやかな虎を従えたまま、コートを翻す男は静かに「さぁ」とつぶやく。
「さぁ、夢から
『なーにがが「夢から醒める時間だ」ですか』
脳内にキンキン響く<悪食>の声に、
『聞いてて背筋が泡立ちました、私』
「むしろお前はなんで俺に対してそう辛辣なんだ」
勤務明けの休日である。たまには羽根を伸ばしたいと、渋谷に足を運んでみても、これだ。まったくもってリラックスできない。凌ノ井はもともと、夢魔という生き物を心底嫌っているが、とりわけこの<悪食>は、夢魔の癖に妙に口うるさくて、それが好きになれない。
道玄坂の入り口に立ちながら、凌ノ井はスクランブル交差点を行き交う人々を眺めた。ここにいる何人が、今晩健全な夢を見られるのだろう、と考えてしまうのは、もう一種の職業病のようなものだ。
この世界には夢魔という、人の心に宿る化け物がいて、それは宿主が寝ている間に夢の世界を支配する。夢を良いように操って、芽生えた欲望を刺激し、それを糧に力をつけるのが夢魔だ。
凌ノ井の仕事は、その夢魔を退治することである。
ある少年の夢に巣を作った夢魔を1匹退治してきたのは、つい昨日の晩のことだ。役満というか、なんというか、見ているこっちがこっぱずかしくなるような夢だった。ありふれた漫画を読んでいるような気分だった。
『私も、ありふれたライトノベルを読むような感覚でマスターを見ておりました』
「おまえ本なんて読むのか」
『当然です。そんじょそこらの夢魔とは格が違いますよ』
凌ノ井の中にも、1匹の夢魔がいる。本人の言葉通り、それもかなり強力な奴だ。
夢魔を退治するには、宿主の夢の中に入らなければならない。宿主の夢の中に入っても、そのままでは夢のルールに抗うことができない。だから、俗にエクソシストと呼ばれる彼らは、自分自身の中に飼いならした夢魔を使って、夢のルールを従える。
<悪食>は女の夢魔だ。凌ノ井が名付けた。だが、今になって思うと、『性悪』と名付けるべきだったと反省している。
『もっとスマートに実直に、仕事をなされてもよいのではないですか? 無意味にカッコつけたりするのは、痛々しいというか、寒々しいというか……』
「うるっせぇな! もう済んだことだろうがッ!!」
虚空に向けてひときわ大声で叫ぶ凌ノ井を、通行人が一斉に見た。凌ノ井はすぐさま、きまりが悪そうにサングラスをかけなおす。そう、彼らは夢魔の存在を知らない。凌ノ井の心の中に、そのような生き物がいることなど、考えも及ばない。
くすくすくす、と<悪食>の笑う声が脳内に響いた。
『そういう、微妙に締まらないマスターのことを私は敬愛しております』
「いや……。そういうの良いから」
『そうですか? ではダメ出ししますと、そのよれよれのシャツとネクタイで渋谷に来るのは、』
「黙ってろって意味な」
凌ノ井は流れる通行人の群れに目をやってから、シャツの襟元をピッと整える。
彼が目を止めたのは、眼鏡をかけた清楚で大人しそうな、黒髪の女性だ。フリルのついた白いワンピースを着て、肩からバッグをかけている。小さく咳ばらいをして彼女に近づく凌ノ井を、<悪食>は引き留めなかった。
「よう、彼女」
凌ノ井は、その女性の前に立ちはだかるようにして言った。
女性はわずかに肩をびくっとさせて、恐る恐る、凌ノ井の顔を見上げる。
「良かったら、俺と一緒にお茶しない?」
眼鏡をかけた清楚で大人しそうな黒髪の女性は、凌ノ井の顔をまじまじと見つめたまま、こう返してきた。
「は? キモいんですけど」
硬直した凌ノ井の横を、女性はスタスタ通り過ぎていく。くすくす、と<悪食>が笑った。
『いやあ、最低です。マスター』
「なんだ、夢魔の癖に欲望に根差した人の行動にケチつけんのか。おまえは」
『いいえ。服のセンス、髪型のセンス、言葉選びのセンス、すべてが最低です。ナンパの場所に渋谷を選ぶという安直さも最低。女性を見る目もありませんね』
「おい」
『私に言ってくだされば、力をお貸ししますよ。目当ての女性の好むファッションのセッティングと、会話誘導。それでもダメなら夢の中で彼女を抱かせてさしあげます。いかがです?』
「おまえにそんな夢は見せられねぇよ」
凌ノ井はタバコに火をつけて、渋谷の空を覆う曇天に視線を移した。
こうやって休日を無為に過ごすのもバカバカしい。だが、他にやることがあるかというと、まったく思い浮かばない。家にあるゲームも、全部飽きてしまったし。他の同僚みたく、もっと別の、打ち込める趣味を見つけるべきだろうか。
――おお、凌ノ井。どうじゃ最近は。儂か? 儂は裁縫にハマっておる。この仕事は公休日が多いからのう! ほれ、どうじゃなかなかのもんじゃろう。次はお前さんに、マフラーでも編んでやるかのう!
不意に、同僚の
「これ以上渋谷にいてもしかたねぇ。カレー食って帰るか」
『ムルギーですか? ムルギーですか?』
「おまえに食わせる分はねぇぞ」
『マスターが食べた感想は私にも伝わりますので。楽しみです』
道玄坂を登ろうと、きびすをくるりと返した時、凌ノ井のポケットの中で携帯が鳴った。
『タイミングが悪いですね』
「そうだな」
わざわざ凌ノ井に電話をかけてくる人間など、そう多くはない。嫌な予感がした。
「俺だ」
『昨日の夢魔退治はお疲れ様でした、凌ノ井様』
電話口の向こうから聞こえてくる男の声は、ミントハーブが喉元を突き抜けていくときのような、鋭い清涼感を伴っている。凌ノ井はタバコの煙を吐き出しながら、応じた。
『被害者にも後遺症はなく、記憶処理の方も万全です。ただし、憧れのクラスメイトへのアタックは玉砕に終わったようです』
「俺はそういう、事後報告には興味がないんだよ。
『それは失礼いたしました。では早速本題の方に入らせていただきたいと思います』
明日のシフトに入ってはいただけませんか、と、通話先で男は言った。
来た、と凌ノ井は思った。
「明日のメインは鋸桐じゃないのか」
『鋸桐様は、昨晩から博多です。サブに入られている
よどみない報告を受けて、額を押さえる凌ノ井。
「それさぁ棺木、俺にはサポがつかねぇの?」
『今のところ夢魔事件は他に発生しておりませんので、凌ノ井様は待機していただく形になります。何事もなければ、当店で一日中過ごしていただいても結構。休日出勤手当も出ます』
もちろん、出動なさるようなことがあればサポートはいたしますよ、と棺木。
どうしたもんかな、と迷っていた凌ノ井である。タバコをくわえたまま、曇天を見上げ、目を細めた。
「わかった。電話でも埒があかねぇから、これからそっちに行く」
それだけ言って、相手の返事を待たずに通話を切る凌ノ井。ため息に載って紫煙が流れた。
携帯をジャケットの内側にしまい込んだところで、凌ノ井は視線に気づく。顔をあげれば、見知らぬ少女が先ほどから、じっとこちらを眺めていた。
「お、おお……?」
ブレザー制服に身を包み、マフラーを巻いた少女だ。眺めているというよりは、下から覗き込んでくるような仕草だった。渋谷の街並みに似合うような、ちょっと軽薄そうな女の子だった。
彼女の吸い込まれそうな目を正面から見て、そこで凌ノ井は、まず違和感に気づいた。
「……電話、終わった?」
少女は静かにそう尋ねてから、答えを聞かずに続けた。
「ダメだよ路上喫煙は。ちゃんと喫煙所で吸わないと。他の人に迷惑かかっちゃうから」
「ん、ああ……」
「携帯灰皿持ってる?」
「いや、持ってない」
「じゃあ、これ使って」
彼女が突き出してきたのは、小さな空き缶のように思えた。手に取ってみると、まだ半分程度中身の入っている、飲みかけの缶だということがわかる。凌ノ井は何も言わずに受け取って、しばらく注意深く、少女を観察した。
「それだけ。じゃあねー」
手をひらひらと振って、少女の姿が渋谷の雑踏に消えていく。
『……マスター、今の方ですが』
「ああ、わかってる」
凌ノ井は缶の中にタバコを捨てて、頷いた。
「憑かれてるな」
夢魔に、ということだ。少女の姿は、既にもう見えなくなってしまっている。
「棺木に身元を割らせよう。とりあえず身辺調査しねぇとな」
『あら、手癖が悪い』
凌ノ井の片手には、いつの間にか生徒手帳が開かれている。区内の高校の名前と校章が記載されていた。つい先ほどの少女のものだ。凌ノ井がこっそり抜き取った。
開いた生徒手帳には、少女の名前が書かれている。
実際のところ、ここで彼女の生徒手帳を抜き取ったのが、凌ノ井鷹哉にとっては大きな分岐点であった。
執事喫茶スリーピングシープは、東京都港区にある。棺木と名乗る男は、いつもそこにいた。
黒の燕尾服にモノクル、白い手袋をつけた線の細い男が棺木だ。年齢のほどは、よくわからない。20代前半だと言えばそんな気がしてくるし、実は40代に差し掛かっていると言えば、そのように見えてくる。いつもにこやかな笑顔を浮かべた、素性のよく知れない男だった。
スリーピングシープの客室は、防音性の高い個室となっている。サービスの高さと、演出される世界観への没入度の高さから、女性客のリピーターが極めて多い店だが、それらはすべて仮の姿に過ぎない。
要するに、公に秘匿された夢魔を狩る組織があって、その組織が隠れ蓑としている店のひとつが、このスリーピングシープなのだ。棺木は、凌ノ井のようなエージェント達の勤務体制の管理をする立場の人間であり、大雑把に言えば、上司である。
「……俺、コーヒーの方が好きなんだが」
棺木の淹れる紅茶を眺めながら、凌ノ井がぼやく。
「コーヒーはカフェインが入っておりますので、安眠妨害となります」
「紅茶だって入ってるだろうがよ……」
そう言いつつ、出されたものは飲む性分なのが凌ノ井だ。タダで飲めるものとなればなおさらである。
『相変わらず、素晴らしいお手並みですね。棺木さん』
「褒めていただいて光栄でございます。<悪食>様」
「<悪食>、おまえは飲めないだろ」
棺木の淹れた紅茶は、カップがふたつ分。凌ノ井の分と、<悪食>の分だ。夢魔の分も淹れるあたりに棺木の慇懃な性格がうかがえるが、実際、精神体である<悪食>は紅茶を飲めない。
『マスターの美味しいと感じる感情が伝わりますので』
「褒めていただいて光栄でございます。凌ノ井様」
「おいやめろお前ら」
実際のところ、コーヒー党の凌ノ井ですら唸るほどに、棺木の淹れる紅茶は美味い。
どうせ、茶葉が良ければ良いんだろ、と一度超高級の茶葉を取り寄せてみたのだが、凌ノ井自身が淹れたそれはさほど美味いとは感じられなかった。カネをドブに捨てたのは後にも先にもあの時だけだ。それ以来、棺木の紅茶には一目置いている。それは事実だ。
「それはさておき、沫倉様のことでございますね」
棺木はどこからともなくタブレット端末を取り出し、軽くいじって見せた。
すると、大きな窓のカーテンが自動的に締まり、個室の灯かりがゆっくりと消えていく。同時に壁が左右に開いて、大きなモニターが姿を見せた。
「ああ、渋谷で見かけた夢魔憑きだ。間違いない」
「沫倉綾見様。今年で17歳になられる方でございます。生い立ちのかなり特殊な方でございまして、早くにご両親を亡くされ、児童養護施設で育たれました」
この短時間で、よくそれだけの情報を調べられるものだ。凌ノ井は感心しながら、モニターに映る情報と棺木の言葉を両方、頭の中に入れていく。
養護施設で育った沫倉綾見だが、特に屈折することもなく、まっすぐな少女として育った。他人に分け隔てなく接し、学校では友人も多い。困っている人を見ればすぐさま助け舟を出すような女の子で、さらりと無茶をすることもある。
「俺、路上喫煙を注意されたぞ。そんな風には見えなかったんだが」
「他の方に迷惑がかかりそうな時は、そのようにするそうです。ただ、あまり決まりや規則を遵守する性格の方というわけでもないようですね」
一通りの情報を閲覧した後、凌ノ井は腕を組む。
「どう思う。<悪食>」
『順風満帆の生活です。夢魔に目をつけられるような、激しい欲求を持っているようには思えませんね』
「俺もそう思う」
夢魔は人間の欲を食らう。夢を思うまま操ってその欲を刺激し、肥大化させ、際限なく貪るのが夢魔という怪物だ。夢魔にとりつかれた人間は、やがてその望みを暴走させ、当初持っていたものとは違う方向へと変質させていくことが多い。
それでも、夢魔が目をつける以上、最初のきっかけとなる欲望があるはずなのだ。
昨日対応したばかりの、長瀬隆二少年などはわかりやすい。彼は憧れていたクラスメイトの少女とお近づきになりたいという欲望に目をつけられ、夢の中でどんどんその望みを暴走させていった。結果、あのよくわからない深夜アニメのような世界観ができあがったのだ。
「何かないのか。片思いの相手がいるとか、特定の友人と上手くいっていないとか」
「そういった情報は確認できていません。人間関係はいずれも良好。何人かの男子生徒に告白されていますが、後腐れの無い断り方をしていらっしゃいます」
組織に捕捉されると、こんな青春の些細な情報まで調べ上げられるのか。凌ノ井は、名も知らぬ男子生徒たちにいささかばかりの同情をした。
「となると、やはり家族か」
『あり得る線です』
幼い頃に失った家族。血の繋がった肉親が欲しい、という欲求を抱いているというのであれば、理解できる話だ。
「見たところ、沫倉様が日常生活に支障をきたしたという報告は特にありません」
「ああ、さっき会った時点で、割と健康そうだった」
長い間夢魔に欲望を蝕まれると、精神がやつれ、普段の生活に悪影響を及ぼす。そうでない、ということは、夢魔の活動がそこまで活性化していないという証拠だ。
「レベル2の初期段階ってところだな」
『であれば、欲望がそこまで暴走していない段階です』
凌ノ井は、空になったカップをソーサーの上に置いた。
「棺木、明日、沫倉ちゃんを病院に収容できるか。活発化する前に潰しておきたい」
「では、明日出勤していただけるということで、よろしいですか?」
「仕方ねぇだろ。ちゃちゃっと片付けて、待機に入るから、休日手当は頼んだぜ」
棺木は恭しく礼をする。今から関係病院の個室を押さえるのは大変だろうが、それくらいはやってもらわねば困る。理由は如何様にもでっち上げれば良い。そのための組織なのだ。
『盗んだ生徒手帳も返さないといけませんしね』
「ま、そうだな」
テーブルの上に、沫倉綾見の生徒手帳を置いて、凌ノ井は頷いた。懐からタバコを一本取り出し、口にくわえる。ライターをどこにやったか、と探し出したあたりで、棺木に
「凌ノ井様、当館は禁煙でございます」
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